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『あなたのTシャツはどこから来たのか? ― 誰も書かなかったグローバリゼーションの真実』

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評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

最近、中国産の商品にまつわる事件がしきりに報道されるようになり、私たちが身近に接している品物の多くが海外からやって来ていることに、改めて驚きや不安を感じている人は多いと思います。

しかし今や、あまりにも多くのモノが、あまりにも多様なルートで流れているので、その実態をつかむのは容易なことではありません。

本書の著者ピエトラ・リボリ氏は、原料から古着まで、一枚の平凡なTシャツがたどる旅を題材にしながら、政治と経済が複雑に入り組んだグローバル化の光と影を鮮やかに描き出しています。

リボリ氏は、テキサスの綿農家、上海の紡績・縫製工場、ワシントンのロビイスト、マイアミのプリント工場、ニューヨークとタンザニアの古着業者などを取材する一方で、さまざまな歴史・統計資料も駆使し、歴史的時間と地理的空間を縦横に駆け回りながら、グローバル化の一つの「物語」を織り上げていきます。

彼女はエコノミストとして、自由な市場を信頼する立場からこの本を書いているのですが、一方的な市場原理主義ではなく、様々な視点からグローバル化をとらえる配慮もなされているので、いわゆる反グローバル化の立場に立つ人でも、この本を読む価値は充分にあるはずです。

まず、Tシャツの原料となる綿花の栽培に関しては、先進国アメリカが今でも世界に君臨しています。それは多額の補助金だけによるものではなく、労働市場などの様々なリスクから農場経営者を守るための公共政策がとられ続けてきた結果でもあります。

例えばかつての奴隷制度から小作制度、外国人労働者の利用、機械化の完成に至るまで、綿農家は200年もの間、巧みに労働市場のリスクを回避し続けることができたのだとリボリ氏は述べています。

アメリカから輸出された綿は、中国で紡績・製織・縫製などの工程を経てTシャツとなるのですが、中国での衣料品製造に関しては、中国脅威論を唱える米国繊維・衣料品業界や反グローバル主義者から、こうした労働集約的な工程が、労働者の権利を無視した「搾取工場」で行われていると批判されています。

これについて、リボリ氏は中国の戸籍制度などを挙げて、そうした実態があることを認めつつ、こうした工場が、農村に縛りつけられていた女性に経済的な自由と自立の機会を与えていることも指摘し、イギリス・アメリカ・日本・そして他のアジア諸国が、経済発展へと向かう歴史の中で同じステップを経過してきたのだとも述べています。

一方で、産業革命当時の劣悪な労働環境が、過去数世代にもわたる「活動家」の努力によって改善され続けてきたことも事実です。

リボリ氏は、市場が健全に機能し続けていくためには、グローバル化の推進派も反対派も必要だという立場です。「両者の意図せざる共謀」にこそ希望がある、というわけです。

次に、中国で生産されたTシャツは、米国の輸入割当という貿易障壁に直面します。これは、アメリカの繊維・衣料品産業の労働者の雇用を守るためのものでしたが、リボリ氏は、これは結果的に雇用を守ることができなかったばかりでなく、輸入割当という複雑なシステムを作り上げたことで、それを維持するための官僚たちや、割当枠をめぐる国際的なブラック・マーケットまで生み出してしまったと批判します。

しかし逆に、この貿易障壁を今すぐ解体しようとすれば、こうした規制を前提にしてこれまで世界中で築き上げられてきた一種の生態系を破壊することになります。それは、この障壁のおかげでアメリカとの貿易を続けてこられた多くの国々から莫大な雇用を奪うことにもなりかねないという、非常にややこしいことになっています。

割当枠の中にすべり込み、やっとのことでアメリカに輸入されたTシャツは、マイアミでカラープリントされ、小売店の店頭に並ぶことで、ようやくリボリ氏の手許にたどり着くのです。

綿花から始まって衣料品として輸入されるまで、Tシャツの旅は、実は市場の物語というよりは、政治の物語だったということが見えてきます。グローバル化に反対する人々の多くは、自由競争市場の脅威を強調しますが、少なくともTシャツに関する限り、むしろ自由競争は巧みに回避されていることがわかります。

最後にリボリ氏は、その後のTシャツがたどる旅として、タンザニアとの古着貿易を取り上げています。ここでは何百もの零細な企業が、互いの人間関係と信頼だけを頼りに、参入障壁も補助金もない環境で熾烈な競争を繰り広げているのです。

もちろん、Tシャツの旅だけでグローバリゼーションの問題をすべて網羅するわけにはいきません。それに、もしかするとリボリ氏は、市場への政治の介入ぶりを強調するために、あえてそれが顕著なTシャツという商品を選んだのかもしれないし、彼女が描いたTシャツの物語は、彼女のエコノミストとしての思想的な立場を多分に反映したものでもあるはずです。また、この本には、市場での競争の敗者となった人々の具体的な話はほとんど出てきません。

しかし、そうした点を差し引いたとしても、グローバル化の推進派も反対派も、市場原理だけを過大評価することなく、歴史や政治のもたらす影響にも目を向けるべきだ、というリボリ氏のメッセージには説得力があると思います。

この本を読んで、現実は複雑であり、物事を様々な視点から見る必要があることを痛感しました。グローバリゼーションに関しては、私ももっといろいろと勉強する必要があるようです……。



本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします


 

at 19:11, 浪人, 本の旅〜人間と社会

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