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『夢を操る ― マレー・セノイ族に会いに行く』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

心理学や夢見に興味のある人なら、セノイ族という言葉をどこかで目にしたことがあるかもしれません。

セノイはマレーシアの先住民族(オラン・アスリ)の一つで、文化人類学者・心理学者のキルトン・スチュアートが彼らの夢文化に関する論文を発表して以来、夢をコントロールする人々として、夢の研究者の間では広く知られています。

著者の大泉実成氏は、子供の頃からひどい悪夢に悩まされていましたが、大学時代に、友人を通じてセノイ族の夢見の技法を知ったことで、悪夢から解放されます。

それ以来、夢に興味を抱く一方で、セノイの人々にも実際に会ってみたいと思っていた彼は、1991年と1992年の二回にわたり、半島マレーシアの中央高原地帯のジャングルに住むセノイ族の村に滞在し、彼らの夢文化について取材をすることになりました。

大泉氏は、自らが見た夢をセノイの人々に話し、彼らの反応や解釈を確かめながら、彼らが夢をコントロールするというのは本当なのか、それは具体的にどういうことなのかを探っていきます。

大泉氏の夢日記や、それに対するセノイの人たちのコメントが実に面白く、また、夢をめぐる彼らとのやり取りが、旅の新たな展開につながったりします。

夢をテーマとしているだけあって、このあたりの、外面と内面が微妙に響き合うようなプロセス自体がうまく描かれているのも、この本の魅力です。ゆるゆると進んでいく旅の時間や、ワイルドだけれど穏やかなジャングルでの暮らしの描写も、とてもいい雰囲気を醸し出しています。

ところで、夢見に関するセノイの人々のアドバイス自体は、特殊でも神秘的でもなく、とてもシンプルで実践的なものでした。

 セノイが僕にしてくれた「夢指南」は、「夢のサイン」の話を除けば、次の二つに集約できると思う。
 〔瓦涼罎任楼媼韻靴得儷謀であるようにしなさい(夢というのは、ちょうど学校の教室のようなものだから、積極的に学ぶようにしなさい)。
 ¬瓦涼罎能于颪辰秦蠎蠅箸蓮△任るだけ友だちになりなさい。
 このふたつを守れば、夢の中の相手は、有用な情報やパワーを与えてくれる、というのが彼らの考え方だった。

夢に対するこうした積極的な姿勢は、確かに夢のコントロールと言えなくもないのですが、それは、夢の内容を支配し、自分の都合で好き勝手に変えてしまうような意味でのコントロールではなく、さまざまな形をとって夢の中に現れる相手、つまり「精霊」たちの存在を尊重し、彼らが示すフィードバックを通じて注意深く学ぼうとする繊細な感受性を合わせ持つものです。

ただ、こうしたシンプルなセノイの「夢指南」も、多くの読者にとっては、やはり近寄りがたい不思議な文化に映るかもしれません。夢の中で積極的になるといっても、何をどうしたら夢の中で意識的な行動がとれるようになるのか、その具体的なノウハウみたいなものは、この本では触れられていないからです。

その点、大泉氏は以前から明晰夢(夢の中でそれが夢であると気づいている状態)を何度も体験しており、セノイのアドバイスを違和感なく実行に移せるという意味で、夢見の才能がかなりある人なのかもしれません。

それと、大泉氏の旅の目的が雑誌の取材だったということもあって、文化人類学者のフィールドワークのように、時間をかけ、腰をすえて調査をする余裕がなかったのは少し残念です。

例 えば、セノイといっても、一般人とハラ(シャーマン)の内面生活は質的に大きく異なっているはずで、ハラがどのような夢見をしているのかについて、もっと つっこんだ取材をすることができれば、セノイの人々の豊かな夢文化について、さらに興味深いことが色々と明らかになったのではないかという気がするからです。

もっとも、そのためには、カルロス・カスタネダ氏の「ドン・ファン」シリーズのようにシャーマンに弟子入りして、彼らの世界に何年もどっぷりと浸かる覚悟が必要なのかもしれませんが……。

この本は、辺境に赴いて狩猟採集民族の現在を記録したルポであり、自分の夢とつき合いながらゆるゆると進んでいくスローな旅の記録であり、現代人にとってほとんど手つかずのフロンティアである夢の世界の探究でもあります。

いずれも私個人の興味と重なっていて、とても楽しく読むことができました。

なお、この本で意識的な夢見というものに興味をもたれた方には、例えばスティーヴン・ラバージ氏の『明晰夢 ― 夢見の技法』など、明晰夢に関する本を読んでみることをおすすめします。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 18:37, 浪人, 本の旅〜魂の旅

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