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『奇跡の生還へ導く人 ― 極限状況の「サードマン現象」』

文庫版はこちら

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

 

この本は、探検家や登山家が極限状況で体験するといわれる、いわゆる「サードマン現象」の豊富な実例を集め、それが起きるメカニズムについて、さまざまな視点からの考察を加えたユニークな本です。

サードマン現象とは、極地や高山などの過酷な環境で、しかも生還を期しがたいような絶望的な状況に追い込まれた人間が、(多くの場合目に見えない)何者かが自分のそばにいる気配を強烈に感じるという現象です。体験者は、その「存在」に守られ導かれているような安心や希望を感じ、それが彼らに状況を切り抜けるための努力を続けさせ、結果的に、奇跡的な生還を果たすことがあるのです。

もちろん、その現象は誰にでも起きるわけではなく、また、それを体験したからといって、必ず生還できるというわけでもないようですが……。

ちなみに、サードマンという言葉そのものは、T・S・エリオットの有名な『荒地』という詩の中の、
 
いつもきみのそばを歩いている第三の人は誰だ?
数えてみると、きみとぼくしかいない
けれど白い道の先を見ると
いつもきみのそばを歩くもう一人がいる

という一節からきています。そして、この詩は、1916年、探検家シャクルトンの一行が南極周辺の海域で遭難し、残された小舟でサウスジョージア島へと脱出する壮絶な旅の途中、目に見えない何者かが一緒にいたという有名な体験談にインスピレーションを得たとされています。

この本には、登山家、極地探検家を始め、単独航海家や海難事故の生存者、戦争捕虜やテロ事件の生還者、ダイバー、パイロット、さらには宇宙飛行士まで、さまざまな状況でサードマン現象を体験した人々の事例が収められています。

どれも悲惨で壮絶な話で、事例を読むだけで圧倒されます。そして、どんな状況でも希望を失わず、ひたすら生き続けようとする彼らの姿と、その強い意志が可能にした奇跡の生還劇を読んでいると、心が熱くなってきます。

著者のジョン・ガイガー氏は、こうした事例をまとめる一方で、サードマン現象の要因についてさまざまな側面から考察し、それがどうして起きるのか、その謎を解き明かそうとしています。この本を、その謎解きのプロセスとして楽しもうという方にとっては、以下の記述はネタバレになりますのでご注意ください。

サードマン現象は、かつては、神や守護天使がさしのべる救いとして受け止められることも多かったのですが、現在では逆に、それを人間の生理的・心理的機構が生み出した幻だと見なしがちな傾向があります。

例えば、多くの科学者はそれを、激しい体力消耗や環境の単調さによって引き起こされる感覚上の幻影や幻覚、あるいは、食糧不足による血中グルコース濃度の低下や、高所脳浮腫、低温ストレスなどの症状として説明しようとします。

しかし、ガイガー氏は、サードマン現象にはそれ以上のものがあるとして、さらなる探求を続けます。科学者の言うように、それが単に心身の不調による幻覚だとするなら、それが体験者の心の支えとなり、冷静で的確な努力を続けさせる理由を説明できないからです。

実は、サードマンに似た「存在」の現象は、アメリカ先住民やアジア・アフリカの伝統的な通過儀礼の中に、また、孤独やストレスにさらされた子供の多くが体験する見えない遊び相手、あるいは、愛する人を失った直後に遺族が感じる死者の強い気配など、雪山や極地にかぎらず、私たちの日常生活の中にも見られるのです。

そのように、この現象をもっと広い視野でとらえたとき、それは、極端な環境や特殊な人々だけに特有なものであるというよりはむしろ、個人では対処しきれないほどの激しいストレスにさらされた人間が、ある程度共通して経験するプロセスの、一つの表れなのではないかという感じがしてきます。

ガイガー氏は、サードマン現象が起きるカギとなり、その体験者に意味を与える基本原則として、

1.退屈の病理(雪山・海上・砂漠・空など、周囲が単調で感覚入力がほとんどないことによって引き起こされる状態)
2.複数誘因の法則(本人にストレスを与えるさまざまな要因が重なっている)
3.喪失効果(極限の状況で同行者を失ったり、愛する者が死んだりしたとき、「存在」の感覚が孤独感を抑えるための心理的な力になる)
4.ムーサ・ファクター(本人のパーソナリティが、なじみのない新しい経験などを受け入れられるか)
5.救済者の力(自分が最後まで生き延びることを信じる姿勢)

の五つを挙げています。

これらは、体験者の心身の両側面の要因によってサードマン現象を説明するという点で、より総合的になっていて、単純な幻覚説みたいな説明よりは納得できるものですが、サードマン現象の本質に迫り切ったというよりは、多くの事例からとりあえずその共通項を取り出してみたという感じです。

それでもガイガー氏は、最終的にはもっと踏み込んで、サードマン現象は、生き延びようとする本人の強い意志、つまり自分の一部が外部の存在として知覚されるものであり、脳の側頭頭頂接合部にそうした「存在」の感覚を生みだす仕組みがあって、人間が仲間から隔絶された場所で極限状況に追い込まれたりすると、その「天使のスイッチ」が入るのではないか、という結論を示唆しています。

しかし、彼自身も触れているように、それは、現象が「どのように」起きるかを説明することはできても、「なぜ」そうなのかを説明してくれるわけではありません。

刀折れ、矢尽き果てた絶体絶命の局面で、生きるための最後の力を人間に与えてくれるのが、仮に自分の幻影であるとしても、本人の心の中で、それが自分以外の仲間の「存在」として映るのはなぜなのでしょう?

また、親密な他者として体験されるその「何か」が、自分に究極の力を与えてくれるという仕掛けを人間の心身に植えつけたのは、単なる進化の偶然なのでしょうか? それとも、そのような仕組みになっていること自体が、人類に対する、何か深い意味をもつメッセージなのでしょうか?

「サードマンは希望の媒介者である」とガイガー氏が言うとおり、誰かがそばにいるという実感、「私たちは一人ではないという信念と理解」が、極限状態の人間に最後の希望と力を与えます。そうした仕組みが、人間が口先で語るきれいごとではなく、私たちの心身の深い部分にあらかじめセットされていることに、私は暖かな希望を感じました。

ところで、私自身は、この本で初めてサードマン現象という用語を知ったのですが、これと似たパターンの話自体には、これまで何度も出会ってきました。例えば、いわゆるスピリチュアル系の世界では、変性意識状態において、自分を見守り導く「存在」に出会うのはおなじみの話です。

また、お大師さん(弘法大師)がいつもお遍路さんと一緒に足を運んでくださっているという、四国八十八カ所巡礼のあの有名な言葉、「同行二人」も頭に浮かびます。

何らかのきっかけで日常的な意識の世界を超え、ふつうの言葉では説明できないような体験をするという点で、サードマン現象には、スピリチュアルな世界と共通するものがあるといえるかもしれません。

一冊の本に、多数の事例とさまざまなトピックが詰め込まれているせいか、この本には少し読みにくいところもあります。それでも、壮絶な旅の記録として、また、人間の本質に対するユニークなアプローチとして、読むに値する素晴らしい本だと思いました。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

 

 

at 18:45, 浪人, 本の旅〜世界各国

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