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旅の名言 「世界の辺境にはね……」

「世界の辺境にはね、コカコーラ・ラインというのがあるんですよ」

『夢を操る』 大泉 実成 講談社文庫 より
この本の紹介記事

夢をコントロールするという不思議な民族、セノイ族に会うために、半島マレーシアのジャングルを旅した大泉実成氏の旅行記、『夢を操る』からの一節です。

冒頭の引用は、大泉氏の取材に同行した、カメラマンの吉田勝美氏の言葉です。彼は少数民族の取材などで、世界の秘境・辺境への旅を繰り返してきました。

その豊かな経験から、ある場所で冷えたコカコーラが飲めるかどうか、という極めてシンプルで具体的な事実が、そこが文明に属しているか、それともそうではない秘境・辺境に属しているかを見分けるポイントになるというのです。

さすが、文明社会と秘境との間を何度も行ったり来たりしている人ならではの鋭い観察です。

彼が説くところによれば、コカコーラというのは文明の象徴であって、あの「スカッとさわやか」を維持するのは辺境ではたいへんに難しい。第一にそこまで電気が来てなければいけないし、コーラを運ぶトラックが通れるくらいの広い道も必要だ。第二に、貨幣経済が成立していなければならない。要するにそこでお金が流通していなければならないのである。さしものコカコーラ・ボトラーズさんも、金のかわりにイモ虫とかグリーンスネークとかセミとかを物々交換で持ってこられては、きっと難儀なさることであろう。
 すなわち、そのラインのこちら側にいるときはいつでもキンキンに冷えたコーラを飲めるが、その一線を越えてしまうと決してキンキンコーラが(そしてビールも、こちらのほうが大事だが)飲めなくなってしまう境界線、それがコカコーラ・ラインなのである。そして吉田さんは、コカコーラ・ラインを越えたところこそ、秘境であり辺境だ、と言うわけである。 (中略)
 開発という行為は、このコカコーラ・ラインをじりじりとあちら側へ広げていこう、押し進めていこう、という営みでもある。そして吉田さんは、世界中でこのコカコーラ・ラインが、じりじりとあちら側に侵蝕しているのだ、と言うのである。
 コカコーラを飲める、というのは、幸せなことなのか、それとも不幸なことなのか……。

今や世界のほとんどの国の都市部では、コカコーラか、少なくともそれに類する「キンキンに冷えた」清涼飲料水が流通しているはずです。それを飲む人々の人種や民族はさまざまですが、「スカッとさわやか」という快楽を共有しているという意味で、同じ文明人としての生活を享受しているわけです。

考えてみれば、私自身は、トレッキングなどを除けば、このラインを越えて、向こう側の世界に足を踏み入れたことがほとんどありません。

吉田氏の定義をあてはめると、バックパッカーが旅しているような場所のほとんどは、たとえ秘境の香りを漂わせていても、それはラインの内側、つまり文明世界の側に属していることになってしまうからです。

見知らぬ土地に出かけ、自分ではいっぱしの冒険をしているつもりになっていても、一日中汗だくで歩いた後には冷たいビールを飲みたいとか、現地の食事に飽きて、たまには和食でも食いたいとか思ってしまうようでは、やはり文明世界の外に出て、本当の意味での異世界を旅するのは難しいのでしょう。

しかし、この「コカコーラ・ライン」の最前線は、現在でも止むことなく前進しつつあり、その向こう側の秘境・辺境と呼べるようなエリアは、どんどん狭まりつつあります。

そして、皮肉なことに、多くの旅行者が秘境に憧れて世界のあちこちを旅すればするほど、そこには観光開発の波が押し寄せ、「コカコーラ・ライン」をさらなる奥地へと前進させてしまうことになるのです。

もっとも、現地では、自分の村に開発の波がやって来ることを首を長くして待っている人もけっこういるのかもしれないし、実際のところ、電気が通り、立派な道路が開通すれば、彼らの生活水準は飛躍的に向上するはずです。

そこに暮らしたこともなく、その本当の不便さを味わったこともない通りすがりの旅人が、止まらない開発を嘆き、秘境をそのままにしておいてほしいと願うなら、それは都会人のエゴに過ぎないのかもしれません。

それでも、文明社会の提供してくれる人工的なエンターテインメントに飽きてしまい、それ以外の「何か」を求めずにはいられなくなってしまった人間は、秘境に行けばその「何か」が見つかるのではないかと、つい思ってしまうのです。

そして、そうした人間にとって、本当の意味での秘境がこの地球上から消えつつあるという事実は、とても淋しいものに感じられるのです……。


JUGEMテーマ:旅行

at 18:40, 浪人, 旅の名言〜土地の印象

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