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『野宿入門 ― ちょっと自由になる生き方』

評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください

この本は、高校時代に「野宿デビュー」してから十数年、野宿愛好者として実践を重ねてきた女性による、ユニークな野宿入門書です。

「野宿」という言葉には、どこかネガティブな印象があります。自然の中でのキャンプを野宿と称する人はいないし、バックパッカーや貧乏旅行者はそれなりにいても、駅や公園で野宿しながら旅するという人は、かなりの少数派でしょう。

それでも、呑みすぎて終電を逃し、財布にはタクシー代もなくて途方に暮れたという経験は、意外に多くの人がしているのではないでしょうか。そんなとき、ふつうは歩いて何とか家まで帰ろうとか、財布の中身と相談して、ネットカフェや24時間営業のファストフード店で朝まで時間をつぶそうとか考えるのでしょうが、そこに「野宿」という選択肢が加わるなら、お金の心配がないのはもちろん、いざというときでもなんとかなるという、心の余裕のようなものが生まれるかもしれません。

この本では、そうしたピンチを野宿のきっかけとして有効利用してしまおうという「消極的野宿」に始まって、自分からすすんで野宿を愉しむ「積極的野宿」まで、さまざまな野宿のスタイルや、野宿地の決め方、必需品、お巡りさんの職務質問対処法、夏の蚊や冬の寒さ対策、雨の日の野宿についてなど、野宿者が知っておきたい基礎知識の数々が、肩の力の抜けた、ユルい文章で解説されています。

安全対策のポイントにしても、便利な道具の活用法にしても、ちょっとしたスキルを身につけておくだけで、もしもの場合の野宿でも、それは格段に安全・快適なものになるはずです。

ただ、この本では、実際に野宿を経験していけばおのずと分かるような、こまごまとしたノウハウまでは触れられていないので、これをマニュアルのように使おうとしても、あまり役には立たないかもしれません。

この本の中にも書かれているように、野宿というのは実践をつうじて各自が自分なりの「野宿スキル」を高めていく部分が大きいし、この本で著者のかとう氏が力を入れているのは、「野宿」という、一般の人間にはとても縁遠い行為に、いかにして興味をもってもらえるか、そして、興味をもった人が、どうすればその最初の一歩を踏み出し、野宿の世界を垣間見ることができるのか、という点なのだと思います。

つねにお金と引き換えに、便利で安全で快適な生活を享受している私たちの多くにとって、野宿というのは、不便で危険で不快な体験そのものに見えるはずです。野宿のそんなマイナス・イメージを払いのけ、自分の小さなプライドとか、いつもと違う行動を嫌う日常の惰性とか、寝ている間に何が起こるか分からない不安など、自分の行動を制約するさまざまな心のバリアーを突破して、思い切って最初の野宿に至るまでには、人によって越えなければならない障害がたくさんあるのでしょう。

それでも、この本の一見ほんわかとした文章を読めば、そのうちの幾人かは、そうした障害を何となく乗り越えられる気がしてくるかもしれないし、野宿のネガティブな側面よりも、魅力的な側面に目が向くようになるかもしれません。

それは、自分の知識や知恵や感覚をフル稼働させて、刻々と変化する状況を読み、手に入るものだけを最大限に活用し、人とのコミュニケーション能力を駆使し、体を張って何とか無事に夜を乗り切るという、一連のプロセスを愉しむことであったりするのでしょう。

あるいは、それは、非日常的な体験をつうじて、自分をとりまく世界を深く濃く味わうこと、また、ギリギリの状況を切り抜ける経験を重ねることで、いざというときでも「なんとかなる」と思えたり、つねに幅広い行動の選択肢をもっていられるという意味で、本のサブタイトルにあるように、「ちょっと自由になる」ことだったりするのかもしれません。

ちなみに、私もこれまでに何度か野宿をしたことはあるのですが、いずれも、ちょっと特殊な状況でやむを得ずにしただけの話で、かとう氏のように積極的に野宿旅行を楽しむという域には到底及びません。

この本を読んでいると、誰でもその気になりさえすれば、野宿はいつでもどこでも始められる、例えば、自宅のすぐ近くの公園でだって寝られるんだということがよくよく分かるのですが、頭のなかに近所の公園を思い浮かべ、では、自分が今日の晩にでも、そこでゴロリと横になって眠れるだろうかと考えてみると、う〜む、私もまだまだ自由な人間からはほど遠いようです……。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書 

at 19:10, 浪人, 本の旅〜日本

comments(0), trackbacks(0)

『狩猟サバイバル』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本は、「サバイバル登山家」として知られる服部文祥氏の、サバイバル・シリーズ第3作です。
 サバイバル登山とは簡単に定義すると「電池で動くものはいっさい携帯しない。テントもなし。燃料もストーブ(コンロ)もなし。食料は米と基本調味料のみで、道のない大きな山塊を長期間歩く」という登山である。岩魚や山菜、ときにはカエルやヘビまで食べながら、ひとりで大きな山脈を縦断する。私がサバイバル登山と名前をつけた。

服部氏は、学生時代からさまざまなタイプの登山の経験を積み重ねていくうちに、「自分の力で山に登っているという強い実感」を求めて、そしてまた、生きている手ごたえや、自由の感覚を得るために、山の中で自ら食料を調達し、最低限の装備だけで登山をなし遂げるというスタイルにたどり着き、1999年から10年にわたって実践してきました。

ただし、これまでに行われたのは、主なタンパク源として岩魚を釣り歩くことができる、夏山でのサバイバルです。夏のサバイバルに成功したら、自然な流れとして、次は冬ということになるわけですが、服部氏は、やはり着々と手を打っていました。

