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『クヌルプ』

Kindle版はこちら

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

 

この本は、100年ほど前のドイツを舞台に、放浪の旅に一生を捧げた人物を描いた小さな物語です。

小説は主人公のクヌルプをめぐる三つの短いエピソードで構成されていて、「いつも途上にあって、どんな土地にも長くとどまらないこの渡り鳥」の旅暮らしと、彼の最期が描かれています。

クヌルプは、少年時代のある挫折をきっかけに、社会のメインストリームから外れ、いつしか「無職の流浪者」として生きるようになりました。

まともな職につくこともなく、詩や歌や踊りを楽しみ、自然を愛する「いわば人生の芸術家」(訳者の高橋健二氏によるあとがき)として、彼は束の間の人生を謳歌するのですが、止むことのない過酷な旅は、彼の体を少しずつ蝕んでいくのでした……。

社会にしっかりと適応し、立派な仕事と家庭をもっている人々からすれば、帰るべき場所をもたず、あてどなく旅するなかで体を病み、ついに死に瀕するクヌルプは「かわいそうなやつ」でしかないのかもしれません。

しかし、雪の降りしきる山中でついに力尽きたクヌルプに、「神さま」はこう語りかけるのです。「定住している人々のもとに、少しばかり自由へのせつないあこがれを繰り返し持ちこ」むために、クヌルプはそうやって「あるがまま」の自分を生きなければならなかったのだと……。

この小説は、ストーリー展開を楽しめるようなエンターテインメントではないし、物語の舞台も、書かれた時代も古いため、読んでいてちょっと違和感を感じる人も多いでしょう。

それでも、孤独な漂泊者というパーソナリティの一つの典型が、主人公クヌルプの姿を通して生き生きと表現されているように思います。そしてそれは、あの有名な「アリとキリギリス」の寓話のように、近代社会で求められる勤勉なパーソナリティとは、ポジとネガのように対をなすものでもあります。

私がこの本を最初に読んだのは、たしか高校生の頃だったと思うのですが、そのストーリー自体は、ごく断片的に記憶に残っただけでした。しかし、何年も後になって、自分もまた放浪的な長い旅に出たところをみると、この短い小説を通じて、一種の放浪の美学みたいなものが、私の無意識に深く植えつけられていたのかもしれません……。

それにしても、旅の愛好者としてこの本を読んでいると、クヌルプの最期には、ヒッピーや筋金入りのバックパッカーの悲惨な末路を見るようで心が痛みます。そこには小説的な救いがあるとはいえ、100年前の放浪者の運命としては、こう書かれるよりほかなかったのでしょうか。

もしも現代にクヌルプが生きていたら、今のこの世界の中で、どんな漂泊の人生を歩むことになるのでしょう?

やはり昔と同じように、旅の途上で人知れず朽ちていく運命をたどるのでしょうか?

クヌルプ的なパーソナリティに強く魅かれるというより、自分の中に似たようなものを抱え込んでしまっている私にとって、この問題は他人事とは思えないのです……。

放浪タイプの旅人なら特に、この本にはいろいろと感じるものがあると思います。どこかで目にすることがあったら、ぜひ読んでみてください。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書 

 

at 18:58, 浪人, 本の旅〜旅の物語

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