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『茶馬古道の旅 中国のティーロードを訪ねて』

 

評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください

茶馬古道とは、おもに中国南部の雲南省とチベットを結び、中国の茶とチベットの馬の通商に用いられた、かつての交易路のことです。

著者の竹田武史氏は、2006年から2007年に、7か月をかけて交易路の跡をたどり、各地の古老を訪ね、さまざまな民族の伝統的な喫茶文化や、馬帮(マーバン)と呼ばれたキャラバンの旅の記憶を取材しました。

この本には、その旅の簡潔なエッセイと、美しい写真の数々が収められています。

個人的には、茶の原産地といわれるシーサンパンナの森の中にたたずむ、樹齢数千年の「茶樹王」の迫力ある写真や、雪の峠からサボテンの群生する「暑い谷」まで、気候がめまぐるしく変化する梅里雪山の巡礼路に、特に興味をそそられました。

取材ルート上の大理、麗江などは、日本人にも名を知られた美しい街だし、チベット文化圏の香格里拉(シャングリラ、2001年以前の旧名は中甸)や徳欽(デチェン)も、今は観光開発が進みつつあるようです。現地で特産のマツタケを腹いっぱい食べたという人もいるかもしれません。

私も写真を眺めながら、雲南省やチベットを旅した頃のことを思い出しましたが、一方で、この本全体から感じる懐かしさのようなものは、そうした個人的な記憶とはまた別のようです。

雲南省を含め、東アジアから南アジアにまで広がる照葉樹の森とともに育まれてきた独特の文化は、日本の生活文化の一つのルーツともいわれているし、さまざまな少数民族の穏やかで慎ましい暮らしぶりのなかに、私たち日本人にとっての原風景のようなものを感じてしまうからでしょうか。
ウィキペディア 「照葉樹林文化論」

もっとも、かつての茶馬古道も、中国の経済発展と急速な開発によって激しい変貌を遂げつつあるし、また、各地のユニークな喫茶文化も、グローバル化の波に洗われ、やがては観光客向けのエンターテインメントとして、辛うじて消滅をまぬがれる運命にあるのかもしれません。

また、ルート上の東チベットは、2008年のチベット騒乱以来、政治的な緊張がさらに高まっており、外国人の立ち入りも厳しく制限されています。

この本から感じる、何ともいえない懐かしさの感覚と、それとは裏腹の厳しい現実。似たようなパターンは、辺境と呼ばれるような場所のあちこちで見られます。

19世紀まで世界の辺境だった日本も、奇跡的な経済発展と開発によって、多くのものを手に入れ、同時に、多くのものを失いました。そうした世界的規模のプロセスは、これからも多くの人々を巻き込みながら、とどまることなく続いていくのでしょう。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

 

at 18:27, 浪人, 本の旅〜中国・東アジア

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『デルス・ウザラ』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本の著者、ウラディミール・アルセニエフ氏はロシアの探検家で、20世紀初頭のロシア極東地域の探査で有名です。この探検記には、その何回にも及ぶ探査の一つ、1907年の夏から翌年まで、約半年にわたって続けられた沿海地方への旅が描かれています。

彼は数名の兵士を率いて、シホテ・アリニ山脈から日本海へと流れ下る、いくつもの川の流域を丹念に調査しました。

それは、沢を水源まで溯っては、別の沢をたどって海に戻るという、一見地味な作業の繰り返しです。しかし、厳しい気候と自然環境に加えて、装備も連絡手段も現地の情報も、今とは比較にならないほど貧弱だったこともあり、それは生易しい旅ではありませんでした。

一行は、あまりの豪雨に遭難しかけたり、渡河に失敗して激流に呑み込まれそうになったり、装備や食糧を運んでいた船が行方不明になったり、野営が虎に襲われたりと、次から次へと深刻なトラブルに巻き込まれます。

それは、いかにも探検記らしいスリルに満ちていて、読んでいて飽きません。ただ、もしもそれだけであったなら、今なお多くの人々が、この本を手に取ることはなかったのではないでしょうか。

探検隊には、ツングース系少数民族ゴリド人(ナナイ人)の年老いた猟師、デルス・ウザラがガイドとして同行していたのですが、彼の活躍と、その人柄が発する魅力こそが、この本を際立たせ、当時よりも、むしろ現代において、多くの人々の心に響く作品になっているのではないかと思います。

デルス老人は、狩猟にすぐれていたばかりでなく、人間や動物の残したわずかな痕跡から驚くべき正確さで状況を推測し、天候の変化を的確に読み、必要なモノをそのつど手近な材料だけで作り上げてしまうなど、並外れた能力を発揮して探検に貢献し、ときにはアルセニエフ氏の命をも救って、困難続きの一行にとっての力強い支えになりました。

この本では、そうしたさまざまなエピソードを通して、密林(タイガ)とともに生き、その自然を知り尽くした彼の活躍が描かれるとともに、アルセニエフ氏との何気ない会話や行動の端々に現れる彼の人柄や、そのユニークな世界観が浮き彫りにされています。

彼は、森の生きものたちや自然を人間と同じように見なして、彼らに本気で話しかけます。そんな彼の言動は、そのたどたどしいロシア語のせいもあって、どこかコミカルで、まるで純朴な子供のふるまいのようにも見えます。しかし一方で、彼は老練な猟師であり、タイガの厳しい自然を、ほとんど身一つで生き抜くなかで培った能力をいかんなく発揮します。

