2011.09.05 Monday
『野宿入門 ― ちょっと自由になる生き方』
評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
この本は、高校時代に「野宿デビュー」してから十数年、野宿愛好者として実践を重ねてきた女性による、ユニークな野宿入門書です。
「野宿」という言葉には、どこかネガティブな印象があります。自然の中でのキャンプを野宿と称する人はいないし、バックパッカーや貧乏旅行者はそれなりにいても、駅や公園で野宿しながら旅するという人は、かなりの少数派でしょう。
それでも、呑みすぎて終電を逃し、財布にはタクシー代もなくて途方に暮れたという経験は、意外に多くの人がしているのではないでしょうか。そんなとき、ふつうは歩いて何とか家まで帰ろうとか、財布の中身と相談して、ネットカフェや24時間営業のファストフード店で朝まで時間をつぶそうとか考えるのでしょうが、そこに「野宿」という選択肢が加わるなら、お金の心配がないのはもちろん、いざというときでもなんとかなるという、心の余裕のようなものが生まれるかもしれません。
この本では、そうしたピンチを野宿のきっかけとして有効利用してしまおうという「消極的野宿」に始まって、自分からすすんで野宿を愉しむ「積極的野宿」まで、さまざまな野宿のスタイルや、野宿地の決め方、必需品、お巡りさんの職務質問対処法、夏の蚊や冬の寒さ対策、雨の日の野宿についてなど、野宿者が知っておきたい基礎知識の数々が、肩の力の抜けた、ユルい文章で解説されています。
安全対策のポイントにしても、便利な道具の活用法にしても、ちょっとしたスキルを身につけておくだけで、もしもの場合の野宿でも、それは格段に安全・快適なものになるはずです。
ただ、この本では、実際に野宿を経験していけばおのずと分かるような、こまごまとしたノウハウまでは触れられていないので、これをマニュアルのように使おうとしても、あまり役には立たないかもしれません。
この本の中にも書かれているように、野宿というのは実践をつうじて各自が自分なりの「野宿スキル」を高めていく部分が大きいし、この本で著者のかとう氏が力を入れているのは、「野宿」という、一般の人間にはとても縁遠い行為に、いかにして興味をもってもらえるか、そして、興味をもった人が、どうすればその最初の一歩を踏み出し、野宿の世界を垣間見ることができるのか、という点なのだと思います。
つねにお金と引き換えに、便利で安全で快適な生活を享受している私たちの多くにとって、野宿というのは、不便で危険で不快な体験そのものに見えるはずです。野宿のそんなマイナス・イメージを払いのけ、自分の小さなプライドとか、いつもと違う行動を嫌う日常の惰性とか、寝ている間に何が起こるか分からない不安など、自分の行動を制約するさまざまな心のバリアーを突破して、思い切って最初の野宿に至るまでには、人によって越えなければならない障害がたくさんあるのでしょう。
それでも、この本の一見ほんわかとした文章を読めば、そのうちの幾人かは、そうした障害を何となく乗り越えられる気がしてくるかもしれないし、野宿のネガティブな側面よりも、魅力的な側面に目が向くようになるかもしれません。
それは、自分の知識や知恵や感覚をフル稼働させて、刻々と変化する状況を読み、手に入るものだけを最大限に活用し、人とのコミュニケーション能力を駆使し、体を張って何とか無事に夜を乗り切るという、一連のプロセスを愉しむことであったりするのでしょう。
あるいは、それは、非日常的な体験をつうじて、自分をとりまく世界を深く濃く味わうこと、また、ギリギリの状況を切り抜ける経験を重ねることで、いざというときでも「なんとかなる」と思えたり、つねに幅広い行動の選択肢をもっていられるという意味で、本のサブタイトルにあるように、「ちょっと自由になる」ことだったりするのかもしれません。
ちなみに、私もこれまでに何度か野宿をしたことはあるのですが、いずれも、ちょっと特殊な状況でやむを得ずにしただけの話で、かとう氏のように積極的に野宿旅行を楽しむという域には到底及びません。
この本を読んでいると、誰でもその気になりさえすれば、野宿はいつでもどこでも始められる、例えば、自宅のすぐ近くの公園でだって寝られるんだということがよくよく分かるのですが、頭のなかに近所の公園を思い浮かべ、では、自分が今日の晩にでも、そこでゴロリと横になって眠れるだろうかと考えてみると、う〜む、私もまだまだ自由な人間からはほど遠いようです……。
本の評価基準
以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。
★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします
