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『GNHへ ― ポスト資本主義の生き方とニッポン』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

このところ、震災と原発事故の重いニュースに釘づけになっていたせいか、せっかくの桜を見ても心は晴れず、いつにも増して、これからの生活に対する漠然とした不安を覚える日々が続いています。

本を読んで気持ちを切り替えようとしても、現実の引力が強すぎて、なかなか本に集中することができません。

こういうときは、いっそしばらく本から遠ざかり、何か他の気晴らしを探すべきなのかもしれませんが、とりあえず、未来社会の明るいビジョンを描いたものなら受けつけるかも、ということで、この本を読んでみました。

この本のタイトルにある「GNH」とは、ブータンの前国王が提唱した「国民総幸福量 Gross National Happiness」のことで、現在広く知られている国内総生産(GDP)に代わり、別の視点から社会の豊かさを測る試みのひとつとして知られています。
ウィキペディア 「国民総幸福量」

ただ、経済成長至上主義を見直すというテーマ自体は、まあ、それほどめずらしいものではなく、この本も一見しただけでは、そういう数多くの本のひとつにしか見えないかもしれません。私自身も、この本を知ったときには、ユニークなアイデアに溢れる著作の多い天外伺朗氏の本にしては、何か平凡なタイトルだな、と思ってしまいました。

しかし、実際に読んでみると、GNHという概念そのものは、いわばそれに続く話の枕に過ぎませんでした。

ギャンブル化した資本主義の行く末を憂う天外氏の話は、やがて、行き過ぎた合理主義とエゴの追求という世の中の流れに巻き込まれずに、各個人が「いかに生きるか」という問題へ、さらには「次世代社会体制への展望」へと、深く大きく広がっていきます。

天外氏の場合、電機メーカーのエンジニアやマネジメントとしての長い実務経験がある一方で、いわゆる「スピリチュアル系」の研究でも知られているだけに、その内容は現在の日本社会のメインストリームの常識的な発想を超えた、かなりユニークなものです。

例えば、この本の中でも、ミヒャエル・エンデ氏の代表的なファンタジー『モモ』の話とか、インディアン(アメリカ先住民)の儀式の話とか、トランスパーソナル心理学の知見に基づいた人類の意識レベルの話などが次々に出てきます。

こういう話は、その手の話題に慣れていれば非常に面白いし、私も大好物なのですが、実際のところ、それを唐突すぎると感じる人もいるだろうし、人によっては拒絶反応を起こしてしまうかもしれません。それに、天外氏の文章は、ときに大胆で歯切れがよすぎて、こんなことを大っぴらに書いて大丈夫なんだろうかとヒヤヒヤする箇所もあります。

それでも、できるだけ先入観を交えずに彼の話に耳を傾ければ、この本の内容はそれほど荒唐無稽というわけでもなく、むしろ彼は、ビジネスマンとしての豊富な経験に基づいて、単なるスピリチュアルな夢想では終わらない、実現可能性の高いアイデアを提示しようと試みていることが分かるのではないでしょうか。

天外氏は、現在のように各自が合理的に効率を追求し、エゴを張り合う文化から、より深い精神性を大切にする文化へのパラダイムシフトが、近い将来必然的に起きると考え、日本社会もGDP至上主義やギャンブル経済から脱却することで、「一人ひとりの人間としての意識レベルが、世界でも群を抜いて高く、GNHも高い、という社会」を目指していくべきだとしています。

そのために、個々人のレベルでは、人間として生きることの基本を見つめ直し、現在の消費社会の虚飾を捨てて「素に生きる」べきだし、そこでは、仕事や遊びにおいて、心からやりたいこと、楽しいことをすることで、時間を忘れて何かに没頭する「フロー」状態に入ることが重要だとしています。彼によれば、「フロー」に入ることで、私たちは潜在能力や創造力を発揮し、生きていることを心から実感することができるといいます。
ウィキペディア 「フロー」

一方で、人類の集合的な意識レベルの向上、進化に合わせて、社会のシステムも変えていかざるを得ません。天外氏は、将来の社会システムを先取りするものとして、教育の自由化、医療改革、通貨改革、次世代の社会統治システム案など、いくつかの分野について、(ごく簡単なものですが)具体的なたたき台を示しています。

こうした話は、特に、人間は「素に生きる」べきだという主張などは、一見すると現代社会批判にありがちな、文明を否定して「自然に帰れ」と叫ぶだけの議論に似ているように見えるかもしれません。

ただ、天外氏は、単に現代文明を全否定したり、かつてのアメリカ先住民のような暮らしにみんなが戻ることを理想としているわけではなく、現在に至るまでに人類が獲得してきたさまざまな知識や知恵のなかから、これからの私たちに本当に必要なものだけを厳選し、さらに高い(深い)意識の水準をめざすことで、現代文明の抱える本質的な問題を克服し、より多くの人が幸せを実感できるような社会を創造したいということなのだと思います。

とはいえ、もちろん一冊の本の中で、未来の社会の全体像が具体的に描き出されているわけではありません。

むしろ、この本の中で天外氏が主張しているように、今後の社会が、少人数のコミュニティの集合体を基盤としたボトムアップ型の社会になっていくのだとすれば、従来のように、一部のエリートが社会のあるべき姿を細かく設計し、それを残りの人間に提示するという、トップダウン型のやり方自体が、そもそもふさわしくはないのでしょう。

だとすれば、来たるべき社会は、これから私たち自身が時間をかけて試行錯誤を繰り返す中で、少しずつ姿を現し始めることになるのかもしれません。

それにしても、ほとんど機能不全を起こしているような現在の社会システムの中で、例えば法案を一つひとつ成立させたり、憲法を改正したりしながら新しい社会を実現していくとしたら、それは途方もない難業になりそうな気がします。

現代の人々の常識を超えるような全く新しい制度については、まだ誰もその価値や有効性について確信がもてないはずですが、一方で、そうした新しい制度に対し、社会の過半数以上が賛成するという奇跡が実現しなければ、社会システムを大きく変えていくことはできないからです。

これまでの人類のパラダイムシフトにおいては、そのたびに社会の大きな混乱があり、多くの血が流されてきました。天外氏の言うように、いま、大きなパラダイムシフトが進みつつあるのだとしたら、実際問題として、どのような移行のプロセスをたどるのが望ましいのでしょうか。

その過程で起こるかもしれない混乱や犠牲をできるだけ少なくするためにはどうすればいいのか、新しい社会のビジョンよりもむしろ、そちらの方がずっと難しい問題であるような気がします。

……と、未来について書かれた本を読みながら、やっぱり余計なことをいろいろと考えて、頭をモヤモヤとさせてしまうのでした……。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 19:50, 浪人, 本の旅〜人間と社会

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hikaru, 2011/04/20 11:35 AM

目に見えることは人間の力で改善できるが、目に見えないことを解決しなければ、それ以上の惨劇を繰返さなければならなくなる。
心は、人間の努力だけでは改善できない。
私たちが、今、しなければいけないことは『救世主スバル元首様』に、救いを求めることだ。
  もう、時間がない!!
http://www.kyuseishu.com/tanuma-tu-koku.html
http://miracle1.iza.ne.jp/blog/entry/2237566/










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