2008.02.05 Tuesday
『アジアの弟子』
評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
本書は、旅行作家の下川裕治氏が、旅を通じてアジアと深く関わり、「アジアの弟子」として生きてきた自らの半生を綴った作品です。
新聞社に勤めていた下川氏は、27歳のときに会社を辞め、長い旅に出ました。
アフリカ、アジアの国々をあてもなく放浪するなかで、彼は自らを縛りつけていた日本社会の重苦しさから解き放たれ、貧しい国の人々の限りなくシンプルな生き方に溶け込んでいきます。
しかし下川氏は、インドの安宿にくすぶる貧乏旅行者たちのように日本と訣別することもできず、これからどうするのか明確な結論も出ないまま、日本に帰国したのでした。
フリーライターとして再び多忙な日常へと復帰したものの、彼は日本での生活に違和感を感じ続け、仕事の合間をみては、何度もアジアへの旅を繰り返します。彼はやがて仕事を中断し、タイ語を学ぶためと称してバンコクでの長期滞在に踏み切ります……。
日本の超多忙で重苦しい生活と、アジアの人々のシンプルで軽い生き方との間を揺れ動く下川氏の姿に、私は強い共感を覚えずにはいられませんでした。
日本の社会や生き方とは違う世界に一度でも身を浸し、心の中にアジアの底知れなさを抱え込んでしまった人間にとって、その魅力に抗うことはほとんど不可能に近いのですが、そうかといって、日本に生まれ育った人間としては、日本で生きるという選択肢を完全に捨て切ることもできないのです。
そうやって二つの世界の間で引き裂かれるような悩みは、日本を出ることがなければ味わわずに済んだ苦しみなのかもしれませんが、逆に、別の世界を知っていて、いざとなればそこに逃げ込むことができると思えるからこそ、出口のない日本での日常に耐えていけるのかもしれません。
下川氏は自らについて、「人に誇れることなどなにもない危うい人生だった」と書いていますが、本書を読む限りでは、彼は先の見えない「二十代から三十代にかけての綱渡り」の日々においても、周囲の常識的な判断とは違う、思い切った決断をとり続けているように見えます。
それが日本的な常識や美意識からどう見えるかは別にして、私にはそれは「アジアの弟子」としての、人生を賭けた生き方の実践のように見えるし、まだ世間がアジアにほとんど関心を抱かず、国内のバブルに酔いしれていた1980年代の頃から、自らの心の声に従うようにして、ひとりで黙々と道を切り開いていたその姿に、静かな迫力を感じました。
本の評価基準
以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。
★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします
本書は、旅行作家の下川裕治氏が、旅を通じてアジアと深く関わり、「アジアの弟子」として生きてきた自らの半生を綴った作品です。
新聞社に勤めていた下川氏は、27歳のときに会社を辞め、長い旅に出ました。
アフリカ、アジアの国々をあてもなく放浪するなかで、彼は自らを縛りつけていた日本社会の重苦しさから解き放たれ、貧しい国の人々の限りなくシンプルな生き方に溶け込んでいきます。
しかし下川氏は、インドの安宿にくすぶる貧乏旅行者たちのように日本と訣別することもできず、これからどうするのか明確な結論も出ないまま、日本に帰国したのでした。
フリーライターとして再び多忙な日常へと復帰したものの、彼は日本での生活に違和感を感じ続け、仕事の合間をみては、何度もアジアへの旅を繰り返します。彼はやがて仕事を中断し、タイ語を学ぶためと称してバンコクでの長期滞在に踏み切ります……。
日本の超多忙で重苦しい生活と、アジアの人々のシンプルで軽い生き方との間を揺れ動く下川氏の姿に、私は強い共感を覚えずにはいられませんでした。
日本の社会や生き方とは違う世界に一度でも身を浸し、心の中にアジアの底知れなさを抱え込んでしまった人間にとって、その魅力に抗うことはほとんど不可能に近いのですが、そうかといって、日本に生まれ育った人間としては、日本で生きるという選択肢を完全に捨て切ることもできないのです。
そうやって二つの世界の間で引き裂かれるような悩みは、日本を出ることがなければ味わわずに済んだ苦しみなのかもしれませんが、逆に、別の世界を知っていて、いざとなればそこに逃げ込むことができると思えるからこそ、出口のない日本での日常に耐えていけるのかもしれません。
下川氏は自らについて、「人に誇れることなどなにもない危うい人生だった」と書いていますが、本書を読む限りでは、彼は先の見えない「二十代から三十代にかけての綱渡り」の日々においても、周囲の常識的な判断とは違う、思い切った決断をとり続けているように見えます。
それが日本的な常識や美意識からどう見えるかは別にして、私にはそれは「アジアの弟子」としての、人生を賭けた生き方の実践のように見えるし、まだ世間がアジアにほとんど関心を抱かず、国内のバブルに酔いしれていた1980年代の頃から、自らの心の声に従うようにして、ひとりで黙々と道を切り開いていたその姿に、静かな迫力を感じました。
本の評価基準
以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。
★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします
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