彼は2005年から、山梨県の山村の狩猟チームに加わり、そこで狩猟のノウハウやケモノの解体などを学びつつ、平行して単独猟の実践も試みてきました。狩りを初めて3シーズン目に、ひとりで鹿を仕留めることに成功した彼は、2008年の2月、テントもコンロももたず、米と簡単な装備、そして猟銃を携えて、冬の南アルプスに分け入っていきます。

夏はともかく、厳冬期に不十分な食料・装備で山に入るのが、いかに危険なチャレンジであるかは、登山については全くの素人の私でさえ分かります。それにもちろん、いくら猟銃を持っているといっても、必ずしも獲物に遭遇し、仕留められるという保証はありません。

それがどのような山行になったのか、その詳細は、ぜひ本文を読んでいただきたいと思います。彼の登山のスタイルへの賛否はともかく、そのユニークな登山の記録は、充分読むに値します。

ちなみに、彼は自分の能力の限界をわきまえて行動しているし、状況次第では廃屋や山小屋にも泊まっています。ただ、もしも好天に恵まれていなかったら、もしも獲物を仕留めることができなかったら、彼は冬山から無事に帰還できたのだろうかと、読んでいて不安を覚えるのも確かです。

また、大型哺乳類を狩るという行為は、私の中に、さまざまな居心地の悪い感情を引き起こします。そもそも銃や狩猟の世界になじみがないために、そこに心理的な抵抗を覚えてしまうという理由が大きいのでしょうが、それだけではなく、個人の精神的な満足のために山の頂をめざす登山者が、そのための食料として鹿の命を奪うことは、はたして正当で必要な行為なのだろうかとも思うのです。

しかし、そんなことを言っている私も、ふだん平気で哺乳類の肉を食べているわけです。登山のために野生の鹿を殺すのがダメなら、ただ日々を生きるために、誰かに家畜の殺生をまかせるのはどうなのか、ということになるでしょう。

この本を読んでいて居心地の悪さを感じるのは、結局のところ、私が都市的で頭でっかちな生活にすっかり慣れきっているためで、これまで都合よく視野の外に置いてきた、生きることに伴うさまざまな根源的な問題と、改めて向き合わざるを得なくなるからなのかもしれません。

それでも私自身は、服部氏が実践するサバイバル登山そのものについては、そういう山登りのスタイルがあってもいいと思うし、彼のユニークな山行記を通じて、そのワイルドな山旅を楽しませてもらっています。

事の是非はともかく、一般的な登山よりもはるかにハプニングの多いサバイバル登山のプロセスや鹿狩りの描写は、読んでいてとてもスリリングだし、それは自ら体験した者でなければ書けない、優れたノンフィクションになっていると思います。

ただ、サバイバル登山は、誰にでも許されるものではないという気はします。危険で難易度が高いからだけでなく、環境への負荷を考えると、多くの人間が実行できる性質のものでもないからです。もしも大勢の登山者が中途半端に彼のマネをして、あちこちで焚き火をしたり野生動物を狩るようになったら、すぐに山が荒れてしまうでしょう。

服部氏の場合は、山の中で自由に振る舞うことと引き換えに、食料・装備・行動について、自らに厳しい制約を課しています。しかし、自然保護に関して次第に厳格になっていく昨今の風潮を考えると、サバイバル登山というスタイルは、実践者がほとんどいない今だからこそ黙認されている、ある意味では特権的な行為なのかもしれません。

というわけで、この本を読んでいると、心の中にさまざまなジレンマが浮かび上がってくるし、そして、それは自分自身の現在の生活を批判的に照らし出すものでもあるために、けっこう居心地の悪い思いもするのですが、むしろだからこそ、 服部氏の本は、ユニークな登山の方法論を通じて、私たちの社会がいつの間にか覆い隠してしまった、この地上で人間が生きることの生々しさを垣間見せてくれる、貴重な存在なのだと思います。


服部文祥著 『サバイバル登山家』の紹介記事
服部文祥著 『サバイバル! ― 人はズルなしで生きられるのか』の紹介記事


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書 

at 19:20, 浪人, 本の旅〜日本

comments(0), trackbacks(0)

『スットコランド日記』

評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください

この本は、紀行エッセイストの宮田珠己氏が、2008年4月から「WEB本の雑誌」上で連載した日記のうち、最初の1年分をまとめたものです。

彼の作品を読んだことのある方ならおなじみの、どこまでが本気で、どこからが冗談か分からないような独特の文体で、「いつも前向きに後ろ向き」な彼の日常がユーモラスに綴られています。

日記を読むと、宮田氏はさすがに旅行作家らしく、日本各地へ頻繁に取材の旅に出ているのですが、その帰りには寄り道をして別の場所を旅し、さらにプライベートでも家族を連れて、あるいは一人で、しょっちゅうあちこちに出かけています。それどころか、仕事場で原稿を書いているときも、天気がいいと机に向かっていられなくなり、ついふらふらと外出してしまうほどです。

ここまでくると本人も書いているように、まさに「外出依存症」で、宮田氏の旅好きは筋金入りです。

それにしても、読んでいてうらやましいのは、彼が、フリーならではの時間的な自由を享受しながら、さまざまな分野に好奇心のアンテナを張りめぐらし、自分自身の興味関心の方向性にも忠実に従って、自分にとって未知な風景・未体験の世界を探求し続けていることです。

仕事をきちんと仕上げ、家族を養い、子供たちともしっかり遊びつつ、そういう生き方を貫くのはかなり大変なはずで、実際、この日記からは経済的・精神的な厳しさも垣間見えますが、それでも何とか生活が成り立っていて、その生活ぶりをユーモラスに語る余裕があるというのは、やはり宮田氏の才能なのでしょう。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 18:33, 浪人, 本の旅〜日本

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