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『闇の奥』

Kindle版はこちら

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

あの有名な映画『地獄の黙示録』の原案となったイギリス文学の古典『闇の奥』。以前からずっと気になっていたのですが、先日、文庫で新訳が出ているのを知って、思い切って読んでみることにしました。

物語は、イギリス人船乗りのチャーリー・マーロウが、若い頃に「向こうの大陸(アフリカ)」で遭遇した衝撃的な出来事を仲間に語るという形で進行します。

東洋の海で何年か過ごした後、マーロウはふとしたきっかけから、アフリカの大河を行き来する蒸気船の船長になりたいという思いにとりつかれ、ある国の象牙交易会社と契約して、現地に派遣されることになります。


大河の河口から内陸部へと向かう困難な旅の途上で、マーロウは、奥地の出張所に赴任したクルツという社員の噂を耳にします。クルツは並外れた知性と教養の持ち主で、大量の象牙を集めるという抜群の成績を上げたにもかかわらず、奥地からの帰還を拒否してそこにとどまり、しかも病に冒されているというのです。

マーロウは、他の社員らとともに蒸気船に乗って、クルツのいる緑の魔境へと分け入っていくのですが……。

巻末の解説や年表によれば、この旅の物語は、作者コンラッドの実体験がもとになっているそうで、当時船員だった彼は、1890年にベルギー国王の私領だったコンゴ自由国(現在のコンゴ民主共和国)に船長として赴任し、コンゴ河を遡上する旅の途上で、過酷な植民地支配の実態を眼にしています。
ウィキペディア 「コンゴ自由国」

これからこの物語を読まれる方のために、あまり詳しくは書かないことにしますが、『闇の奥』というタイトルが暗示しているように、主人公マーロウは、暗鬱で危険な旅の途上で、さまざまなおぞましい光景を眼にし、やがて、魂のダークサイドに堕ちたクルツと対面することになります。

解説によれば、一世紀以上前、この小説が世の中に与えた衝撃は、国際政治をも動かすほどだったといいます。また、この作品をどのように評価するかをめぐっては、いまだに賛否が分かれ、さまざまな論争を生んでいるようです。

ただ、少なくともその物語の描写に関するかぎり、昨今の映画や小説の即物的でグロテスクな表現に慣れてしまっている私には、正直、それほどのインパクトは感じられませんでした。

また、主人公マーロウの饒舌な語りは、時に脱線し、話が前後するだけでなく、あいまいで象徴的な表現が多く、決して読みやすいとは言えません。私の場合は、この短い小説の途中で何度も何度も行き詰まり、最後まで読み切るまでにものすごい時間がかかってしまいました。

そもそも、結局のところマーロウは緑の魔境で何を体験したのか、彼にとって、クルツとは一体どのような存在だったのか、そしてクルツの最後の言葉の意味は何か、など、この小説の肝心な部分についても、読者次第でさまざまに解釈できる余地があります。これらをどのように受けとめればいいのか、考え出すときりがなく、解説を読んでいろいろと腑に落ちる部分もあるとはいえ、それでもスッキリせず、モヤモヤとしたものが後に残るのです。

それでも、この作品は、世界中の作家に大きな影響とインスピレーションを与え、小説・映画などジャンルを問わず、『闇の奥』の系譜ともいうべき数多くの作品を生み出してきました。

それは、闇の世界への危険な旅、そこで出会う狂気に満ちた人物との対決、その体験のインパクトによって決定的に変えられてしまう主人公、というこの物語の基本パターンが、アフリカのような遠い世界にだけあてはまる話ではなく、むしろ、私たち一人ひとりが共通して抱える心の闇との出遭いや、自分自身の影との対決という、普遍的な魂のドラマを暗示しているからなのかもしれません。

そして、そういう視点からこの物語を眺めていくと、マーロウがクルツという未知の人物に次第に心惹かれていくプロセスや、異形の者として彼の前に現れたクルツを忌避することなく、むしろ全身全霊をあげて対峙しようとするその姿に、さまざまな深い意味を読み取ることができるように思います。

いずれにしても、今回は、何とか最後まで読み通すのがやっとで、この本の発するメッセージをうまく受け止められた感じがしませんでした。いつか機会があれば、もう一度チャレンジしたいと思います。

この本は、決して気楽に読めるわけではないし、楽しい読後感も期待できないのですが、読み進む苦しみに見合うだけの「何か」は、きっと得られるのではないかという気がします。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

 

at 18:50, 浪人, 本の旅〜旅の物語

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