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旅の名言 「つまり人間も……」

 そして旅をはじめてから私はいつかどこかで自分にぴったりする衣装に出会い、それに包まれ、それがあわさって自分自身になるだろうという何か淡い期待のようなものを抱えていた。私は人生において七五三があるように、この衣替えの通過儀礼は重要であると思っていた。それは脱皮であり、自分のアイデンティティのありどころを変える行為に他ならないからだ。つまり人間もある種の昆虫や小動物と同じように自分の第二の皮膚である衣装を脱皮し、そのときどきの自分の身の丈に応じた新しい衣装を身につけるのである。


『黄泉の犬』 藤原 新也 文藝春秋 より
この本の紹介記事

インド旅行記の名作『印度放浪』で知られる写真家の藤原新也氏が、1995年のオウム事件をきっかけに心に甦った、若い頃のインドでの壮絶な旅を描いた作品、『黄泉の犬』からの一節です。

この本の中に、藤原氏がある年老いたヨギから、理由も告げられないまま、色褪せた聖衣をもらい受けるというエピソードがあるのですが、その衣のもつ意味をめぐって、彼はその後の自分の身の振り方について迷い抜くという体験をします。

そうした例からもわかるように、旅人が何を着るかということは、単に旅先の気候風土に合わせるという機能面にとどまらず、旅人が自分自身をどうとらえ、どう表現するかという内面の問題を色濃く映し出しています。藤原氏が言うように、旅を通じて、旅人が自分の衣装を替えていくことは、一種の「通過儀礼」でもあるのです。

長い旅をしているときには、私自身にもそのような感覚が強くありました。また、そうした理由もあって、他の旅人たちが何をどのように着ているかということを、興味をもって見ていたように思います。

もちろん、ほとんどの旅行者は、特に奇抜な格好をしているわけではありません。たぶん95%以上の旅人は、日常生活と同じような、ごく常識的で動きやすい服装をしているはずです。彼らの旅は、数日から長くて数週間くらいでしょうが、それなら日本から持参した衣類を着回すだけで十分に間に合うだろうし、わざわざ旅先で大胆な衣替えをしようなどという発想もなかなか湧いてこないでしょう。

ただ、さすがに旅が数か月を超えると、日本から着てきた服がボロボロになったり、なくしてしまったりして、やむ なく現地で新しい服を手に入れる必要に迫られることもあります。また、旅暮らしに慣れてくると、いろいろなところに目が向くようになり、現地の人々や、他の旅人が着ているものに心を惹かれることもあります。

あるいは、日本での日常とは明らかに違う、旅という特別な時間の流れに身を浸しているうちに、自分の意識がすっかり変わり、日本から着てきた服に違和感を感じるようになったり、自らの置かれた状況や内面をより的確に表現してくれるような衣装を、もっと意識的に求めようという気分になるかもしれません。

昔から、インドやアフリカなどを長期放浪する人たちの一部には、ヒッピー系とか民族衣装系とか、さまざまな趣味の違いはあるにせよ、非常に特徴的で目立つ衣装を身にまとう傾向があります。

別に、誰から強制されたわけでもないのでしょうが、いつの間にか、日本ではとても考えられないような奇抜な格好をするようになっていくのは、そして、そこに何となく彼らの内面が読みとれるような気がするのは、とても興味深いものでした。

異国の地で、日常とは異なる生活や意識状態にある者が、自らの生活スタイルや内面にピッタリと合うような衣装をまといたいと思うのは、人間にとって、とても自然な衝動なのかもしれません。そしてその衝動に忠実に従い、今までとは全く違う新しい自分というものを表現しようとすれば、日本にいたときの自分でも想像できたような、ありきたりの服装ではダメなのでしょう。

ある意味では、彼らの格好が日本における服装のコードから外れていればいるほど、それは彼らの内面が、日本での自分自身からどれだけ遠ざかっている(つもり)かを示しているということなのかもしれません。

ただ、面白いのは、旅人の一人ひとりがいくら個人的でオリジナルな衝動に従っているつもりでも、そういう放浪者の衣装には、全体的に見ると一定の傾向みたいなものが感じられて、いかにも放浪者っぽく見える、という点では共通しているということです。

そして、それは何だか、他の旅人に対して、彼らが年季の入った、グレードの高い旅人であることを誇示しているように見えなくもありません。

そんな風に思っていたこともあって、私の場合は、自分がいかにも放浪者っぽい感じになってしまわないよう、せめて見た目だけでも、できるだけ「普通の旅人」でいようと心がけていました。

もっとも、いくら本人がそのつもりでも、周囲の旅人にどう見えていたかはわかりませんが……。


JUGEMテーマ:旅行

at 18:54, 浪人, 旅の名言〜衣食住と金

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