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旅の名言 「騙されることは……」

旅先では、いつも負けまい、甘くみられまい、と肩ひじ張っていた。値切ることに妙な自己満足を覚えていたけど、それでよかったんだろうかといまは思う。騙されることは、そんなにいけないことだろうかって。騙されてスッテンテンになったら、今度はこちらが騙せばいい。生きるか死ぬかの一歩手前まで、騙されていいんですよね。騙されまいとして頑張るなんて、もしかしたらつまらないことなのかもしれないと思う。


『深夜特急〈3〉インド・ネパール』 沢木 耕太郎 新潮文庫 より

『深夜特急』文庫版第3巻の巻末対談での、沢木氏の発言からの引用です。

いわゆる開発途上国を旅していると、買物ひとつとってみても、値札のついた商品をスーパーマーケットで買うようなわけにはいきません。市場に立ち並ぶ個人経営の小さな店で、値段交渉をして買うことになります。

そこでは、モノの値段というものはあいまいで、売り手と買い手の人間関係で決まる部分が大きいため、値切りが欠かせません。現地の人は、こちらが外国人とみるや、とんでもない値段を吹っかけてくることもあります。

しかし、旅人としては、言葉の問題ももちろんですが、そもそも地元での適正価格というものを知らないので、どのくらい値切ればいいのか、全く見当がつかないことも多いのです。そんな時は、売り手と買い手の真剣なやり取りの中で、知識や経験を総動員し、勘を働かせて、一体どのあたりが相場なのか少しずつ探っていくしかありません。それは実に面倒な作業です。

しかし、旅の経験を積み、こういう交渉事に慣れてくると、新しい国や新しい街にやって来たときでも、現地の相場がすぐに分かるし、値切りのコツを覚えて、それほどのストレスもなく買物を楽しむことができます。

中には「旅のプロ」みたいなツワモノもいて、世界各地で仕込んだあらゆる値切りのテクニックを駆使して、地元の人よりも安い値段で買い叩く旅人さえいます。

それはちょっと極端な例にしても、バックパッカーとしての旅が長くなると、特に意識していなくても、値段交渉のテクニックや、宿探しのノウハウ、詐欺師の見分け方などが自然に身についていくのは確かです。

それは、旅の日々を生き抜いていく知恵であり、決して悪いことではないのですが、旅人としてそうした「技術」が身につけばつくほど、旅からハプニングや意外性が消えていくために、どん底の経験もないかわりに感激するような経験もなくなって、旅が平凡な日常生活のようになってしまうという側面もあります。

そうした「旅の技術」に関して、冒頭の引用と同じ対談の中で、次のように触れられています。

沢木 そうなんです。旅の技術というのは両刃の剣みたいなところがあるんですね。
此経 旅の技術を学ぶのを面白がっていた時期もあったけど、結局、初めての旅と同じ旅をしよう。初めての旅の繰り返しをやろう、というところに落ち着きましたね。騙されたっていいや、と。
沢木 思い切りがいいですね。初めての土地では、騙される機会が常にありますよね。だから、騙されまい、と頑張る。騙されてもいい、と思うと、世界が変わりますね……。


「騙されてもいい」という発想は、実はすごいことです。

そもそも「旅の技術」というもの自体、安全で快適な旅を続けたいという旅人の目的がその根本にあるわけで、騙されない、というのはその中でも最も重要な条件の一つです。それが、騙されてもいい、ということになると、そうした「旅の技術」で武装する必要がなくなってしまうのです。

それによって旅人は、「旅の技術」で常に武装するという重荷から解放され、騙されたくないという余計な心配からも解放されて、再び新鮮な気持ちで世界と関わることができるようになるかもしれません。旅人の内面が変わることで、世界が変わるのです。

しかし、注意しなければならないのは、沢木氏にしても、此経氏にしても、長い旅の経験と、旅のあり方に関する自己の内面での真剣な問いを通じて、徐々にそのように考えるようになったのだ、ということです。彼らも、最初は騙されまいとして身構えながら旅をしていたのであり、旅のテクニックは一度しっかりと身につけているのです。

だから私個人としては、冒頭のような発言を文字通りに受け取って、旅の全くの初心者が、何もノウハウを身につけずに、無防備に異国の文化の中に飛び込んでいくのは危険だと思います。「生きるか死ぬかの一歩手前まで、騙されていい」とはいっても、その見極めができなければ、「一歩手前」で踏みとどまれずに、そのままゲームオーバーになってしまいます。

ある意味では、どこまで自分をオープンにできるかという、自分の限界を見極められるようになるということも、長い旅の経験から身につく能力なのではないでしょうか。

そういう意味で、常識的な結論ですが、旅の初心者は、まずは慎重に旅を続けながら、少しずつ「旅の技術」を身につけるべきだと思うし、旅が長くなり、旅にマンネリが生じたら、その時点で初めて、冒頭の引用のようなことを考える意味があるのだと思います。

それでも、「騙されてもいい」という言葉には、強烈なインパクトがあります。旅に関しても、人生に関しても、いろいろなことが重荷になって、毎日が楽しくなくなってしまった時には、一度そのテーマで考えてみる価値があるかもしれません。


『深夜特急』の名言

at 19:00, 浪人, 旅の名言〜危機と直感

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