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『ビーチ』

アレックス ガーランド

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この物語の主人公、イギリス人のリチャードは、アジアを一人で旅する若いバックパッカー。彼はバンコクのカオサン通りのゲストハウスで、隣の部屋に泊まっていた奇怪な男から、謎のビーチの場所を記した地図を受け取ります。

冒険心を刺激された彼は、ゲストハウスで知り合ったフランス人カップルと共にサムイ島に渡り、闇屋のボートをチャーターして秘密のビーチへと向かうのですが……。

この物語は、2000年に公開された映画『ザ・ビーチ』の原作にもなっているので、映画を見てストーリーを知っている方も多いと思います。

私はその映画の一部だけを見たことがあるのですが、そこでのバックパッカーの描かれ方には偏見のようなものが感じられ、あまりいい印象を受けませんでした。原作も似たような感じだろうと思って敬遠していたのですが、今回初めて読んでみて、どうやら原作者のガーランド氏自身が、かつてバックパッカーとしてアジア各地を旅していたらしいと分かりました。

もちろんこの物語自体は、別に旅好きの人でなくてもエンターテインメントとして楽しめるはずですが、旅人ならではの視点も随所に織り込まれているので、バックパッカー経験のある人ならこの作品世界により深く引き込まれるだろうし、読んだあとの衝撃も大きいのではないかと思います。

前半では、この小説の舞台となる「ビーチ」の風景と、そこでの半自給自足的な生活、少人数で和気あいあいと暮らす人々の姿がリアルに描写され、まるで実在するヒッピー・コミューンのルポでも読んでいるような臨場感があります。

しかし、後半に入ると物語は一転し、その小さなパラダイスに外界からの脅威が次から次へと襲いかかります。息もつかせぬ展開の果てにコミュニティは崩壊し、そこにはおぞましい結末が待っています。

若者の冒険心、試練の末にたどり着いたパラダイス、つかの間の平和な日々、コミュニティを襲う危機、メンバーの分裂、疎外と排除、疑心暗鬼、現実逃避、そして崩壊……。

現実にはありえないような展開であるにもかかわらず、シンプルで分かりやすいストーリーの力に加えて、登場人物の会話や細部のディテールがしっかり描き込まれているせいか、物語には気味が悪いほどのリアリティがあります。

ところで、私個人としては、登場人物のダフィやサルといった「ビーチ」の創設者たちが、旅人たちの理想のコミュニティとして秘密のビーチを死守しようとした気持ち(その凄まじいまでの執念にはついていけないとはいえ)もよく分かるような気がします。

バックパッカーなら誰しも、商業主義に毒された有名観光地にうんざりしたり、自分のお気に入りの街やビーチが年を追うごとに騒々しくなり、すっかり雰囲気が変わっていくことに、居たたまれない気持ちになったことがあるはずです。

そういう意味では、この物語の舞台の秘密のビーチは、多くの旅人が味わう幻滅の対極にある、いつまでも変わらない永遠のパラダイスへの、旅人のあこがれの象徴でもあるのです。

いつまでも理想の姿のままの場所など、現実世界のどこにもないと薄々気づいているのに、ひょっとしたらどこかに見つかるのではないかと思いつつ、自分にとっての「約束の地」を求めて、あてもなく世界中をさまよう旅人も多いはずです。もし私が、この物語の主人公のように「ビーチ」への地図を渡されたら、その誘惑に打ち勝つことはできないかもしれません。

衝撃的なのは、ガーランド氏がこの物語の中で、そんな旅人たちの幻想を、徹底的に破壊してみせたということです。

もちろん、この作品を単なるエンターテインメントととるか、作者の象徴的意図を(勝手に)読み取るかどうかは読者の自由です。しかし私はこんな風に解釈したいと思います。

ガーランド氏は、バックパッカーとしてアジアを旅するうちに、理想の土地を求める旅人たちのあこがれは、結局のところ幻想に過ぎないと痛感したのだと思います。そして、たとえその幻想にしがみついて、秘密のビーチのような固く閉ざされたコミュニティを作り上げたとしても、それは遅かれ早かれ現実世界の洗礼を受けて、激しく変わっていかざるを得ないということを冷酷に示してみせたのだという気がします。

そしてそれは、旅人の幻想に限らず、現実世界での人々のあらゆる幻想についても当てはまることなのではないでしょうか。

この物語を、バックパッカーたちはどう受けとめるのでしょうか。その感想を是非聞いてみたいと思います。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします

at 18:26, 浪人, 本の旅〜旅の物語

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