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『黄泉の犬』

文庫版はこちら

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります


年明け早々、ヘビーな本を読んでしまいました。

『黄泉の犬』という本のタイトルや、おどろおどろしい表紙の雰囲気にたがわず、内容もかなり強烈です。

1995年、日本を揺るがした地下鉄サリン事件とその後の騒動が続いていた頃、藤原氏はオウム真理教の麻原彰光こと松本智津夫の生い立ちを知るべく、彼の生まれ故郷である熊本県八代へ向かいます。

そこで彼は、松本智津夫の目の疾病が水俣の水銀毒によるものだったのではないかという奇妙な想念にとらわれ、東京に戻ってから、それを検証しようと試みます。そんなとき、藤原氏は麻原の実兄を知るという人物と偶然に出会い、その紹介で、ついに大阪のある街に身を潜めていた実兄との会見を果たします。

藤原氏はその場で、実兄から驚くべき証言を得ることになるのですが、さまざまな事情から、記事を連載していた週刊誌上でそれを公表することを断念せざるを得ませんでした。

「第一章 メビウスの海」では、1995年当時、公にできなかったその証言の内容が初めて明かされています。この本を手にとる人の多くは、きっとこの部分に最も関心があるのではないでしょうか。麻原彰光の生い立ちの秘密というセンセーショナルなテーマに触れているからです。それに加えて、藤原氏が麻原の実兄と打ち解けていく場面は迫真の描写で、読みごたえもあります。

しかしこれは、あくまで重要な当事者による一つの証言に過ぎず、多くの規制やタブーに阻まれたこともあってか、この本ではそれ以上の検証が進まないままに終わっています。これまでの歴史的な事件がそうであるように、オウム真理教の事件に関しても、もう少しはっきりとした事実が明らかになるためには、さらなる時間が必要なのかもしれません。

第二章以降は、藤原氏が当初、雑誌連載にあたって構想していた展開に戻り、オウム事件をきっかけに藤原氏の心に甦った、若い頃のインドの旅が語られています。

ガンジス河岸の街パトナで、火葬をひたすら見続けた日々。アラハバードで、人の死体を喰らう野犬を撮影しているとき、襲いかかる野犬の群れと決死の睨み合いになった体験。そして、その極限状況で彼の意識に現れた奇妙な感覚(第二章 黄泉の犬)。

プシュカルで、年老いたヨギから理由も告げられずに聖衣を渡され、後になって、その聖衣のもつ意味をめぐってその後の身の振り方を迷い抜いた体験(第三章 ある聖衣の漂泊)。

マナリで、空中浮遊をするといって弟子を集めていた怪しげな若いフランス人「グル」と対決した話。そしてリシケシュのアシュラムで見た、欲にまみれた「聖者」たちと、それに群がるインド人や欧米人の金持ち連中(第四章 ヒマラヤのハリウッド)。

ラダックで、地獄の幻覚にさいなまれ、錯乱状態になって荒野にさまよい出てしまった日本人青年を呼び戻そうと後を追った話(第五章 地獄基調音)。

ここで回顧されているのは、今から何十年も前の1960年代後半や70年代に藤原氏がインドで体験した出来事や、そこで出会った奇妙な旅人たちのことなのですが、それが90年代にマスメディアをにぎわした、オウム真理教をめぐる異様な光景と、気味の悪いほどにオーバーラップしてきます。

90年代に多くの人が知るところとなった若者たちの逸脱の萌芽は、70年代にインドを旅する人々の間に、すでに現れていたのです。

生と死に関わる生々しいリアリティの隠蔽や管理社会化の進行しつつある、日本や欧米のいわゆる「先進国」で、自分の存在が希薄になっていくような危機感を抱き、何かを求めて、インドのようなリアルに満ちた世界に足を踏み入れていく若者たちに、藤原氏は共感を覚えながらも、その一方で、心の弱さのためにインドの厳しいリアリティに向き合うことができず、個人的な妄想に逃げ込んだり、さまざまな既成宗教の枠組みにはまり込んでしまったりする「もろい旅行者」の姿に、彼は若者の旅の脆弱化や危険を見ているのです。

もっとも、現代日本の消費社会の豊かさを謳歌する多数派の人々は、インドを放浪したりはしないわけで、彼らからすれば、インドというのは、(ビジネスを除けば)自分とは関係のない、遠い世界にしか見えないのかもしれないし、藤原氏がインドで経験したようなことも、ただ目を背けたくなるような、特殊でおどろおどろしい別世界の出来事に過ぎないのかもしれません。

しかし、バックパッカーとしてインドを旅したことのある人や、放浪の長い旅をした経験のある人なら、藤原氏ほど強烈でなくても、多かれ少なかれ同じようなことを体験しているはずだし、この本を読み進めていくほどに、改めて自らの旅と重ね合わせて、大いに身につまされるものがあるはずです。

藤原氏の言葉は、例によってあまりにも直截的で容赦がないので、きっとあらぬ誤解も受けやすいだろうし、彼のメッセージが今の日本社会においてどれだけの人々の心に届くかのは分かりません。それに私自身も、藤原氏の放つ強烈なフレーズや独特のロジックにすべて共感できるわけではありません。

ただ、この本を読んで、少なくとも彼は、オウム真理教の事件やそれを生み出した社会的な背景について、何かを語るのに最もふさわしい人物の一人であると改めて感じました。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

 

at 19:12, 浪人, 本の旅〜インド・南アジア

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