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『日本を降りる若者たち』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

「外こもり」という言葉を、最近あちこちで目にするようになりました。

派遣やアルバイトで集中的に金を貯めては日本を飛び出して、東南アジアなど物価の安い国でのんびりと生活し、金がなくなると日本に帰って再び金を稼ぐというサイクルを繰り返す人々を指す言葉です。

バックパッカーの間では昔から、何年も何年も旅を続けたあげく日本社会に復帰できなくなり、旅の資金を稼ぐためだけに日本に帰るという筋金入りの旅人がいることはよく知られていました。また、世界各地の安宿では、現地にすっかり腰を落ち着けてしまった「沈没」組の旅人を見ることもめずらしくありません。私自身も沈没系のバックパッカーなので、この辺りの事情についてはよく分かります。

しかし、最近はどうも様子が変わってきたようです。

旅行作家の下川裕治氏によると、そんな外こもり生活を続けている日本人が、現在タイだけで数千人、アジア全体では1万人くらいいるというのです。

かつての筋金入りの万年放浪者や沈没系バックパッカーだけでなく、フリーターや元サラリーマン、心身の病に苦しむ人、少しでも生活費を安くあげようとする年金暮らしの老人まで、さまざまな事情を抱えた人たちがバンコクに流れてきて、そのまま長逗留するようになったのです。

この本によると、バンコクで外こもりが目立つようになったのは1996年前後だといいます。その頃にタイでのビザなし滞在が30日まで可能になったことや、カオサン通りが世界有数のゲストハウス街として発展したことも影響しているようです。

今では、その多くがカオサン通りの安宿を出て、さらに割安な月払いのアパートに入居するようになったといいます。中には外こもりという言葉どおりにアパートの部屋に引きこもってしまい、ほとんど外に出てこない生活をしている人もいるようです。

下川氏はバンコクの安宿やアパートに暮らす外こもりの日本人にインタビューし、彼らがそうした生活に至った事情や、そのつつましい暮らしぶりを、具体的な金額も交えて淡々と描いています。

それにしても不思議なのは、人数的にはたぶん同じくらいだと思われる国内の「ネットカフェ難民」が、格差社会の象徴として話題を呼んでいるのにくらべて、ある意味では似たような生活環境にいる海外の外こもりの存在は、今のところあまり注目されていないということです。

ネットカフェ難民の場合は、貧しくて、悲惨で、かわいそう、というステレオタイプなイメージで理解しやすいのに対して、外こもりの方は一見、南の国でのんびり楽しそうに暮らしているように見えなくもないので、汗水たらして働いている大方の日本人の共感を得られないのかもしれません。

あるいは、何だかんだ言っても、外こもりの多くは海外で暮らす費用を自分で稼いでいるのだし、日本とアジアの往復生活にしても、一つのライフスタイルとして確立されているとも言えるわけで、それに対して他人がとやかく言ったり同情したりする余地がない、ということなのかもしれません。

しかし、この本に登場する外こもりの若者、あるいは経済的に追い詰められて海外まで流れてきた老人たちの事例を読んでいると、何とも切ない気持ちになってきます。

彼らの姿を通して浮かび上がってくるのは、閉塞し、不寛容な日本社会で生き続けることの辛さであり、『日本を降りる若者たち』というこの本のタイトルが示しているように、一部の人々は、そんな日本社会から、意識的・無意識的に距離を置きはじめているように見えるのです。

もちろん、外こもり一人ひとりには、そうなるだけの個人的な事情があるし、下川氏も指摘しているように、彼らの中に人生に対する甘さがあることも確かでしょう。

しかし、単に彼らを社会への不適応者とみなし、すべてを個人の問題として片づけてしまうのにも無理があるように思います。私にはやはり、彼らを海外生活へと押し出していく社会の構造のようなものがあると思うのです。

外こもりは日本人に限った現象ではなく、バンコクや世界各地の安宿街には、同じような生活を送っている欧米人もたくさんいます。

欧米や日本といった「先進」諸国は、経済成長という社会目標に適合できる人間であることを全ての国民に要求します。そして、「規格外」の人間や、経済的な価値を効率的に生み出せない人間を排除していくような社会のしくみがあります。その動きは、グローバリゼーションの進行によってさらに加速しつつあるように見えます。

 南北格差は、地球規模の経済問題になって久しいが、いま、北に広まりつつある格差社会についていけない人々が、南の国々に救われていくという構図が生まれている気がする。厳しく不寛容な色合いを強める北側の社会のなかで歯をくいしばって生きるぐらいなら、南の国で節約しながら暮らしたほうが楽じゃないか……。北側社会で恵まれない日々をすごす人々は、南をそんなふうにもとらえているのだ。


北側と同じような経済成長を目指す「南の国」であるタイにとっても、金離れのよくない外こもりの人々は「招かれざる客」なのかもしれませんが、少なくとも現在のタイとタイ人、そして多くの「南の国」には、そんな人々でも受け入れてしまう寛容さというか、アバウトさが残っているようです。

