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『デルス・ウザラ』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本の著者、ウラディミール・アルセニエフ氏はロシアの探検家で、20世紀初頭のロシア極東地域の探査で有名です。この探検記には、その何回にも及ぶ探査の一つ、1907年の夏から翌年まで、約半年にわたって続けられた沿海地方への旅が描かれています。

彼は数名の兵士を率いて、シホテ・アリニ山脈から日本海へと流れ下る、いくつもの川の流域を丹念に調査しました。

それは、沢を水源まで溯っては、別の沢をたどって海に戻るという、一見地味な作業の繰り返しです。しかし、厳しい気候と自然環境に加えて、装備も連絡手段も現地の情報も、今とは比較にならないほど貧弱だったこともあり、それは生易しい旅ではありませんでした。

一行は、あまりの豪雨に遭難しかけたり、渡河に失敗して激流に呑み込まれそうになったり、装備や食糧を運んでいた船が行方不明になったり、野営が虎に襲われたりと、次から次へと深刻なトラブルに巻き込まれます。

それは、いかにも探検記らしいスリルに満ちていて、読んでいて飽きません。ただ、もしもそれだけであったなら、今なお多くの人々が、この本を手に取ることはなかったのではないでしょうか。

探検隊には、ツングース系少数民族ゴリド人(ナナイ人)の年老いた猟師、デルス・ウザラがガイドとして同行していたのですが、彼の活躍と、その人柄が発する魅力こそが、この本を際立たせ、当時よりも、むしろ現代において、多くの人々の心に響く作品になっているのではないかと思います。

デルス老人は、狩猟にすぐれていたばかりでなく、人間や動物の残したわずかな痕跡から驚くべき正確さで状況を推測し、天候の変化を的確に読み、必要なモノをそのつど手近な材料だけで作り上げてしまうなど、並外れた能力を発揮して探検に貢献し、ときにはアルセニエフ氏の命をも救って、困難続きの一行にとっての力強い支えになりました。

この本では、そうしたさまざまなエピソードを通して、密林(タイガ)とともに生き、その自然を知り尽くした彼の活躍が描かれるとともに、アルセニエフ氏との何気ない会話や行動の端々に現れる彼の人柄や、そのユニークな世界観が浮き彫りにされています。

彼は、森の生きものたちや自然を人間と同じように見なして、彼らに本気で話しかけます。そんな彼の言動は、そのたどたどしいロシア語のせいもあって、どこかコミカルで、まるで純朴な子供のふるまいのようにも見えます。しかし一方で、彼は老練な猟師であり、タイガの厳しい自然を、ほとんど身一つで生き抜くなかで培った能力をいかんなく発揮します。

彼は、老人でありながら子供のようでもあり、文明とは無縁な野生人のようでありながら、ときには文明人を超えるような深い知恵を示し、また、人間と他の生きものすら分け隔てることのない、他者への深い思いやりをも身につけているように見えるのです。

そんな彼の不思議な魅力が、この探検記をとても印象深いものにしています。

しかし、この本の最後で、デルス老人には悲劇的な運命が待ち受けています。彼の活躍を楽しみ、その言葉に共感を覚えていた私には、それはなんとも切なく、やるせない結末でした。

それにしても、彼らの探検の舞台であるロシアの沿海地方は、日本海をはさんだ対岸で、日本のご近所だというのに、これまで私が頭の中で日本の近隣をイメージするときには、まるでそこが存在しないかのように、すっかり空白になっていたことに気がつきました。

100年前の探検記を読むだけではなく、現在そこで、どんな人々がどんな暮らしをしているのか、もっと勉強する必要がありそうです……。

なお、この探検記をもとにした、黒澤明監督の『デルス・ウザーラ』も、心に沁みるいい映画です。機会があったらぜひご覧ください。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書 

at 18:22, 浪人, 本の旅〜中国・東アジア

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