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『ニコチアナ』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本は、タバコという不思議な植物にスポットを当て、その人間との密接で複雑な関係を、ミステリー仕立てで描いた知的エンターテインメントです。

物語の主な舞台は2000年代初頭のアメリカ。そこでは、憲法修正による「禁煙法」成立に向けて、禁煙運動が盛り上がっているという設定です。

日本企業で無煙シガレットの企画開発に携わるメイは、提携するアメリカのタバコ会社のCEOから、既に同じアイデアで特許を申請していた人物がいると知らされます。無煙シガレットの発売を前に、彼らはその人物とコンタクトをとる必要に迫られるのですが、その男は数年前に失踪したきり、行方が分からなくなっていました。

メイは、カルロスという青年とともに、その男の足跡を追って北米大陸を横断する旅に出るのですが、同じ頃、アメリカの各地では、栽培タバコを変質させ、幻覚成分を生じさせてしまう謎の疫病が爆発的に広がり始めていました。やがて彼女は、探している男が、実は南米の高地アマゾンからやってきたシャーマンであること、そして彼が、タバコ畑に広がる謎の疫病の秘密をも握っていることを知ります……。

物語には、シガレットをこよなく愛する南部気質のカリスマ経営者や、直接行動を厭わない過激な禁煙運動家、謎の疫病の原因を追究する植物ゲノム研究者、そしてマヤ人の末裔として秘密の絵文書を守り続けてきた人物など、多彩な人々が登場します。また、物語の舞台も、アメリカの各地から、高地アマゾンへ、グァテマラへ、そして日本へとめまぐるしく移り変わります。

小説の中では、日常的・ビジネス的な世界や、自然科学の世界、エキゾチックな神話と象徴の世界が交錯し、ストーリーの展開自体もかなり込み入っているので、私の場合、最初のうちは話の流れがなかなか把握できず、読み進めるうえで多少の根気が必要でした。もっとも、それは私自身がこういう種類の知的エンターテインメント小説を読み慣れていなかったせいもあるでしょうが……。

それにしても、ネタバレになるのであまり書けないのですが、マヤの秘密の絵文書とか、5世紀にわたる壮大な魔法の成就とか、物語の仕掛けがかなり大がかりなので、最後にはどうまとめるんだろう、物語としてうまく着地できるんだろうかと、期待半分、心配半分で読んでいました。

南米のシャーマンが出てくるので、あるいは一部のスピリチュアル本のような、何でもありのぶっ飛んだ結末になってしまうのかとも思いましたが、その点については、最後まで知的な裏づけとストーリー展開が維持されていて、物語としてそれなりのオチというか、まとまりもついています。ただ、ちょっと話を広げすぎたせいか、すべてが最後にスッキリと収斂するという感じではなく、そこがエンターテインメントとしてはちょっと微妙なところかもしれません……。

ところで、私自身はスモーカーなのですが、この本を読んで、自分はこれまでタバコというものについて何にも知らなかったんだな、ただ目の前にあるシガレットという製品を吸い続けていただけなんだな、ということを改めて思い知らされました。

この小説には、ナス科のタバコという植物や、それが新大陸から爆発的に広がり、世界中の人々に受け入れられてきたプロセスについて、さまざまな知識が散りばめられています。

そしてまた、依存症や嫌煙権など、タバコをめぐるさまざまな問題が、その根底において、私たちが生きている近代という時代の本質そのものと切り離せないものだということも浮き彫りにされています。

タバコはその点で、いわば、近代社会の影を象徴するような存在なのかもしれません。

この小説はあくまでフィクションですが、多彩な登場人物のそれぞれが、タバコをめぐる様々な立場や視点の存在と、それぞれの利害が複雑に絡み合う現実を象徴しているように思えます。タバコを吸う人も嫌いな人も、このユニークな小説を読めば、今までとはまた違った観点から、タバコという不思議な植物について改めて考えるきっかけになるかもしれません。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします


JUGEMテーマ:読書 

at 18:50, 浪人, 本の旅〜旅の物語

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独善竜, 2009/04/01 11:39 PM

いつもながら、楽しく読ませていただきました。
本を読まなくても、読んだ気に?なれました。
南米のシャーマンというと、カルロス・カスタネダやドン・ファンを否応なく思い出します。
カスタネダの研究?は人類学としては認められていないようですが、少なくとも小説としては傑作です。
小生は嫌煙家ですが、珈琲愛好家でして、毎日ゴリゴリと豆を引いていますが、誠に嗜好品というものは止められないものですね。

浪人, 2009/04/02 7:59 PM

独善竜さん、コメントありがとうございました。

私の場合も、シャーマンと言えばカスタネダ氏の「ドン・ファン」シリーズの印象が強烈で、小説の中にシャーマンが出てくると、つい比較して読んでしまいます。

カスタネダ氏のあの本の内容が事実かどうかという議論も、出版当時には随分とあったようですが、独善竜さんのおっしゃる通り、もし、それを事実として受け入れがたいという人がいれば、小説として読めばいいわけで、これは昨今の「ぶっ飛び系」のスピリチュアル本にも言えることかもしれません……。

それにしても、仮にカスタネダ氏の本が全くの創作だったとしても、逆に、彼は小説家として天才的な想像力を持っていたと言わざるを得ないですね。

『ニコチアナ』の方は、「ドン・ファン」シリーズのように、私たちの世界観や思考の枠組みに亀裂を入れるような衝撃力はありませんが、やはり日常の視点を超えた世界をかいま見させてくれる、ユニークで面白い作品だと思いました。

ところで、駅構内での全面禁煙が広がるなど、スモーカーにとってはますます肩身が狭くなる今日この頃ですが、外出先でタバコの吸えるところを必死で探し回るよりも、こうなったらいっそのこと、喫煙を楽しむのは自宅だけだと割り切って、家で葉巻とかパイプをゆっくり楽しむ方がいいのかな、なんて考えることもあります。

それなら、人に迷惑もかけないし、コーヒー好きの人が豆を挽いたり、コーヒーを淹れたりするプロセスを楽しむように、一種の優雅な趣味として、喫煙のプロセスを時間をかけて楽しめるようになるかもしれません。

もっとも、外出先での禁断症状をどうするかという問題はありますが……。










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