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『アンダーグラウンド』

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評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本は、作家の村上春樹氏が、1995年の3月20日に起きた地下鉄サリン事件に真正面から取り組んだノンフィクション作品です。
ウィキペディア 「地下鉄サリン事件」

村上氏は、事件の被害者とその家族を中心に、60名以上の人物に直接インタビューを行い、さまざまな視点からの膨大な証言を通じて、事件当日の朝、東京の地下で何が起きていたのかを明らかにしようとしています。

私は、この本の存在は以前から知っていたのですが、今までずっと気が進まず、手に取ることはありませんでした。本の分厚さにたじろいだせいもありますが、やはりそれ以上に、事件のことを深く知ったり考えたりすることへの心の抵抗が大きかったのだと思います。事件から15年経った今になって、ようやく読む気になりました。

しかし正直に言って、この本は、読めば読むほど気が滅入ります。これは、村上氏の仕事の質の高さとは別の問題で、陰惨な事件を追体験する以上、仕方のないことではあるのですが、その点で、すべての人にお勧めできる本ではありません。

特に、重い障害を負ったり亡くなられたりした被害者の家族の言葉を読んでいると、何ともやるせない気持ちになり、読むのが本当に辛くなります。

村上氏は、この本の取材にあたって、事件当日、人々が現場で何を見て、何を感じ、何を考え、どういう行動をとったのか、被害の程度やその後の経過がどうだったか、また、事件が人々の人生にどんな影響を与えたかを聞くだけでなく、証言者の生い立ちや仕事について、あるいは日頃の生活や家族との関係、趣味のことなど、事件とは一見かかわりのないさまざまなことまで聞き取っています。

そして、限られた紙幅の中にそれらを盛り込むことで、事件に遭遇した人々が、「被害者」という漠然とした存在ではなく、私たちと同じように顔があり、生活があり、性格も人生観もさまざまな、生身の人間であることをはっきりと示そうとしています。

しかし、だからこそ、人々の言葉の一つひとつが生々しく迫ってきて、彼らの感じている苦しみをそのまま受け流すことができなくなります。また、これを読んでいる自分も、同じような理不尽な暴力にいつ巻き込まれるか分からないのだという現実に改めて気づかされ、そこに底知れない恐怖を感じるのです。

それにしても、今回この本を読んでいて、自分が地下鉄サリン事件について、その概要さえよく知らなかったことに気づきました。事件当時、マスコミはこの事件でもちきりだったし、自分も新聞やテレビをそれなりに見ていたはずなのですが……。

それは、事件後すぐに、報道の焦点がオウム真理教への強制捜査へとシフトしてしまったからなのかもしれないし、あるいは、自分も日常的に公共交通機関を利用する一人として、パニックになるのが怖くて、事件の詳細を無意識のうちに心から閉め出していたからなのかもしれません。

あの当時、事件から数日もしないうちに、街からその痕跡はすみやかに消え去り、被害者は病院の中に姿を消し、マスコミの大々的な報道を除けば、一見すべてが今までどおりに戻ったように見えました。

こんな異様な事件が起きたというのに、街の雰囲気があまりにも平静で、何事もなかったような感じに、何か違和感のようなものを覚えた記憶がありますが、今思えば、事件の落とす暗い影を必死で消し去ろうとしていたのは、私だけではなかったということなのかもしれません。

しかし、巻末のあとがき「目じるしのない悪夢」の中で、村上氏は慎重に言葉を選びながらも、あれほどの暴力を生み出した異常な存在として、私たちが心から毛嫌いしているオウム真理教の「論理とシステム」は、実は、「我々が直視することを避け、意識的に、あるいは無意識的に現実というフェイズから排除し続けている、自分自身の内なる影の部分(アンダーグラウンド)」なのではないだろうかと指摘しています。

私たちが、事件のことを必死で心から締め出そうとするのは、村上氏が言うように、この目で見ることを恐れている自らの暗い影に通じる何かを、そこに感じとっているからなのでしょうか。もしも、そうであるならなおさら、こういう本を手に取って、事件の実態を知ろうとすることには、それなりの覚悟が必要になるのかもしれません。

ただ、この本の中に、希望や救いが全くないというわけではありません。

証言者の多くは、ある日突然、わけが分からないままに、理不尽で巨大な暴力に巻き込まれ、深い恐怖と苦痛に襲われ、そのあと長い間にわたって苦しみながら、何とかその体験を乗り越え、前向きに生きようとする努力を続けています。

もしも同じ立場に置かれたら、自分にはそうすることができるだろうかと思うのですが、それでも力強く生き抜こうとする人々の言葉には救いを感じます。そして、その言葉をただ読んでいることしかできない私が、むしろ、彼らの言葉に勇気づけられているのを感じます。

事件で亡くなられた方のご冥福と、被害に遭われたすべての方々のご快復をお祈り申し上げます。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 19:19, 浪人, 本の旅〜人間と社会

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