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『TOKYO 0円ハウス0円生活』

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本は、いわゆるホームレスの人たちが住んでいる、ビニールシートや廃材などを利用した路上の家を、手近な素材を用いて住人自らが建築する「0円ハウス」として捉え、そこに「人間が本能的に建てようとする建築の世界」を見出そうとする、とてもユニークな試みです。

以前にこのブログでも紹介した長嶋千聡氏の『ダンボールハウス』も、同じ視点に立つ作品だと言えますが、本書では路上の家の観察にとどまらず、さらにそこに住む人々の生活にまで踏み込んで、彼らの住まいや暮らしの中に垣間見えるさまざまな工夫やアイデアの中に、私たちが大都市という環境で生きていく上での新しい可能性を探っていこうとしています。

著者の坂口恭平氏は、隅田川の堤防沿いにある路上生活者の家を調べているとき、空き缶拾いで生計を立てている「鈴木さん」と「みっちゃん」に出会いました。

二人は、そこにブルーシートの家を作って暮らしているのですが、その建材である木材、シート、ゴザなどに始まって、釘や工具、収納ケースや電化製品に至るまでのすべてが路上から拾われたもので、お金を払って購入されたものは一切ありませんでした。しかも、室内は自動車用の12ボルト・バッテリーによって電化され、バイク用のライトを使った電灯や、テレビ、ラジカセまであります。

また、隅田川では1カ月に1度、河川を管理する国交省による点検・清掃作業があるので、そのつど家を一時撤去しなければならないのですが、住人たちはそうした条件を踏まえ、自宅をすぐに分解・再組み立てできるように工夫を凝らしているのです。

さらに坂口氏は、二人の空き缶拾いの仕事にも同行するのですが、彼らが周囲の街を詳細に把握し、近所の人々とも友好的な人間関係を築いたうえで、大量の空き缶を非常にシステマティックに集めていく姿に驚かされます。

本書の前半では、鈴木さんたちの住む「0円ハウス」に秘められた数々の画期的なアイデアや彼らの暮らしぶりが、詳細なイラストつきで報告されています。

生活のすべてを包み隠さず見せてくれる鈴木さんも凄いですが、それをマニアックなまでに細かく記録していく坂口氏もなかなかのものです。彼の思い入れの深さが伝わってくるようです。

一方、本書の後半には、坂口氏自身の生い立ちと、彼が「0円ハウス」に強烈な関心を抱くにいたった経緯が書かれています。

小学生の頃から建築家を志し、希望どおり大学で建築を専攻することになったものの、彼は「施主と建築家という関係しかない建築の世界」に疑問や違和感を感じるようになり、本当にやりたいことは何なのか、自分でもよく分からないまま模索を続けていました。

そんなとき、彼は多摩川の河川敷に建つ「0円ハウス」に出会い、そこに自分の求めていたものと重なる世界を見出し、その調査にのめり込んでいくのです。

これを読むと、彼が単なる思いつきやウケ狙いで「0円ハウス」に注目しているわけではないということがよく分かります。そして、「家は、独力で、図面なんかに従うのではなく、直観で、毎日自分の体のように変化させながら、作り続けた方がいい」という坂口氏の言葉には、私も共感を覚えます。

そして、そうした家を作ることが、田舎に暮らしてセルフビルドの家づくりに打ち込んでいるごく一部の人か、都会では路上生活をしている人にしか実現できないという現代社会の奇妙な状況に、改めて気づかされるのです。

ただ、言うまでもないことかもしれませんが、専門家が設計・建設した何千万円もする家をローンを組んで買うという私たちの現状が、近代的な暮らしの追求の果てに行き着いた一つの極端だとするなら、「0円ハウス」もまた、その対極にあるもう一つの極端であるように思います。

この本では、著者の志向性を反映して、路上の家の自由さ・解放感や、自分で家を作る面白さが強調されているのですが、ここで取り上げられている鈴木さんたちの生活の充実ぶりは、いわゆるホームレスの中ではたぶん例外的なもので、路上生活者の多くがもっと過酷な生活環境・心理状況にあるだろうということを忘れてはならないと思います。それに、鈴木さんたちにだって、もちろん、路上で暮らしていく上では、いろいろと大変なこともあるはずです。

また、多くの人が、「0円ハウス」的なものに対してワクワク感や憧れを感じながらも、さすがに自分がそれを実践するところまで至らないのは、やはり現代社会の暗黙のルールという一線を踏み越えることに対する怖さのようなものがあるからなのでしょう。

そう考えると、自分の住みたい家を考える際に、素材や建築費に必要以上のお金をかけない、家づくりを人生の重荷にしない、あるいは、家というものはこうあるべきだという先入観にとらわれないという意味で、「0円ハウス」という視点は非常に新鮮だし、大切でもあると思いますが、実際問題としては「0円」にこだわる必要はないし、家のもつ社会的な意味も含めた、もっと現実的なバランスを考慮する必要もあると思います。

きっと、進むべき方向は、両極端の選択肢のどちらかを選ぶことにあるのではなく、その間のどこかの、両者のメリットをほどよく織り込んだところにあるのでしょう。

それはともかく、この本を読んでいると、人間が住む家もその暮らしも、今よりももっとシンプルで、もっと気軽であっていいのではないかという気がしてきます。そして、それがたとえ拙いものであったとしても、家づくりという大事な作業を自分たちの手で行うことが、生活にワクワク感をもたらしたり、さらには人生への主体性を取り戻すという意味でも、非常に重要なことなのではないかと改めて思いました。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書 

 

at 19:02, 浪人, 本の旅〜住まい

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