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『深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海』

深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海
深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海
沢木 耕太郎

 

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評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

『深夜特急』の第5巻は、イランのテヘランからイタリアのブリンディジまで、いよいよ旅も終盤に向かっていきます。

テヘランから一気に国境を越えてトルコのエルズルムへ、さらにトラブゾン経由でアンカラに向かう場面や、イスタンブールからギリシャのアテネへ抜ける場面など、例によって長距離を突っ走る疾走感は健在です。

また、女性芸術家に届け物をする話や、「熊連れの男」との遭遇、通りすがりの男に誕生日パーティーに招待される話など、所々に面白いエピソードも織り込まれています。

しかし旅の疾走感とは裏腹に、この巻全体には何か重苦しくて内省的なムードが漂っています。それは本文にもあるとおり、人生に例えれば、この長い旅がすでに「青年期」の輝きを失い、「壮年期」あるいは「老年期」ともいえる段階にさしかかっているからでしょう。

ギリシャの旅を続けながら、沢木氏の心に浮かんでくるのは過去に通り過ぎた土地の記憶であり、旅をどう終わらせるのかという問題でした。

そもそもロンドンまで乗り合いバスで行くというのが当初の計画だったわけで、そこに着けば旅は終わりであり、それ以外に何も考える必要はなさそうなものですが、沢木氏は、その計画があくまで表面的な建前にすぎず、実際には自分でも知らないうちに別の意図をもって旅を続けていたということに気づいたのでしょう。

ロンドンというのは、とりあえず西に向かって進んでいくための最初の口実にすぎず、この長い旅そのものに意味を与えてくれるわけではありません。自分にとってこの旅が何だったのか、自分なりに納得できるような結末を見つけられない限り、たとえロンドンに着いてもこの旅を終えるわけにはいかない、という思いが伝わってきます。

ヨーロッパという、何事も予定通りに進行する世界に入ってしまうと、意外性やハプニングによって自分が揺さぶられることもなくなり、旅の資金も残り少ないため、自由に動き回ることもできなくなっていきます。そんな中でこの旅にふさわしい終わり方を見つけるというのは非常に難しいことでしょう。

10年以上も前に最初に読んだ時、私はこのあたりは軽く読み飛ばしていました。何か旅の終わり方にこだわっていたなあ、という淡い印象を残しただけで、今回読み返してみるまでほとんど記憶に残っていなかったのです。

その後、私も長い旅をしました。そして、期限を決めずに旅に出てしまったために、旅をいつ終わらせるのか、どういう結末をつけるのかという問題が重くのしかかり、さんざん悩むことになりました。今回、その経験と照らし合わせながら読んでいると、沢木氏の言葉がいちいち深く身にしみてきます。

自分の意識の上では、旅をしていた頃には、『深夜特急』で読んだ内容をすっかり忘れていたと思うのですが、当時自分なりに旅の結末をつけようとした時など、無意識のうちにこの本が深いところで影響を及ぼしていたような気がします。

第5巻で私の好きな場面があります。イスタンブールのアジア側とヨーロッパ側を連絡するフェリーに毎日乗りにいくシーンです。舳先のベンチに座り、潮風に吹かれながら、沢木氏はドネル・カバブのサンドイッチを頬張り、チャイを飲む「優雅な」ひと時を楽しみます。

イスタンブールは東と西の文明が出会う都市ですが、連絡フェリーはまさにその象徴のような存在であり、同時に東にも西にも属さない、両文明のバランスの中心のような、「静寂の支配する空間」でもあります。そこを片道15分で優雅に行ったり来たりする、というのは実に面白そうな遊びで、私はイスタンブールに行ったことはありませんが、いつか訪れることができたら是非同じことをしてみたいと思います。

『深夜特急〈1〉香港・マカオ』の紹介記事
『深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール』の紹介記事
『深夜特急〈3〉インド・ネパール』の紹介記事
『深夜特急〈4〉シルクロード』の紹介記事
『深夜特急〈6〉南ヨーロッパ・ロンドン』の紹介記事


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします

at 21:01, 浪人, 本の旅〜ヨーロッパ・中東

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sora, 2006/09/01 11:31 PM

はじめまして。
私も深夜特急読んでいます。
再読ですが。
何度読んでも刺激されますね。
では。

浪人, 2006/09/02 9:34 PM

soraさん、コメントありがとうございました。
私も長旅の後、久しぶりに再読して、沢木氏の言葉をより深く味わうことができました。
この本は何度でも楽しめる名作ですね。










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