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『猫町』

評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください

『猫町』は、北越地方の温泉宿に泊まっていた主人公の「私」が、山の中で道を見失い、奇妙な町に迷い込んでしまうという内容の短編小説です。

昔の作品で著作権が切れているので、上記の Kindle や、青空文庫で読むことができます。
青空文庫 萩原朔太郎『猫町』

いちおう物語の最後にオチがあるのですが、前半の導入部分がネタバレみたいになっているので、エンターテインメントという点から見れば、あまり完成度は高くないのかもしれません。

ただ、個人的には、物語そのものよりも、作者が主人公に託した問題意識が、現代の旅人が置かれた状況を先取りしているようで、とても興味深く感じられます。

主人公の「私」は、旅をするうちに、どこへ行っても、結局は同じような人間の、同じような生活があるだけだと思うようになり、旅への憧れを失ってしまいます。「無限の退屈した風景」に飽きた彼は、もっと自由な世界を求めるあまり、ついにはドラッグにのめり込んでいくのですが、このあたりについては、作者自身の体験が反映されているようです。
ウィキペディア 「萩原朔太郎」

この作品が書かれた1930年代には、仕事以外で飽きるほど旅に出かけられる人間など、ごく一部の有閑階級だけだっただろうし、別世界を求めてドラッグに手を出す設定にしても、それ自体がむしろ別世界の話だと感じた読者の方が多かったのではないかと思います。

ところが、時代は変わり、今やその気になりさえすれば、普通の日本人が世界各地を旅することも夢ではなくなりました。長い休みのたびに旅行を楽しむ人はめずらしくないし、バックパッカーとして長い放浪の旅に出る人もいます。

そうした旅人の中には、何度も旅を重ねるうちに、主人公の「私」のように旅に飽き、旅への憧れの気持ちをなくしてしまった人もいるかもしれません。

また、長年にわたるグローバル化によって消費社会のシステムが世界の隅々にまで浸透したことで、どこに行っても同じような店や商品を見かけるようになり、現地の人も私たちと似たような生活をし、似たようなことを考えるようになりつつある、という傾向もあります。

さらに、マスメディアやインターネットを通じて大量の情報を浴び続けているせいか、苦労して出かけて行った旅先で、新鮮な体験を楽しむどころか、過去にどこかで見たものを再確認しているような感覚に襲われ、幻滅してしまう旅人もいるかもしれません。

少し大げさな言い方かもしれませんが、現代においては、ここではないどこか別の場所への無邪気な憧れみたいなものを抱き続けるのがどんどん難しくなりつつあり、結果的に旅からロマンチックな要素が消えつつあり、望むと望まないとにかかわらず、多くの人が、『猫町』の主人公のような状況になりつつあるような気がします。

とはいえ、私たちは、小説の登場人物みたいに、ドラッグに手を出すわけにもいきません。

たぶん私たちは、それでも世界のどこかに何か素晴らしいモノや体験が残されているはずだと信じて、がむしゃらに世界を駆け回るよりも、そうやって常に心の渇きを覚え、何かを求めずにはいられない自分自身の内面にこそ目を向けてみるべきなのでしょう。

この小説の中では、身近な世界をそのままで別世界に変える一つのヒントとして、「景色の裏側」を見るというキーワードが示されていますが、それ以外にも、私たちがこれまでの生活を通じて無意識のうちに身につけてきた価値観や世界観にちょっとした変化が加わるだけで、世界は劇的に違って見えてくるはずです。

そうやって、自らの内面に揺さぶりをかけ続けるような旅ができるのなら、きっといつまでも退屈とは無縁でいられるだろうし、あるいは、さらに深く自身の内面を見つめ直していくうちに、いつしか、ここではないどこかへの激しい渇望感に囚われることもなくなり、そもそも旅に出る必要すらなくなっていくのかもしれません……。


本の評価基準

以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 18:53, 浪人, 本の旅〜旅の物語

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『銀河ヒッチハイク・ガイド』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

このところ、現実世界では暗いニュースばかりが続き、なかなか明るく前向きな気持ちになれないので、少しでも気分を変えようと、昔から名前だけは聞いていたSFコメディの名作、『銀河ヒッチハイク・ガイド』を読んでみることにしました。

この作品については、ウィキペディアに(ネタバレを含む)かなり詳しい紹介があります。興味のある方はそちらを見ていただきたいのですが、物語の冒頭でいきなり地球が破壊されてしまい、ただ一人生き残った平凡なイギリス人が、「銀河ヒッチハイク・ガイド」現地調査員の宇宙人と一緒に銀河系を放浪するという、とんでもないストーリーです。
ウィキペディア 「銀河ヒッチハイク・ガイド」

最初は単なるドタバタ劇かと思ったのですが、SFらしくスケールの大きな仕掛けや予想外の展開に驚かされ、ブラックな笑いや宇宙的ナンセンスに脱力し、そして妙に人間くさい宇宙人たちのキャラクターを楽しんでいるうちに、独特の世界に引き込まれていました。

原書は1979年の刊行で、もう30年以上も前の作品ですが、新しい翻訳のおかげもあってか、今読んでも古さを感じません。

それにしても、やっぱりコメディはいいなあと思います。

鋭い皮肉も、残酷なまでのナンセンスも、強引な物語の進行も、ユーモラスで飄々とした語り口のおかげで抵抗なく受け入れられるし、ヘタをすれば虚無的になってしまいそうな内容が、笑いのおかげでうまく中和されている気がします。

