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旅の名言 「恐らく、私は……」

やめて帰ろうという判断は確かに賢明だ。しかし、その賢明さにいったいどんな意味があるというのだろう。大敗すれば金がなくなる。金がなくなれば旅を続けられなくなる。だが、それなら旅をやめればいいのではないか? 私が望んだのは賢明な旅ではなかったはずだ。むしろ中途半端な賢明さから脱して、徹底した酔狂の側に身を委ねようとしたはずなのだ。ところが、博奕という酔狂に手を出しながら、中途半端のまま賢明にもやめてしまおうとしている。賽は死、というのに、死は疎か、金を失なう危険すらもおかさず、わかったような顔をして帰ろうとしている。どうして行くところまで行かないのか。博才の有無などどうでもよいことだ。心が騒ぐのなら、それが鎮まるまでやりつづければいい。賢明さなど犬に喰わせろ。張って、張って、張りまくり、一文無しになったら、その時は日本に帰ればいい。デリーにすら行けず引き返してきたというのはいささか恥ずかしいが、それもひとつの旅だったのだ……。 (中略) 
 もちろん、博奕への未練だけが、私を衝き動かしている感情のすべてではなかった。恐らく、私は、小さな仮りの戦場の中に身を委ねることで、危険が放射する光を浴び、自分の背丈がどれほどのものか確認してみたかったのだと思う。
<やろう、とことん、飽きるか、金がなくなるまで……>


『深夜特急〈1〉香港・マカオ』 沢木 耕太郎 新潮文庫 より
この本の紹介記事

『深夜特急』文庫版第1巻のシーンからの引用です。沢木氏はマカオのカジノで「大小」というサイコロ博奕にハマり、気がつくと大切な旅行資金を失いかけていました。旅を続けるために、適当なところで博奕を切り上げるという、冷静かつ「賢明」な判断をしようとするのですが、沢木氏の心の中では別の声が、「どうして行くところまで行かないのか」と挑発してきます。

結局、彼はこの挑発に応え、「大小」をとことんまでやる決意をして、再びカジノに乗り込んでいきました。ネタバレになってしまうので、その結末については本文を読んでいただきたいのですが、ここで沢木氏が触れているように、あえて酔狂に身を任せることで、「危険が放射する光を浴び、自分の背丈がどれほどのものか確認」するということが、『深夜特急』の旅の一つのテーマになっています。

自ら危険に身をおくことで、自分のほんとうの力を確かめたいという発想は、昔でいえば「武者修行」そのものだと思います。居心地のいい、閉じられた環境の中で小さくまとまることを潔しとせず、自分の限界を知って新たな成長の手がかりをつかむために、未知の世界に飛び込み、自分を試そうという発想です。

ただ、沢木氏は、自分を試す舞台として、新しく会社を興すとか、作家として意欲的な作品に取り組むというような方向は選びませんでした。彼はデリーからロンドンまで、誰もが利用できる乗り合いバスで行くという「酔狂」な旅を目論みます。仮にそれが達成されたところで、別に画期的な業績ではなく、何か社会に大きく貢献するわけでもありません。

それは、ある意味では徹底して自分のための旅であり、旅の目的地に意味があるというよりは旅そのものに意味がある旅であり、旅先で出会う様々な物事に自分がどうリアクションするかを確かめる旅だったのでしょう。

しかし、それは「社会的意義」という足かせから逃れ、自由気ままな旅を謳歌できる反面、よりどころが自分だけであるために、下手をするとどこまでも道を見失っていく危険性を秘めています。沢木氏の『深夜特急』に触発されて旅を志した若者を含めて、古今東西の多くの旅人たちが、旅の中で目標を見失い、「酔狂」の中で身を持ち崩しているのではないでしょうか。

沢木氏の場合は、そうした旅の危険を乗り越え、再び日本に帰って社会的な成功を収めることになりましたが、多くの旅人にとって、自分がどれだけの危険に耐え得るのかというのは、見きわめの非常に難しい問題です。何の危険もないところに、自分を試す喜びはありませんが、危険が自分の対処能力を超えてしまえば、そこでゲーム・オーバーです。

そう考えると、危険を含む旅は、ある意味では最高にスリリングな遊びといえなくもありませんが、一方で、毎日毎瞬、それにふさわしい覚悟を旅人に要求するのかもしれません……。


『深夜特急』の名言

at 19:49, 浪人, 旅の名言〜危機と直感

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