2007.07.21 Saturday
『日本の聖地 ― 日本宗教とは何か』
評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
本書では、熊野・伊勢・出雲・比叡山・四国霊場・吉野山・出羽三山など、日本を代表する聖地が取り上げられ、それぞれの聖地の成り立ちについて論じられています。
日本の古代史・宗教史はおろか、日本の地理にも明るくない私にとっては、聞きなれない固有名詞が次から次へと出てくるこうした本はちょっと苦手なのですが、それでも地図帳を片手に読み進めていくと、「異宗教融合の磁場」としての日本の聖地の姿が次第に浮かび上がってきます。
著者の久保田展広氏によれば、日本の聖地は、「古来の祖先崇拝、霊魂信仰、あるいは水神信仰等々、日本の民俗信仰にゆかりの霊地であったところへ仏教が融合し、道教的要素が融合した、異宗教融合の世界」なのです。
歴史的文献や、聖地に現存する寺社、その場所にまつわる伝承や遺物には、そうした融合の過程が刻まれており、それらの資料を集め、注意深く分析することによって、それぞれの時代において聖地が果たしていた役割や、異宗教融合の歴史を復元することもできます。ある意味では、日本の聖地は、各時代の記憶をそのまま保存するタイムカプセルのような役目を果たしているのだといえるかもしれません。
もっとも、文献を渉猟し、そうしたプロセスを推測する作業は非常に煩雑です。日本の場合、神様や仏様が非常に多いのでなおさらです。本書の内容の大半は、そうした復元作業に関するものなので、その方面に興味のある人は謎解きとして充分楽しめるでしょうが、それ以外の人にとってはあまり面白くないかもしれません。
私個人としてはむしろ、個々の聖地の具体例を通しておぼろげに浮かび上がってくる、何らかの共通性のようなものに、より一層の興味を覚えます。
例えば、観音菩薩への信仰が、湧水・泉・川・海など、水と深く関わる聖地と結びつくなど、宗教の融合や習合のプロセスにおいて、それぞれの土地の持つ特質が重要な役割を果たしており、習合する場合の組み合わせにも一定のパターンがみられるのです。
別の言い方をすれば、日本人は何もかもをそのまま受け入れたわけではなく、バラエティー豊かな渡来の文化や宗教の見かけの下にある本質を直観し、それぞれの土地の風土になじむものだけを注意深く選択し、受け入れてきたともいえます。
そして、そうした選択を促した根源的な要因を探り、聖地と先史時代の人々の信仰との関わりにまでさかのぼっていけば、そこには、聖なる場所のもつ力というものが見えてくるように思われます。
しかし、こうした「根源的な大地のエナジー、日月がもつ、生命を促すはかりしれない力」は、ことばの世界を超えたものであり、言葉や論理をいくら駆使しても表現し切れないのも確かです。
聖地の聖地たるゆえんは、やはり現地に足を運んで、実際に感じてみるしかないのかもしれません……。
本の評価基準
以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。
★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします
本書では、熊野・伊勢・出雲・比叡山・四国霊場・吉野山・出羽三山など、日本を代表する聖地が取り上げられ、それぞれの聖地の成り立ちについて論じられています。
日本の古代史・宗教史はおろか、日本の地理にも明るくない私にとっては、聞きなれない固有名詞が次から次へと出てくるこうした本はちょっと苦手なのですが、それでも地図帳を片手に読み進めていくと、「異宗教融合の磁場」としての日本の聖地の姿が次第に浮かび上がってきます。
著者の久保田展広氏によれば、日本の聖地は、「古来の祖先崇拝、霊魂信仰、あるいは水神信仰等々、日本の民俗信仰にゆかりの霊地であったところへ仏教が融合し、道教的要素が融合した、異宗教融合の世界」なのです。
歴史的文献や、聖地に現存する寺社、その場所にまつわる伝承や遺物には、そうした融合の過程が刻まれており、それらの資料を集め、注意深く分析することによって、それぞれの時代において聖地が果たしていた役割や、異宗教融合の歴史を復元することもできます。ある意味では、日本の聖地は、各時代の記憶をそのまま保存するタイムカプセルのような役目を果たしているのだといえるかもしれません。
もっとも、文献を渉猟し、そうしたプロセスを推測する作業は非常に煩雑です。日本の場合、神様や仏様が非常に多いのでなおさらです。本書の内容の大半は、そうした復元作業に関するものなので、その方面に興味のある人は謎解きとして充分楽しめるでしょうが、それ以外の人にとってはあまり面白くないかもしれません。
私個人としてはむしろ、個々の聖地の具体例を通しておぼろげに浮かび上がってくる、何らかの共通性のようなものに、より一層の興味を覚えます。
例えば、観音菩薩への信仰が、湧水・泉・川・海など、水と深く関わる聖地と結びつくなど、宗教の融合や習合のプロセスにおいて、それぞれの土地の持つ特質が重要な役割を果たしており、習合する場合の組み合わせにも一定のパターンがみられるのです。
別の言い方をすれば、日本人は何もかもをそのまま受け入れたわけではなく、バラエティー豊かな渡来の文化や宗教の見かけの下にある本質を直観し、それぞれの土地の風土になじむものだけを注意深く選択し、受け入れてきたともいえます。
そして、そうした選択を促した根源的な要因を探り、聖地と先史時代の人々の信仰との関わりにまでさかのぼっていけば、そこには、聖なる場所のもつ力というものが見えてくるように思われます。
宗教を考え、そこに説かれた教えに耳をかたむけるとき、私たちはあまりに整理され、論理化された形而上的示唆に従いすぎてはこなかっただろうか。宗教を宗教として促す、根源的な大地のエナジー、日月がもつ、生命を促すはかりしれない力に、私たちはもっと気づかなくてはならない。そして宗教は本来、人間の力が生み出したものではなく、この目の前の自然が、その生態系がもつ、いのちの刻々の変化こそが、それを促し、指し示してきたのではなかっただろうか。
しかし、こうした「根源的な大地のエナジー、日月がもつ、生命を促すはかりしれない力」は、ことばの世界を超えたものであり、言葉や論理をいくら駆使しても表現し切れないのも確かです。
聖地の聖地たるゆえんは、やはり現地に足を運んで、実際に感じてみるしかないのかもしれません……。
本の評価基準
以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。
★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします
