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「生き神」の解任

ネット上をウロウロしていて、こんなニュースが目に留まりました。

 ネパールで生き神「クマリ」としてあがめられていた少女(10)が、伝統を無視して米国を訪れたことで「神聖な」地位を失った。
 この少女は2歳の時、カトマンズに近いバクタプールで「クマリ」となった。今回英国で製作されたネパールの伝統や政情を紹介するドキュメンタリーのプロモーションで最近に訪米したことが、地元の宗教指導者らの怒りを買ったという。
 クマリの伝統を管理する団体の責任者はロイターの取材に対し「許可なく海外渡航した彼女は伝統に反しており、間違っている」と指摘。この少女に代わる新たなクマリを探す意向を示している。 (後略)
(2007年7月3日 ロイター)


クマリとは、ロンリープラネットの「生き神クマリ」の項によれば、ネパールのカトマンズ盆地に住むネワール族の少女の中から、細かな選考基準とテストを通じて選ばれる「生き神」です。祭りの儀式で重要な役目を務めるほか、日常的にも人々から崇められる存在ですが、初潮を迎えるか、ケガで出血すると次のクマリ候補と交替することになっています。

ネパールでクマリといえば、首都カトマンズのダルバール広場の「クマリの館」に住んでいる「ロイヤル・クマリ」が有名ですが、今回「解任」されたのは、カトマンズ近郊に大勢いる「ローカル・クマリ」の一人のようです。また、クマリは「生き神」の条件を満たさなくなり次第交替するので、クマリの「解任」それ自体はそれほど特別なニュースではありません。

ただ、気になったのは、(これは私の勝手な解釈なのですが、)このニュースを書いた記者の言外のメッセージとして、「子どもを生き神様として崇めてみたり、逆に海外に出かけたくらいでその資格を取り上げてみたり、本当にアジア人の伝統というやつはわけが分からない……」というニュアンスが感じられることです。

日本でこのニュースを目にする人の多くも、同じようなことを感じるのかもしれません。

しかし、(もちろん、このニュースのわずかな情報だけで物事を判断するのには問題があるとは思いますが、)私個人としてはどちらかというと「地元の宗教指導者」に対して同情的で、彼らとしてはこのような対応をせざるを得なかったという気がするのです。

どういう理由からかは分かりませんが、伝統的なクマリは、「生き神」と見なされる期間は、決められた「クマリの館」の中だけで、外部の情報にほとんど触れない徹底的な管理のもとで生活することになっているようです。

他の子と遊びたい盛りの幼い子供にとって、それは苛酷な経験だと思いますが、地元の人々にしてみれば、それもクマリという制度を支える重要な条件の一つになっているはずです。そのルールから逸脱することは、宗教と生活が一体となった彼らの共同体を支えている基盤そのものを揺るがすことになりかねません。

そもそも、なぜクマリがそのような厳重な管理を逃れ、パスポートまで取得して海外に出ることができたのでしょうか。それには「クマリの館」の身近な人々によるバックアップもあったはずです。実際のところ、地元の人の中にも、クマリの海外渡航を問題視する人・しない人の対立があるのでしょう。

しかしそれでも、クマリを海外に連れて行こうなどと考える人がいなければ、こんな問題は起きなかったはずです。生身の人間と宗教制度が渾然一体となった「生き神」という存在をネパールの土地から引き剥がし、ジェット機でアメリカまで運んで、欧米人の好奇の視線にさらすことに、一体どのようなメリットがあるというのでしょうか?

「ネパールの伝統や政情を紹介するドキュメンタリー」を制作した人物は、ネパールについては人並み以上に学んだはずです。クマリを海外まで連れて行ったりしたら、伝統的な「生き神」の制度に深刻なダメージを与えるかもしれないということが想像できなかったのでしょうか? 

もちろん、それが具体的にどのような種類のダメージなのか、私にはうまく言葉で説明できないし、「地元の宗教指導者」もそれは同じだろうと思います。それは「目には見えない世界」に関する、とても微妙なものだからです。

ただ、ドキュメンタリーのスタッフに地元の人々への敬意と常識的な感受性があれば、クマリを外国に連れ去ってしまうことが、ネパールの人々を深いところで傷つける無礼で行き過ぎた行為だということは容易に想像できたはずだと思うのです。

もっとも、彼らは、「クマリを宣伝のためにアメリカに連れて行ってはいけないなんて、どこにもルールとして書いてなかったじゃないか!」と言うのかもしれませんが……。

こういう事件は、歴史上数え切れないほど繰り返されてきたけれど、21世紀になってもまだ同じことが起こっているんだな、と思うと悲しくなりました。

at 18:46, 浪人, ニュースの旅

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