このブログ内を検索
新しい記事
記事のカテゴリー
            
過去の記事
プロフィール
            
コメント
トラックバック
sponsored links
その他
無料ブログ作成サービス JUGEM
<< 『浦島太郎はどこへ行ったのか』 | main | カレイドスコープ・メディアの時代? >>

『マレー蘭印紀行』

Kindle版はこちら

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

 

この本は、今から80年ほど前、イギリス、オランダによる植民地支配が行われていた当時のマレーシア、シンガポール、インドネシアを巡った日本人の旅行記です。

この本の著者、詩人の金子光晴氏は、昭和3年(1928年)から7年(1932年)にかけて、妻を伴い、ほぼ4年間にわたる海外放浪に出ました。ここでは、その長きにわたる放浪のごく一部、ヨーロッパへの行き帰りに立ち寄ったマレー半島、ジャワ島、スマトラ島への旅が描かれています。

4年もの海外旅行と聞いて、金持ちの諸国漫遊かと思う方も多いかもしれませんが、金子氏は本文の中で、自分たちの旅を、「金もなく行きつくあてもない旅」であったと述べています。巻末の「解説」によれば、実際、彼の旅は、似顔絵や風景画を描いたりして細々と旅費を稼ぎながらの、先の見えない苦しい流れ旅だったようです。

それはともかく、この本のハイライトは、やはり、マレー半島のジャングルに船で分け入り、日本人が経営するゴム園や鉱山を訪ねるところでしょう。

今でこそ人類は自然環境を圧倒する勢いで、地球上の熱帯雨林自体がその消滅の危機にさらされているほどですが、80年前の当時は、比較的開発の進んでいたマレー半島でさえ、ジャングルの中に点在する開拓地に一歩踏み込めば、そこはいまだに猛獣や土匪が跳梁し、マラリアの蔓延する恐るべき場所だったようです。

しかしそんなジャングルにも、さまざまな事情や思惑から、故郷を遠く離れて「南洋」にたどり着いた日本人が暮らしていました。そしてまた、そこは、支配者としてのヨーロッパ人や、肉体労働者として苛酷な労働に携わるマレー人・中国人・インド人など、多様な人種や民族が入り交じる、人種のるつぼのようなところでもありました。

金子氏は、人間の営みを圧倒するような旺盛な生命力を見せつける熱帯の自然と、そこに生きるさまざまな人々の姿を、一言一句にまで繊細な神経の行き届いた文章で、感覚的に、美しく描き出しています。

当時、アジアが欧米の植民地支配にあえいでいたのはもちろんですが、彼が旅していたのは世界恐慌の前後で、現地はゴムの大暴落による不況にあえぎ、経済進出をめぐって各国の利害も激しくぶつかり合っていました。そんな当時の国際情勢も反映されているとはいえ、この旅行記全体からは、何か、この地上で人間として生き続けることへの、やり場 のない哀しみのようなものが濃厚に漂ってきます。

そしてそれは、社会のアウトサイダーとして、あてどなく世界をさまよう金子氏の境遇と、その内面をも映し出しているのでしょう。というより、彼は、当時の東南アジアの自然と社会の現実を素材として借りながらも、この旅行記によって、「金子ワールド」ともいうべき、美しくも哀しい、彼独自の心象風景を創造していたのだろうという気がします。

現在、急激な経済成長をとげつつある東南アジアの多くの国々では、意識的に観光ルートから外れ、一種の闇の領域にあえて踏み込まないかぎり、彼が80年前に見たような人々の悲惨な暮らしや、その深い哀しみを見出すのは難しいと思います。しかしむしろ、だからこそアジアを旅する人は、かつてそこがどんな世界だったかを知っておくという意味で、こうした昔の旅行記を読んでみる価値はあるかもしれません。

それと、こんな表現が適切かどうかは分かりませんが、金子氏は、あるいは、早すぎたヒッピーだったのかもしれないという気がします。戦前の日本の社会で、きっとものすごく窮屈な思いをしながらも、アウトサイダーとして世界を放浪し、しかしそれだけに終わらずに、自らの世界観や内面を、後世に残るような作品に結晶させた人物がいたことに改めて驚かされました。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

 

 

at 18:41, 浪人, 本の旅〜東南アジア

comments(0), trackbacks(0)

スポンサーサイト

at 18:41, スポンサードリンク, -

-, -

comment









trackback
url:http://ronin.jugem.jp/trackback/568