私はSFというものをほとんど読んだことがないので、膨大なSFの作品群の中で、この本がどのような位置を占めるのかよく分からないのですが、他にも名作と呼ばれる作品を、いろいろ読んでみたいという気持ちになりました。

できれば、あまりシリアスなものではなく、少しでも笑える作品を……。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 19:10, 浪人, 本の旅〜旅の物語

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『魂の流木』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本は、アメリカの経済学者マイケル・S・コヤマ氏が、波乱に満ちた自らの半生を描いた自伝的小説です。

以下、本の前半のあらすじをまとめましたが、かなりのネタバレになりますのでご注意ください。

物語の主人公、小山文治は1934年にタイで生まれますが、タイ人の母はすぐに亡くなり、父はビルマのイギリス軍を支援していたために、第二次大戦中に日本で処刑されてしまい、たったひとり残された文治は孤児院へ送られます。

終戦後、東京の孤児院を脱走した少年は、三宮の闇市になんとか居場所を見出しますが、学校に通えない彼は、もっと勉強をしたいという強い思いに駆られていました。やがて彼は、親切な高校の先生と知り合い、その先生の奔走のおかげで特別に高校への入学を許され、パン屋に住み込みで仕事をしながら優秀な成績で卒業します。

東京の大学に入ると、彼はすぐにアメリカからの奨学金を得てカリフォルニアの大学に留学します。彼は、タイ人の移民枠を使ってアメリカへ入国したため、大学院へ行く前に徴兵されることになるのですが、入隊するとG2(陸軍諜報部)の要員として抜擢され、士官学校へ入るために、帰化してアメリカ市民権を取得、マイケル・フミハル・コヤマと名乗るようになります。訓練を受けてパリに赴任したマイケルは、やがて、さまざまな秘密任務に従事するのですが……。

複雑で不幸な彼の生い立ちは、人生前半の彼に巨大すぎる困難となってのしかかりますが、死を前にした父が文治少年に残した教訓、「自分を信じて、危険を乗り越えて生きろ。同じ人生ならチャレンジして困難な道を進め!」という力強い言葉と、もっと学びたいという本人の強烈な思いが、闇市を放浪する孤児というどん底から、彼を這い上がらせました。

彼は、自分をとりまく状況に人生の主導権を渡すことなく、彼自身の求める人生を勝ち取っていきました。そしてむしろ、彼のその複雑な生い立ちそのものが、諜報という分野で彼に活躍の場を与えることになるのです。彼は、世界という舞台を広く大きく使って、先の見えない、ユニークな人生行路を歩んでいきます。

もちろん、言うまでもないことですが、そうした彼の成功は、彼ひとりの才能と努力だけで成し遂げられたわけではありません。この物語には、節目節目で彼の人生を大きく変えた、親切な人々との出会いが描かれています。しかし、もしも彼自身が人生の主導権を手放し、運命に身を任せてしまっていたら、そうした出会いはなかったか、あってもそれを生かすことはできなかったのでしょう。

この本は、「事実をベースにしたフィクション」ということなので、話のどこからどこまでが事実かは分からないし、たぶん細かな部分では脚色も加えられているのでしょうが、大筋としては、作者であるマイケル・S・コヤマ氏の身に起きたことがそのまま語られているように思われます。

語り口は、シンプルで淡々としていて、コヤマ氏の「本業」である、経済学関連の難しい話もほとんど出てきません。また、少年時代・青年時代の話と、諜報の秘密任務の興味深いエピソードが話の中心になっているのは、一般の読者向けに書かれたからなのでしょう。

それにしても興味深いのは、コヤマ氏が生活の拠点をあちこちと変え、さまざまな言語と文化を身につけ、また、社会における表と裏の顔を使い分けながらも、自分のアイデンティティに関して、哲学的な苦悩の袋小路に入り込んだりはしなかったということです。彼は、人並み外れた明晰な思考力に恵まれている一方で、自分が何者であるかという問題に関しては、不毛な思考のドロ沼に足をとられることがないのです。

むしろ彼は、自分の複雑な生い立ちそのものを、前へ進み続けるための手段として、プラグマティックに利用しているようにすら見えます。それは父の残した言葉に集約された、一つのシンプルな人生観が大きく影響しているのでしょうか。

ただ、この本を読んでいると、つい自分の人生と引き比べてしまいます。私がそうであるように、多くの読者も、文治少年に対して深い共感を覚えるよりはむしろ、自分にはこれほどの才能もなければ、彼ほどの努力もできないと思ってしまったり、彼のことが、自分とはかけ離れた特別な人間だと思えてしまうかもしれません。

ミもフタもない言い方をしてしまえば、これはどん底からの典型的な成功物語であり、読む人によっては、それを単なる自慢話として受け止めてしまう可能性もあるということです。それでも、今や功成り名遂げて一流の学者として生きる人物が、このような形で、あえて自らの暗い生い立ちを率直に告白するというのは、ほとんどないことなのではないでしょうか。

それはともかく、第二次大戦の前に生まれた人々というのは、コヤマ氏に限らず、誰もが本当にいろいろな体験を重ねてきたのだということを改めて思います。そして、今この時代に生まれ、あるいは青年時代を過ごしている人は、当時とは比べ物にならない豊かさの恩恵を受けている反面、彼のように波乱に満ちた、しかし痛快な人生を送る余地は残されているのだろうか、という気がしないでもありません……。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 18:44, 浪人, 本の旅〜旅の物語

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