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ラジャ・ヒンドゥスタニ

ネパールのポカラに滞在していたときのことです。

ポカラは、美しい湖とヒマラヤの眺望が有名な観光地で、アンナプルナ山系へのトレッキングの拠点でもあります。

世界各国からのトレッカーはもちろん、バックパッカーたちもインドの喧騒を逃れて骨休めに訪れるため、格安の宿と各国料理の店がそろっており、「沈没系」バックパッカーの私にとっても申し分のない土地でした。

私がポカラに沈没して、かなりの日数が経ったある日、親しくなった宿のスタッフが、「今夜、テレビで面白い映画をやるから、一緒に観よう!」と声をかけてきました。

特に予定もなく、のんびりとした優雅(?)な毎日を送っていた私には、それを断る理由もなかったし、彼らが面白いという映画が一体どんなものなのか興味も湧いてきて、私はその夜、宿のロビーで彼らと一緒にその映画を鑑賞することにしました。

夕食を終え、約束の時間にロビーに行くと、その若いスタッフが、「何年か前、この映画を映画館で上映していたときには、僕は何度も何度も観に行ったんだ!」と興奮気味に話してくれます。よほど彼の心に響いた作品だったのでしょう。

映画のタイトルは『ラジャ・ヒンドゥスタニ』といって、歌あり踊りありの典型的なインド映画でした。

ヒンディー語のわからない私にセリフは全く理解できませんが、映画のストーリーそのものはものすごくシンプルで、私にも十分過ぎるほど理解できます。

「ラジャ・ヒンドゥスタニ」とは、「インドの王」というような意味らしく、主人公のニックネームでもあるのですが、実際の彼は、しがないタクシードライバーに過ぎません。しかしある日のこと、彼は高貴な一族の美しい女性と出会い、激しい恋に落ちてしまいます。そして、愛し合う二人の前には次々に試練が……というお話です。

まあ、先の見えるストーリーで意外性はないし、映画自体もやたら長いし、セリフが分からないせいで細かい内容までは楽しめないこともあって、個人的には感動というところまでは至らなかったのですが、夜遅くまで映画につき合いながら、私は宿のスタッフの彼が、どうしてこの映画にそんなに惹かれたのだろうかと、ぼんやりと考えていました。

この映画はインドでもかなりの大ヒットだったらしく、彼に限らず、インド文化圏の多くの観客を魅了するだけの斬新な演出や、素晴らしい音楽などがあったのだろうということは十分に想像できます。

しかしそうした理由以上に、私はやはり、美しく高貴な女性と結ばれ、幸せや富など、庶民の憧れをすべて手にするという絵に描いたような成功物語こそ、彼の心を捉えて離さなかったのではないかという気がしました。

ネパールはとても貧しい国だと言われていますが、旅をしていて実際に出会う人々は穏やかで人当たりがよく、あまりガツガツとしているようには見えません。彼らは一見、自らの置かれた境遇を受け入れ、つつましい暮らしにそれなりに満足して生きているようにも見えます。

しかし、旅行者に見せるそうした表向きの態度とは別に、彼らも心の内ではやはり豊かさへの渇望を強烈に感じているのかもしれません。特に若い人の場合は、もっと豊かで快適な生活を味わってみたいという思いが心の中で渦巻いているのではないでしょうか。

あまりにも「ベタ」なインド映画のストーリーは、そんな彼らのストレートな願望を鏡のように映し出しているのだろうし、その展開が時に荒唐無稽にすら見えるのは、映画の中での豊かさや華やかさが、圧倒的多数の観客にとってはリアリティのない夢のようなものだからなのかもしれません。

それでも彼らは、それが絵空事だと知りながらも、豊かで幸せな暮らしという自分たちの夢をハッキリとした映像の形で確認したくて、映画館に何度も足を運んでしまうのではないでしょうか。

宿で働いている若者にも、内に秘めた大きな夢があるのかもしれません。ポカラのようなネパールの田舎町でのんびりと働いていても、それに満足しているわけでは全然なく、いつかチャンスを掴み、今以上の豊かな暮らしを手にしたい、もっと高い地位につきたいという熱い思いを胸に秘めながら、退屈な日々に耐えているのかもしれません。

