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『ほとんど食べずに生きる人 ― 引き算の生き方革命』

評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください

以前から私は、「不食」という不思議な現象に興味がありました。

世界のあちこちに、何も食べずに生きている(と自称する)人々がいて、彼らの話題がときどき新聞・テレビの片隅をにぎわすことがあるのですが、そのたびに眉にツバをつけながらも、仮にそれが本当だったら、自分もそんな仙人みたいな身分になりたいものだと多少の憧れを感じていたのです。
記事 「食わずに生きる」

先日、あるブログを読んでいて、「不食」ではないが、「微食」を実践している人々が日本にいることを知りました。彼らは、何も食べないわけではないけれど、常識では考えられないような低カロリー食だけで、長いあいだ健康な生活をしているというのです。

「不食」はさすがに信じがたいけれど、「微食」ならもしかするとあり得るかもしれないし、ひょっとしたら自分にもマネできたりするのでは……。そんな思いもあって、今回、「微食」生活を送っている柴田年彦氏の本を読んでみました。

柴田氏は、自らの身体を実験台にして、2007年の春から1年間、摂取カロリーを大幅に減らし、その間に心身に起きたさまざまな変化を記録しました。

ふつう、成人男性なら1日当たり2,500キロカロリー、女性なら2,000キロカロリーほど摂取しないと健康を維持できないと言われているそうですが、彼は玄米菜食を基本に、ゆっくりと時間をかけながら、「少食(800〜1,500キロカロリー)」から「微食(100〜500キロカロリー)」へと、摂取カロリーを減らしていきました。

本の前半は、食事や運動の量、体重や体脂肪率の変化などのデータを中心に、実験中に感じた自覚症状や身体の変化、あるいは精神的な変化について詳細にまとめたレポートになっています。

彼は低カロリー状態に慣れるまでの数カ月間、空腹感に悩まされただけでなく、脱力感やひどい物忘れ、体の冷えなどさまざまな体の不調も感じるのですが、実験が5カ月目を過ぎたあたりから体調が改善しはじめ、やがて睡眠時間が減り、脳が活性化し、五感が鋭くなり、寒さに強くなり、ヤル気が満ちてきたといいます。「微食」生活によって、むしろこれまでの持病が消えて健康が増進し、心身が若返ったというのです。

後半は、栄養学者と免疫学者へのインタビュー、そして、同じことを試してみようと思う人のために、体質によるメニューの調整や、実践する上でのコツなど、具体的なアドバイスが「柴田メソッド」としてまとめられています。

ただ、この本の実験で明らかになったのは、柴田氏個人が低カロリー食に適応し、そこから大いに恩恵を受けたという事実だけであって、「微食」がすべての人に有効だと証明されたわけではありません。

体質は人によって違うので、「微食」を続けると栄養失調に陥る人もいるかもしれません。この本の中で、栄養学者の原正俊氏が、日本人とアメリカ先住民の一部には、飢餓に耐えうる「節約倹約遺伝子」があると述べていますが、もしそうならば、「微食」は、遺伝的に一部の人間だけに可能な、一種の特殊能力だという可能性もあります。

そう考えると、どのくらいの一般性があるか分からない段階で、それをいきなり「メソッド」として広めてしまうのは時期尚早ではないかという気がします。

それに、この本を一読した限りでは、超低カロリー食の実践がけっこう簡単そうに見えてしまうのですが、実際には、超えなければならないハードルは数多くあるはずです。

まず、柴田氏が実験に成功した理由の一つとして、それ以前の段階で、長年にわたって玄米菜食を実践しており、食生活や食材に関してかなりの知識と経験を蓄えていたということが考えられます。

逆に、自分がふだん何を食べているかほとんど意識したこともなく、食べたいものを腹いっぱい食べ、酒やタバコをたしなみ、玄米など見たこともないような人なら、「微食」以前の問題として、まずは自分の食生活に意識を向け、さらにベジタリアン系のメニューにも慣れないと、その先には進めません。

一般人にとっては、食べる量を減らすこと以上に、食事に対する意識を根本的に改め、これまで食べつけていないような食材やメニューに慣れる方が、よほどハードルが高いのではないかという気がします。

それに、超低カロリー食というのは、実践するのにふさわしい年齢というのがあるかもしれません。本文中で免疫学者の安保徹氏が触れているように、体内の代謝システムや必要カロリーはずっと一定ではなく、年齢によって変化していると考えられます。著者の柴田氏は実験開始時点ですでに60代でしたが、若い人よりも、ある程度年齢を重ねている人の方が、もともと少食ぎみになっていることもあって、「微食」に移行しやすいという可能性はあります。

