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旅の名言 「歩いても歩いても……」

歩いても歩いても何も起きない。かつては出来事が向こうからやってきたものだが、私は何も起きないこの街で透明な存在になったようにただ歩いている。

『深夜特急〈6〉南ヨーロッパ・ロンドン』 沢木 耕太郎 新潮文庫 より
この本の紹介記事

アジアからヨーロッパへ乗り合いバスで駆け抜ける、超有名な『深夜特急』の、旅も終わりに近づいたフランスのマルセーユでのシーンです。

「何も起きない」とありますが、一体どういう意味なのでしょうか? この本を読んだことのある方ならお分かりだと思いますが、読んでいない方はあまりピンとこないかもしれません。

インドを始めとする、いわゆる開発途上国を旅した人はご存知でしょうが、そうした地域を旅していると、毎日のように「何か」が起こります。

汚い宿やボロすぎるバスに閉口したり、現地の人にぼられたり、ケンカしたり、詐欺師にひっかかったり、病気やケガをしたりと、たいていはロクなことがないのですが、時には偶然知り合った現地の人に親切にされて感激したり、想像もしていなかったような面白いものを見ることができたりします。

とにかく、次から次へと事件が「向こうからやってくる」ので、退屈はしないのですが、日本で立てた計画どおりに旅を続けようなどと考えていると、ひたすら障害を乗り越えていかなくてはならなくなり、戦いとイライラの毎日になってしまうのです。

しかし、思い切ってそんな計画はあきらめて、ある程度出来事の流れに身をまかせてしまえるようになると、やっかいな事件を逆に楽しむくらいの余裕も多少は生まれてきます。異質な世界に対して次第に目が開かれていき、旅の醍醐味らしきものも味わうことができるのです。

たとえば、インドではただ道をブラブラと散歩しているだけで「何か」が起こります。こちらから何も働きかける必要はありません。押しの強いインドの人々や、見たくなくても次々に目に飛び込んできてしまう「何か」に、ほとんど受け身で対応するだけでいいのです。

『深夜特急』の沢木氏は、そんな世界を旅したあとでヨーロッパにやって来たので、急に自分の身のまわりで何の出来事も起こらなくなってしまったように感じたのです。

もちろんヨーロッパも、私たち日本人にとっては異質な世界です。ただ、現代の資本主義社会という点では日本と共通であり、その意味では子どもの頃から適応してきた、「見慣れた、退屈な世界」とも言えます。すべてが洗練され、規則正しく営まれていて、ハプニングの入り込む余地はあまりありません。

しかもその時、沢木氏は旅をいつ、どのような形で終えるのかという難題を抱えていました。それがどういうものか自分でもよくわからないまま、それにふさわしい「何か」が向こうからやって来ることを内心期待しつつ、しかしヨーロッパの都会でそれが起こる可能性はほとんどないことにも気づいていたのではないでしょうか。

まるで自分が透明人間にでもなってしまったみたいに、何も起きないまま、何の出会いもないまま、すべてがあっさりと自分の傍らを通り過ぎていきます。

沢木氏の当初の計画では、旅の終点はロンドンでした。マルセーユから直接向かえば、あと数日でたどり着ける距離です。しかし彼はそのまま旅を終える気にはなれず、旅の終わりにふさわしい「何か」を求めて、スペイン、ポルトガルへとさらに旅を続けるのでした。

そこで何が起こったかは、ネタバレになるのでここには書きませんが、とにかく、インドを始めとする異質な世界を経験し、それに慣れてしまったあとでは、ヨーロッパ、そして日本も「何も起きない」世界に見えてしまうのです。その中に生きている人間はほとんど意識していないことですが、いったん外に出て、異質な世界から私たちの世界を見ると、そのように見えるのです。

もっとも、「何も起きない」ことは、別に悪いことではありません。それは平穏無事ということでもあるからです。たとえ旅人の気楽な立場だとしても、事件が起こってばかりいる生活というのは、やっぱりしんどいものです……。


『深夜特急』の名言

at 21:49, 浪人, 旅の名言〜旅について

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