そこまで考えたとき、ふと、彼が以前に宿に泊まっていた日本人女性と親しくなり、近々結婚することになったという話を聞いたのを思い出しました。

その話を最初に耳にした時には、ネパールではよくある話だと思ってそのまま聞き流してしまっていたのですが、今、この映画を観て、話がつながったような気がしました。

映画を何度も観て、その夢の世界に憧れた彼は、夢を夢のままに終わらせず、豊かさや幸せを現実のものにするために、映画のストーリーをなぞるようにして、日本人女性との結婚というチャンスを掴もうとしたのかもしれません。

多くの人は映画を観るだけで満足してしまいますが、彼は現実の世界で一歩を踏み出して、映画の主人公のような成功を収めたかったのではないでしょうか。

もちろん、これは私の単なる妄想に過ぎないし、人間の心の中は、そんなに簡単に割り切れるようなものでもないでしょう。それに、他人の心の内をあれこれ詮索するなど、余計なお世話でもあります。

ただ、正直に言うなら、私は、二人を待ち受けている未来に、何か漠然とした不安のようなものを感じてしまったのでした。

映画の場合は二人が結ばれた時点でハッピーエンドですが、現実の方はそういうわけにはいきません。

国際結婚のカップルが文化の違いを乗り越えてうまくやっていくことはそれほど簡単なことではないだろうし、そういう現実的な苦労のことなど、夢を売るための映画の中にはもちろん出てきません。

彼らは、映画にはない結婚後の生活の試練を、自分たちの力で乗り越えることができるでしょうか……。

しかしもちろん、そんなことを言えば彼のプライドを深く傷つけてしまいそうで、私はそれを口に出すことができませんでした。

あれからもう何年にもなります。

ネパールでは、ここ数年、ずっと社会的な混乱が続いてきました。彼がもしネパールで引き続き観光産業に携わっていたなら、生活はかなりの打撃を受けたかもしれません。

二人は今、どこでどんな暮らしをしているのでしょうか。

私にそれを知るすべはありませんが、困難をうまく乗り越えて、幸せを掴んでいてほしいと思います。


JUGEMテーマ:旅行

at 19:44, 浪人, 地上の旅〜インド・南アジア

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コモラー, 2008/07/08 8:42 PM

『ラジャ・ヒンドゥスタニ』という映画、私も観たと思います。

名前と映画が一致しないので確かではないのですが、上流階級のパーティーで階層格差の鬱憤をボトルに入った酒をゴクゴク飲みながら踊るシーンがある奴ですかね?

違うかなぁ・・・

あと国際結婚はやっぱ問題だらけでしょうね。祝福したい一方、そんな単純では?という対立した感情が心に浮かぶのはよくわかります。

浪人, 2008/07/09 7:12 PM

コモラーさん、コメントありがとうございました。

私もそのシーンを何かの映画で観たことがあるのですが、『ラジャ・ヒンドゥスタニ』の中だったかどうか、記憶が定かではありません(笑)。

国際結婚に関しては、もちろん本人同士が決める問題で、事情も知らない第三者の私が軽々しく口を挟むべきではないと重々承知しているのですが、ネパールを旅していたときに、日本人女性とネパール人男性の結婚の話は何度も聞いたし、その多くがうまくいかないということも聞いていたので、そのときは私も無邪気に祝福する気持ちになれなかったのだと思います。

もちろん、すべての国際結婚がうまくいかないわけではないし、困難を克服し、文化の違いを越えて一つの家庭を築くことができれば、それはとても意義のあることだと思います。

コモラー, 2008/07/11 7:07 PM

そうですかぁ、映画ハッキリしませんか。まぁ「歌って踊るシーンありませんでしたか?」という愚問に近かったかもしれませんねw

浪人, 2008/07/12 1:41 PM

コモラーさん、コメントありがとうございました。

私にはどうもインド映画に対する愛情が足りないようです。

映画を観ていても、主人公の男はなぜかみんな暑苦しい顔をしているように見えるし、ヒロインも美人なんだけどキャラが平板で魅力に乏しい気がします(インド映画ファンの皆様すいません)。

しかし、これは私がインド映画にまだ慣れてないだけで、何十本、何百本と観ていくうちに、だんだんと細かな違いも分かってくるだろうし、そのうちにインド映画のディープな魅力にも開眼できるかもしれません。

もっともその頃には、頭の中がすっかりインド人になっていそうですが……。










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