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カトマンズの宝石店で

ネパールのカトマンズに滞在していたときのことです。

カトマンズのタメル地区は、トレッキング客やバックパッカー向けの安宿やレストラン、旅行代理店や土産物屋がひしめく一大観光拠点です。

狭いタメル地区の中に、さまざまな国の料理を扱うレストランが何軒もあるのですが、ネパール人コックの作る料理は、和食を含めてなかなかの水準で、値段も手頃です。旅人の中には、ここでしばし旅の疲れを癒しつつ、各国料理の食べ歩きを楽しむ人も少なくありません。

私も、そうした例に漏れず、居心地のいいカトマンズの雰囲気を味わいながら、ぶらぶらと長居を続けていました。

そんなある日、いつものようにおいしいパン屋に立ち寄り、優雅なティータイムを楽しんでいると、一人の少年が英語で声をかけてきました。彼は私の向かい側の席に座ると、身を乗り出すようにして自分のことを話し始めました。

南アジアの人々は、概して好奇心旺盛なのか、外国人を見つけると話しかけたり、いろいろと質問してくることがめずらしくありません。そのほとんどは「どこから来たのか?」とか、「何の仕事をしているのか?」「結婚しているのか?」といった他愛のない会話なのですが、ヒマを持て余している旅人にとっては、ちょうどいい時間つぶしになることもあります。

私は、他にすることもなかったので、少年の話に適当に付き合っていたのですが、彼のあまりに強引な話の進め方に、すぐに違和感を感じ始めました。そこには、明らかに何か特定の意図があって、シナリオ通りに話を持っていこうという作為が感じられました。

案の定、彼は座って5分もたたないうちに、兄が経営している宝石店へ遊びにこないか、と言い出しました。聞いてみると、彼らはインド系の住民で、タメル地区で商売をしているのだそうです。

客引きに誘われるまま、宝石店に遊びに行ったりしたら何が起こるか、インドを旅したことのある人ならピンと来るはずです。

[宝石及び絨毯詐欺]

 この詐欺犯罪は、殆どがアグラ、ジャイプールで発生しています。典型的な手口は以下のとおりです。

 観光中に声を掛けてきた者やオートリキシャやタクシーの運転手に、宝石店や絨毯屋に連れて行かれ、その店で、商品を日本国内の指定する店まで届けて欲しいと持ちかけられる。店員からは、「取りあえずクレジットカードで支払いをしてもらうが、商品は帰国後手元に届くように直接発送する。商品が指定された店に無事届けば、その支払いをキャンセルした上で礼金を渡すことを約束する」などと言われ、支払いを迫られる。あるいは、「日本の取引先に宝石を送りたいが、輸出許可等が面倒なので、取り敢えずあなたのクレジットカードで購入したことにして日本まで運んで欲しい。日本では取引先があなたにコンタクトするので、商品と引き換えに購入代金と礼金をもらって欲しい」等と言葉巧みにクレジットカードでの決済を迫られる。日本人旅行者がこれを断ると、脅迫まがいに支払いを強要する場合もあります。どちらの場合も商品は届かなかったり、日本で念のため鑑定してもらったら、二束三文の商品であったりという典型的な詐欺です。

外務省 海外安全ホームページ インド 【安全対策基礎データ】 より。ネパールの項にも同様の記述があります。)


要は貧乏旅行者に、金になるアルバイトだと信じ込ませて多額の金を前払いさせ、その担保となる商品を送らなかったり安物をつかませたりするのです。帰国しても取引先とのコンタクトの話などデタラメで、被害者はそこで初めて騙されたことに気づくのですが、すでに後の祭りで、泣き寝入りするしかありません。

タージマハルで有名なアグラなどの観光地でよくあるパターンなのですが、同じ手口がついにネパールにまで広がってきたのかと思いました。

少年の言うままに宝石店に行ったらどうなるか、この先の展開が読めてしまったので、彼をどうやって追い返そうかと考えていると、少年はなおも話を続け、兄の宝石店で一緒に写真を見よう、と言います。兄が世界各国を旅した写真があるので、見たらきっと面白いはずだ、というのです。

全く見知らぬ他人の写真を見せられても、楽しいだろうとはとても思えませんでしたが、ここでふと魔が差したのか、少年の誘いに乗ったふりをして、ちょっと様子を見てもいいかな、という気持ちが湧いてきました。

どうせ今日はヒマなんだし、最終的にダマされないように用心すればいいじゃないか、ヤバそうになったら早めに逃げ出せば大丈夫、などと、いつになく大胆なことを考えました。結局、彼の兄が経営するという宝石店に行ってみることにしたのです。