しかし、世界は刻々と変わりつつあります。何年か先にはタイもまた、外こもりにとって安住の地ではなくなっていくのかもしれません。

それでも、彼らがかつて日本を出てバンコクで暮らすことを選んだように、そのときになれば、彼らはまた暮らしやすい土地を求めて、さらに別の街へと移り住んでいくのでしょう。

外こもりと呼ばれる人々の生き方は、一見すると怠惰なだけに見えますが、実際にはその下に、タテマエや世間の常識よりも自分の実感を大事にする姿勢や、決して多くはない人生の選択肢の中で、少しでも自分にとってより良い生活環境を選び取ろうとするしたたかさ、そのために国境や言語といった障壁を簡単に乗り越えていく自由さがあるように思います。

自分以外に頼るものもなく、根無し草のように生きる彼らの姿には、切なさを感じるのも確かですが、一方でどこか強く惹かれるところもあるのは、彼らの生き方が、そんなしたたかさや自由な感覚を発散させているからなのかもしれません。

もっとも、彼らが心の底から幸せな人生を満喫しているとは思えないし、バンコクのアパートに閉じこもり、文字どおりの外こもり状態になっているケースもあるわけで、それらをすべて肯定的にとらえることはできないのですが……。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



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at 20:05, 浪人, 本の旅〜東南アジア

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ちゅうた, 2008/05/23 2:51 PM

はじめて立ち寄らせていただきました。
レビューを読んでこの本を見たくなりました。

私も放浪とまではいかないのですが、ワーキングホリデーをやろうとしてまして、このブログに書かれている「旅」というテーマついての文に非常に興味があります。

これからこのブログを読ませていただきたいと思います。

浪人, 2008/05/23 8:26 PM

ちゅうたさん、コメントありがとうございました。

『日本を降りる若者たち』は、旅に出る前に読む本としてふさわしいかどうかは分かりませんが、この本に書かれているような話は、バンコクのカオサン通りなどの世界の安宿街で、多くの旅人が耳にしているはずです。

私は、個人的には「外こもり」の人たちに大いに共感するところがあるのですが、とはいっても、「外こもり」という生き方には当然プラスの面もマイナスの面もあるので、無条件に多くの人に勧めたいとは思いません。

とにかく、もし興味があれば、一度実際にこの本を読んでみることをお勧めします。

コモラー, 2008/05/23 9:29 PM

ブログ内容一部を引用してブログを書きました。

ご存知かと思いますが、「外こもりのススメ」という本が7月に上梓されるようです。

勧めるのはどうか?という突っ込みはありますが。

以前からここのブログの読者なのですが、これからはコメントを残したいと思います。

よろしくお願いします。(って書くと日本っぽいですね)

浪人, 2008/05/24 5:01 PM

コモラーさん、コメントありがとうございました。

ブログも見せていただきました。テーマを外こもりに絞ったブログというのは面白いですね。

『外こもりのススメ』という本のことは知りませんでしたが、外こもりの人が増えてくれば、彼ら自身がその暮らしぶりについて語り始め、それがさらに多くの人をそうしたライフスタイルに巻き込んでいくのは、必然的な流れなのかもしれません。

外こもりというテーマは、沈没系バックパッカーの私にとっても他人事ではない、実に重要なテーマです。外こもり現象がこれからどう発展していくか、目が離せないと思っています。

コモラー, 2008/05/25 5:12 PM

沈没系バックパッカーだったんですね。

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>>外こもりの人が増えてくれば、彼ら自身がその暮らしぶりについて語り始め、それがさらに多くの人をそうしたライフスタイルに巻き込んでいくのは、必然的な流れなのかもしれません。
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"そういう生き方もあるんだ"という情報が流れれば旅行から沈没になるのでは無く、旅行する気も無く沈没する人が増えるというのは必然ですよね、確かに。

あと旅に関する本について色々書かれていますが大体読みました。高橋歩のは買ってませんが(違和感アリ)。


浪人, 2008/05/26 7:21 PM

コモラーさん、コメントありがとうございました。

『日本を降りる若者たち』では、外こもりについてこんな風に書かれています。

(引用始め)

 なにもせず、どこへも行かない旅行者たち……。
 それはバックパッカーの系譜から見ても、新しいグループの出現だった。その端緒が沈没だったのだろうが、そこに内包されていた旅の部分すら抜け落ちてしまった若者がちらほらと目につくようになってきた。

(引用終わり)

下川氏は、ここでは外こもりを沈没系バックパッカーの進化形の一つとしてとらえているようですが、知人やインターネットを通じてそうした暮らし方を知り、「旅→沈没→外こもり」というプロセスをたどらずに、いきなり外こもり生活に入っていく人の場合は、旅というよりは、それは一種の移住か、アジアにセカンドハウスを持つような感じですね。

まあ、こういうことをあまり分類してみても意味はないのですが……。










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