彼は、老人でありながら子供のようでもあり、文明とは無縁な野生人のようでありながら、ときには文明人を超えるような深い知恵を示し、また、人間と他の生きものすら分け隔てることのない、他者への深い思いやりをも身につけているように見えるのです。

そんな彼の不思議な魅力が、この探検記をとても印象深いものにしています。

しかし、この本の最後で、デルス老人には悲劇的な運命が待ち受けています。彼の活躍を楽しみ、その言葉に共感を覚えていた私には、それはなんとも切なく、やるせない結末でした。

それにしても、彼らの探検の舞台であるロシアの沿海地方は、日本海をはさんだ対岸で、日本のご近所だというのに、これまで私が頭の中で日本の近隣をイメージするときには、まるでそこが存在しないかのように、すっかり空白になっていたことに気がつきました。

100年前の探検記を読むだけではなく、現在そこで、どんな人々がどんな暮らしをしているのか、もっと勉強する必要がありそうです……。

なお、この探検記をもとにした、黒澤明監督の『デルス・ウザーラ』も、心に沁みるいい映画です。機会があったらぜひご覧ください。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



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at 18:22, 浪人, 本の旅〜中国・東アジア

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『深夜特急〈1〉香港・マカオ』

深夜特急〈1〉香港・マカオ
深夜特急〈1〉香港・マカオ
沢木 耕太郎

 

Kindle版はこちら

評価 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です

読む読まないは別にして、バックパッカーならたぶん知らぬ者はいない、超有名な『深夜特急』です。私も文庫版が出た1994年に読みました。『深夜特急』を読んだからというわけではありませんが、数年後に私も長い旅に出ました。

今になって、この本を読みつつ当時の自分の心境などを思うと、自分ではそのつもりはなくても実は結構大きく影響されていた、少なくとも旅立とうという気持ちを高めるための強力な一押しになっていたことは間違いないと思います。

『深夜特急1』は、旅立ちの瞬間から香港・マカオまでです。沢木氏が一応設定した旅のテーマは、乗り合いバスでデリーからロンドンまで行くことなので、香港の旅はいわば付録というか前座のようなものですが、「毎日が祭り」のような香港の放つ熱気や、マカオのカジノで「大小」というサイコロ博奕にハマっていくエピソードが生き生きと描かれていて、この一冊だけでも香港・マカオの旅行記として充分に楽しめます。

特に、マカオの章「賽の踊り」はすばらしいと思います。博奕について無関心なはずだった沢木氏が、まずは素人らしい単純な張り方で、次にはディーラーの狙いやゲームの本質を鋭く考察しつつロジカルな張り方で「大小」に挑むのですが、勝ったり負けたりを繰り返すうちに賭け金はどんどんつりあがり、ついには引き返せないところまで気持ちが深入りしていきます。その内面、外面のプロセスが的確かつ簡潔に描かれていて、非常にスリリングです。

最後にはちょっと神がかり的な状態にまでなるのですが、それらすべてのプロセスを二日だけのマカオ滞在で体験するというのは、ちょっと出来すぎのような気がしないでもありません。もっとも、私自身はそこまで博奕にのめり込んだことがないので、本当のところは経験してみないとわからないのかもしれません。

旅をしてかなり経ってから書かれたということもあるのか、沢木氏の文章は巧みでバランス感覚があり、若さを描いても傲慢にならず、アジアの影の部分を描いても下品にならず、鋭いコメントやユーモラスなエピソードも程よく埋め込んであって、旅行記や「青春モノ」としてはもちろん、エンターテインメントとしても楽しめるようになっています。

文庫の巻末に山口文憲氏との対談があって、沢木氏が『深夜特急』の旅をした1970年代半ばの時代背景や、沢木氏の旅のスタイルについて具体的に触れられていて、非常に興味深い内容です。

今でこそ、「ユーラシア横断」みたいな旅はそれほどめずらしくなくなりましたが、30年前はほとんど現地の情報もなく、欧米以外に対する日本国内での興味関心もほとんどないような状態だったわけです。そういう状況で旅立つということについては、現在以上の覚悟が必要だろうし、旅も困難なものだっただろうと考えられます。

また一方で、当時アジアといえば政治的、宗教的関心から注目される場合が多かったはずで、いわゆるヒッピーなど、旅もまたそれを反映したものが多かったのではないかと思いますが、『深夜特急』にはそういう色彩があまり感じられません。

これは沢木氏自身の関心がそういった方面に向かなかったのか、本が執筆・出版された時代の要請だったのかよく分かりませんが、いずれにしてもそのおかげでこの本は時代の色に染まることから逃れ、今の私たちが読んでも古さを感じさせないし、多くの人に受け入れられるであろう一種の普遍性を持っているように思います。

『深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール』の紹介記事
『深夜特急〈3〉インド・ネパール』の紹介記事
『深夜特急〈4〉シルクロード』の紹介記事
『深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海』の紹介記事
『深夜特急〈6〉南ヨーロッパ・ロンドン』の紹介記事


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします

at 19:54, 浪人, 本の旅〜中国・東アジア

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