さらに、歳を重ねた人は、これまでの生活習慣からくる何らかの症状や病気を抱えているケースが多く、健康のありがたみを強く実感しているはずです。彼らには、再び健康と元気を取り戻すためなら、これまでの食事や生活のパターンをある程度犠牲にしてもかまわないと思うだけの動機があるかもしれませんが、若い人だとそこまでの思いはなかなか持てないのではないでしょうか。

最後に、柴田氏でさえ、空腹感を克服するのに半年を要しているし、体が超低カロリー状態に慣れるまで、さまざまな不快な症状にも耐えています。それに加えて、自分の心身が未知の状態へと変化していくことに対する不安もあったでしょう。これらは、気軽に乗り越えられるほど生易しい問題ではないと思います。

このように、この本の実験は非常にユニークなのですが、これを誰にでも通用するメソッドとして一般化するにはまだ無理があるように思います。当面は、先鋭的な人々が自らリスクを負って実践し、「微食」の可能性がどれほどのものか、いくつもの事例を集めて検討する作業が必要なのではないでしょうか。

それでも、「微食」という方法自体については、とても新鮮で面白いと思います。さすがに、「不食」というのでは誰もまともに取り合ってはくれないだろうし、腹八分目といった程度の「少食」では、ありがちな生活の知恵として、軽く聞き流されてしまうと思うので……。

この本を読んで、私も今すぐやってみようとまでは思いませんでしたが、もう少し歳月を経て、食生活のあり方についての意識を高め、こうした方法について自分なりに納得するに至れば、実際に試してみることになるかもしれません。

それにしても、この本を読んでいると、いろいろと考えさせられるものがあります。

人間が、食べたものの消化吸収自体に多大なエネルギーを費やしていて、ときにはそれが身体への負担となり、やがて機能障害を起こしてしまうというのは、実はかなり重要な問題でありながら、ふだんは見落とされがちです。そして、似たようなパターンは、食生活以外のさまざまな面においても見受けられるのではないでしょうか。

例えば、次から次へと買ったモノで溢れかえって、すっかり狭苦しくなった部屋がそうだし、朝からずっと情報の洪水を浴び続け、新しい出来事を追いかけるだけで、いつの間にか日が暮れてしまうような生活も同じ構図です。

人間は、モノにせよ情報にせよ人間関係にせよ、いいと思うものは可能な限り自分の側に取り込みたいと思いがちなものですが、そうやっていったん取り込んだものは、どんなものであれ、自分に対してそれなりのコストを求めてくることを、常に意識しておく必要があるのかもしれません……。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書 

at 18:56, 浪人, 本の旅〜身体技法

comments(0), trackbacks(0)

『風邪の効用』

風邪の効用
風邪の効用
野口 晴哉

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

現代の社会の常識では、風邪は薬を使ったりして早く治すべきものとされています。風邪に伴う症状は不快だし、下手にこじらせればもっと重い病気になるかもしれません。それに忙しい人々にとって、風邪で会社や学校を休むと、貴重な時間を無駄にし周りの人にも迷惑をかけるので、一刻も早く克服すべき厄介ごとかもしれません。

この本は、こうした常識的な風邪の見方をくつがえす、刺激的な内容にあふれています。

著者の野口晴哉氏は、風邪を病気とはとらえず、各人の偏った運動習性によって体に蓄積された疲労を正すために、体が自発的に治療を行なっているのだと考えます。

そうだとすると、風邪は病気どころか、体が自らを癒そうとする自然のプロセスであり、もしも薬などを使って風邪の症状を抑えようとすると、せっかくのそのプロセスを阻害し、風邪の原因となった体の疲労をそのまま抱え込むことになってしまいます。

私は風邪は病気というよりも、風邪自体が治療行為ではなかろうかと考えている。ただ風邪を完全に経過しないで治してしまうことばかり考えるから、ふだんの体の弱い処をそのまま残して、また風邪を引く。風邪を引く原因である偏り疲労、もっと元をいえば体の偏り運動習性というべきものですが、その偏り運動習性を正すことをしないで、いつでも或る処にばかり負担をかけているから、体は風邪を繰り返す必要が出てくる。それでも繰り返せるうちは保証があるが、風邪を引かなくなってしまったら、もうバタッと倒れるのを待つばかりである。

この見方に立つと、風邪を引かないのは健康だからではなく、風邪を経過することによって偏りを正すという自然のプロセスを阻害し続けたために、いつの間にか体がすっかり鈍感になってしまい、体の疲労や偏りを感じとれなくなってしまったからかもしれないのです。