パン屋から宝石店までは、ほんの数分でした。宝石に興味のない私は、こんなことでもなければ足を運ぶこともなかったでしょう。その小さな店に入ると、兄だという30代くらいのインド人と、なぜか欧米人の老人がいました。

この老人は一体何者なのでしょうか。一見したところ、この店によく来るなじみの客という感じです。手許に並べられた宝石を手に取りながら、主人のインド人と親しげに会話を交わしています。

やがて少年が、写真の入った簡易アルバムを何冊か持ってきました。開いてみると、目の前にいる主人が、日本やヨーロッパの風景を背景に写真に収まっています。中には、日本人バックパッカーの自宅に招待されたのか、若い日本人男性とその家族が、宝石店の主人を家に迎えている写真もあります。

写真を眺めていると、主人と老人、そして私と少年のために、チャイが4つ運ばれてきました。一瞬、何かの薬が入っているかもしれないと躊躇しましたが、店の中には他の客の姿も見えたので、とりあえず大丈夫だろうと考え、少しずつ口に運びました。

チャイを飲んで一服すると、宝石店の主人は、すぐに本題に入りました。

こちゃこちゃと回りくどい説明だったのですが、要は、日本で宝石の見本市をやるために宝石を送らなければならないのだが、いろいろ手続きをするのが大変だ、ついては君に「運び役」をお願いしたいという、先ほど引用した典型的な詐欺のパターンです。

老人も一緒になってその話を聞いているところからして、彼は客ではなく、店の用意したサクラなのかもしれません。彼は欧米人のバックパッカーを信用させるためにこの店に雇われていて、店に有利な証言をしてみせたりする役回りを演じているのではないでしょうか。

私は、店の主人の頼みをのらりくらりとかわしながらも、心の中で怒りが込み上げてくるのを感じていました。先ほどの日本人バックパッカーの写真のことが、頭から離れません。

その日本人旅行者は、別にこの店で騙されたわけではなく、何かの理由で店の主人と仲よくなり、何も知らずに友情の証として彼を日本の家に招待したのかもしれません。しかし、彼らの写真は今こうして、他の旅人たちを騙して信用させるための道具として悪用されてしまっています。

日本人の若者は、このことを知っているのでしょうか? そして、本当のことを知ったらどう思うでしょうか?

人との友情を踏みにじる、この詐欺師のやり方が、私には許せませんでした。

しかし、この宝石店で詐欺が行なわれているという状況証拠はあっても、彼らに反撃できるだけの力は、私にはありません。

この場で彼らのことを詐欺だと言って非難するのは簡単です。しかしきっと、彼らは笑って即座にそれを否定するだろうし、彼らの商売に何のインパクトも与えないでしょう。他の人が騙されたという証拠を私は持っていないし、私もまだ、騙されたわけではありません。詐欺が行なわれているという明白な証拠は、どこにもないのです。

それに、私には宝石を鑑定する能力がないので、ここで私に運ばせようとした石が本当に安物なのかどうか判断できません。ほとんど限りなくゼロに近い確率ですが、彼らが全く詐欺をはたらいておらず、値段相応の宝石を旅人に運ばせているという可能性もないわけではないのです。

彼らが実際に詐欺をしているかどうかは、旅人が帰国してみなければ分からないし、だからこそ被害者は泣き寝入りするのです。ある意味では、考え抜かれたやり口だともいえます。

私は、しばらく日本に帰国する予定はなかったので、それを理由に主人の要求をかわし続けました。すると、主人は脈がなさそうだと分かったのでしょう、弟の少年に向かって、「こいつはダメだ、追い出せ」というように目で合図しました。

私は少年に促され、店を出ました。

カモにならないと見るや、客をさっさと放り出すというあまりに現金な扱いは、いかにも彼らの商売にふさわしいやり方に感じられました。

結局、金を払うような状況に追い込まれずに済んだという意味では、私はまあ、運がよかったのかもしれません。それに、私のような人間でも簡単に見抜ける不自然さで、しかもあまりしつこく私を追い込んでこなかったところを見ると、彼らもまだ詐欺のプロといえるほど商売に慣れていなかったのかもしれません。

しかし、社会勉強になったと言うにしては、何とも後味の悪い体験でした。

観光客の集まる街には、こんな落とし穴もあちこちにあります。皆様もどうぞお気をつけください。


JUGEMテーマ:旅行

at 20:18, 浪人, 地上の旅〜インド・南アジア

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