JUGEMテーマ:読書
この本は、高校時代に「野宿デビュー」してから十数年、野宿愛好者として実践を重ねてきた女性による、ユニークな野宿入門書です。
「野宿」という言葉には、どこかネガティブな印象があります。自然の中でのキャンプを野宿と称する人はいないし、バックパッカーや貧乏旅行者はそれなりにいても、駅や公園で野宿しながら旅するという人は、かなりの少数派でしょう。
それでも、呑みすぎて終電を逃し、財布にはタクシー代もなくて途方に暮れたという経験は、意外に多くの人がしているのではないでしょうか。そんなとき、ふつうは歩いて何とか家まで帰ろうとか、財布の中身と相談して、ネットカフェや24時間営業のファストフード店で朝まで時間をつぶそうとか考えるのでしょうが、そこに「野宿」という選択肢が加わるなら、お金の心配がないのはもちろん、いざというときでもなんとかなるという、心の余裕のようなものが生まれるかもしれません。
この本では、そうしたピンチを野宿のきっかけとして有効利用してしまおうという「消極的野宿」に始まって、自分からすすんで野宿を愉しむ「積極的野宿」まで、さまざまな野宿のスタイルや、野宿地の決め方、必需品、お巡りさんの職務質問対処法、夏の蚊や冬の寒さ対策、雨の日の野宿についてなど、野宿者が知っておきたい基礎知識の数々が、肩の力の抜けた、ユルい文章で解説されています。
安全対策のポイントにしても、便利な道具の活用法にしても、ちょっとしたスキルを身につけておくだけで、もしもの場合の野宿でも、それは格段に安全・快適なものになるはずです。
ただ、この本では、実際に野宿を経験していけばおのずと分かるような、こまごまとしたノウハウまでは触れられていないので、これをマニュアルのように使おうとしても、あまり役には立たないかもしれません。
この本の中にも書かれているように、野宿というのは実践をつうじて各自が自分なりの「野宿スキル」を高めていく部分が大きいし、この本で著者のかとう氏が力を入れているのは、「野宿」という、一般の人間にはとても縁遠い行為に、いかにして興味をもってもらえるか、そして、興味をもった人が、どうすればその最初の一歩を踏み出し、野宿の世界を垣間見ることができるのか、という点なのだと思います。
つねにお金と引き換えに、便利で安全で快適な生活を享受している私たちの多くにとって、野宿というのは、不便で危険で不快な体験そのものに見えるはずです。野宿のそんなマイナス・イメージを払いのけ、自分の小さなプライドとか、いつもと違う行動を嫌う日常の惰性とか、寝ている間に何が起こるか分からない不安など、自分の行動を制約するさまざまな心のバリアーを突破して、思い切って最初の野宿に至るまでには、人によって越えなければならない障害がたくさんあるのでしょう。
それでも、この本の一見ほんわかとした文章を読めば、そのうちの幾人かは、そうした障害を何となく乗り越えられる気がしてくるかもしれないし、野宿のネガティブな側面よりも、魅力的な側面に目が向くようになるかもしれません。
それは、自分の知識や知恵や感覚をフル稼働させて、刻々と変化する状況を読み、手に入るものだけを最大限に活用し、人とのコミュニケーション能力を駆使し、体を張って何とか無事に夜を乗り切るという、一連のプロセスを愉しむことであったりするのでしょう。
あるいは、それは、非日常的な体験をつうじて、自分をとりまく世界を深く濃く味わうこと、また、ギリギリの状況を切り抜ける経験を重ねることで、いざというときでも「なんとかなる」と思えたり、つねに幅広い行動の選択肢をもっていられるという意味で、本のサブタイトルにあるように、「ちょっと自由になる」ことだったりするのかもしれません。
ちなみに、私もこれまでに何度か野宿をしたことはあるのですが、いずれも、ちょっと特殊な状況でやむを得ずにしただけの話で、かとう氏のように積極的に野宿旅行を楽しむという域には到底及びません。
この本を読んでいると、誰でもその気になりさえすれば、野宿はいつでもどこでも始められる、例えば、自宅のすぐ近くの公園でだって寝られるんだということがよくよく分かるのですが、頭のなかに近所の公園を思い浮かべ、では、自分が今日の晩にでも、そこでゴロリと横になって眠れるだろうかと考えてみると、う〜む、私もまだまだ自由な人間からはほど遠いようです……。
本の評価基準
以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。
★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします
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