逆に、自らの体を通じて風邪のプロセスをよく観察し、適切な処置をとることで、正しく「風邪を全うする」ことができるようになれば、風邪を経過することで、「体が蛇が皮を脱いだようにサッパリし」、体が弾力を取り戻し、以前よりも丈夫にさえなるというのです。

私は野口氏の整体はおろか、医学全般についても詳しくないので、氏の著作についてその真偽を語れる立場にはありません。そのため、この本の内容が正しいと言い切ることはできません。

ただ、この本で示されている風邪についての基本的な考え方、風邪は体が自然にバランスを回復しようとするプロセスであり、それを人為的に操作して抑えつけたりするよりも、むしろ上手に経過させるべきものである、という考え方には共感を覚えます。

もちろん、この考え方を実際の生活に生かせるようになるためには、知識や実践の上でさらにいろいろと学ぶべきことがあるでしょうし、実際に熱や痛み、咳やくしゃみなど、風邪の症状が現れたとき、薬を飲まずに適切な処置だけをして経過を見守るというのはそれなりに勇気のいることでしょう。

私としては、風邪を引いた場合、時間的・状況的に許されるなら、体が要求している自然のプロセスをできるだけ乱さないようにし、同時に、素人療法に陥る危険を避けるため、いつも他の選択肢は用意しておくべきだと思います。もしも自分の手に負えないと感じたら、すぐに現代西洋医学を含めた専門家の判断を仰ぐようにするというのが、現実的な対応なのではないかと思います。

この本は、所々に整体の専門用語も出てくるため、初心者にとって決して読みやすい本ではありませんが、人間の体や心理についての野口氏の見方には、深い経験に裏づけられた非常に鋭いものがあり、風邪というテーマにとどまらず、日常生活での養生について、いろいろと考えさせられます。

野口氏の考え方に共感する・しないに関わらず、この本に一度は目を通してみる価値はあると思います。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします

at 21:00, 浪人, 本の旅〜身体技法

comments(0), trackbacks(0)

『図解トレーニング 身体意識を鍛える』

図解トレーニング 身体意識を鍛える
図解トレーニング 身体意識を鍛える
高岡 英夫

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

「ゆる体操」の提唱者として有名な高岡氏の本は以前にも紹介しましたが、長年の経験と緻密な理論に裏付けられているので、読んでいてなかなか説得力があります。ただ、理論の部分はやや取っ付きにくいところがあるので、「理屈はともかく、どうすれば効果がでるのか、わかりやすくハウツーを教えてほしい」という人も多いかもしれません。

この本は、高岡氏の「身体意識」の理論をベースに、重要な7つの身体意識を鍛えるためのトレーニング方法が学べる、実践的な内容になっています。

テレビに登場するトップアスリートは、筋力や持久力において優れているだけではなく、優れた動きを生み出し、コントロールする「質的能力」においても優れていて、そのカギになるのが身体意識です。

高岡氏はこの本で、重要で基本的な身体意識として、センター、下丹田、中丹田、リバース、ベスト、裏転子、レーザーの7つを挙げ、それぞれの身体意識を鍛えることのメリット、具体的なトレーニング方法を紹介しています。

面白いのは、これらの身体意識を鍛えることが、運動能力の向上だけにとどまらず、精神的にもよい影響を与えるとしていることです。

例えば「センター」という身体意識を鍛えると、スッキリ立てるようになるとか、全身の各部分のバランスが良くなる、回転運動の軸ができるなど、身体・運動上の効果がある一方で、シャープな感覚、颯爽とした感じになる、小さなことが気にならなくなる、といった精神的な効果もあるというのです。

常識的には「身体」と「精神」は別物として分けて扱われ、トレーニングといえば筋力や持久力の向上といった身体的なものだけを対象とするのが普通ですが、身体意識の場合は両方につながりを持っているので、身体意識を鍛えることで双方によい影響を及ぼすのです。

この本で扱われている身体意識は基本的なものですが、高岡氏によれば、『意識のかたち』で紹介されている「ジンブレイド」など、さらに高度な身体意識もあります。これらを究めていけば、伝統的に言われている「達人」のレベルへ、さらにその先へと続いていくのかもしれません。

ちなみにこの本では、身体意識トレーニングの土台として「ゆる体操」も紹介されているので、「寝ゆる体操」、「立ちゆる体操」などの基本レパートリーも学ぶことができます。


高岡英夫著 『仕事力が倍増する“ゆる体操”超基本9メソッド』 の紹介記事
高岡英夫著 『意識のかたち―現代に甦る天才の秘密』 の紹介記事


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします

at 17:03, 浪人, 本の旅〜身体技法

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