このブログ内を検索
新しい記事
記事のカテゴリー
            
過去の記事
プロフィール
            
コメント
トラックバック
sponsored links
その他
無料ブログ作成サービス JUGEM
<< ことばのスモール・ワールド | main | 旅の名言 「困ったときは……」 >>

『減速して生きる ― ダウンシフターズ』

文庫版はこちら

Kindle版はこちら

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

 

本のサブタイトルにある「ダウンシフター(減速生活者)」とは、アメリカの経済学者ジュリエット・B・ショア氏の言葉で、「過度な消費主義から抜け出し、もっと余暇を持ち、スケジュールのバランスをとり、もっとゆっくりとしたペースで生活し、子どもともっと多くの時間を過ごし、もっと意義のある仕事をし、彼らのもっとも深い価値観にまさに合った日々を過ごすことを選んでいる」(J・B・ショア『浪費するアメリカ人』岩波書店)人々を表しているそうです。

この本の著者、盧箴〇瓩癲△泙気砲修里茲Δ弊験茲鮗ら選び取った一人です。本書には、彼自身が、深い悩みの中で新しい価値に気づき、それを実現していくまでの詳しいプロセスと、日々の実践や人々との交流を通じて紡ぎ出された、自給・自立・自由をめぐるシンプルな生活哲学が語られています。

盧篁瓩蓮大学卒業後、大手小売企業に就職し、仕事に追われる20代を過ごしました。しかし、稼いだお金で欲しかったモノを揃えてみても、生活に充実感はなく、バブル崩壊後の経済状況の中で過酷さを増す業界や仕事のあり方にも疑問を覚え、将来の自分の姿を思い描けずにいました。

彼は、30歳のときに会社を辞め、しばらく国内・海外を旅したあと、BARを開きたいという自分の夢を実現するために、友人の飲食店で働きながら料理の技術を覚え、4年後に小さなオーガニック・バーを開店します。

その小さなビジネスと、自分にとって充分な暮らしのレベルが持続可能となるためには、一日当たり5人のお客さんが来てくれれば大丈夫と計算した彼は、「繁盛しないこと」をポリシーにし、店の運営をすべて一人でこなすなど、余計なものをすべて省いた「ミニマム主義」を徹底することで、少ない売上でも黒字経営を続けてきました。

そのおかげで、お客さんに遠慮することも、あえて販促活動をすることも不要になり、提供する酒や料理から、店内のBGM、店の内装や運営のスタイルまで、すべてにわたって自分のこだわりや主張を反映させることが可能になりました。

やがて、彼の店にはユニークな人々が集まるようになり、人々のつながりが、さらに新しい動きを生み出していきます。盧篁瓩癲田んぼを借りて自ら米作りに取り組み、家族の食べる米を自給できるまでになったそうです。

彼のサクセスストーリーは、表面的には、「脱サラ」→ 飲食店経営という、ありがちな話の一つに過ぎないように見えるだろうし、もっと派手な金銭的成功を求める人の興味もひかないかもしれません。

しかし、そこには、常識として世の中で通用している価値観からの質的転換、むしろ、逆転といえるほどの大きな変化があります。そして、彼自身がその転換を自覚し、この本でそれをはっきりと語っていること、また、彼の店のスタイルも、生活上のさまざまな実践も、その一つひとつが社会に対するメッセージになっていることが、この本をとてもユニークなものにしています。

「お金をかける」ことよりも、「時間をかける」ことや、「手間隙かける」ことに、豊かさや楽しさの秘訣があると気づいた盧篁瓩蓮効率とスピードと利益を際限なく追求し、資源やエネルギーを浪費し、人々に大量消費を延々と繰り返させるような、巨大企業を頂点とした経済システムから意識的に距離を置いて、たとえ低収入であっても、個性や好きなことを活かし、それを生業にするような生活を組み立てていきます。

そして彼は、それを単なる個人的な実践だけで終わらせるつもりはなく、周りの人々がダウンシフターズとして仲間に加わり、地域に根ざして互いにつながり合うことで、社会は少しずつよりよい方向に変わっていくだろうし、それが、やがては持続可能な社会を作り上げていくのだという信念があるのです。

何よりも、彼自身の生き方を実例にすることで、読者にもそれが可能かもしれないという現実的な「希望」を抱かせてくれるのはすごいと思います。

世の中の変化を敏感に感じとり、いま、自分は何をすべきか、意識的・無意識的に考え、心の準備を整えつつある人にとっては、この本は、その背中を一押しして、自分の夢に向かって踏み出す勇気を与えてくれるかもしれません。

私個人としては、盧篁瓩この本で展開する主張すべてに同意するわけではないし、ダウンシフターとして生きることのメリットと、組織人として生きることのデメリットが、それぞれ強調されすぎているようにも思いますが、それでも、「減速して生きる」という彼のシンプルな生活哲学については、非常に強い共感を覚えました。

ところで、ここは誤解を招きやすいところだと思うので一応触れておきますが、盧篁瓩蓮何でもかんでもシステムから降りればいいとか、文明を否定して、昔のような自給自足の生活に戻ればいいと言っているわけではありません。彼自身も書いていることですが、半自給的で、ミニマム主義に基づいた、自立した生活の基盤に軸足をおきつつも、今の世の中に、半分くらいは関わりを保ち続けることが大事だと思います。

重要なのは、大きな組織とかシステムの都合に振り回されず、各々が自分の人生の主人公になって、生きがいや喜びにあふれた人生を送ることであるはずで、自給・自立・自由といった言葉そのものにこだわって、100パーセントの自給とか、完全な自立といったような純粋さを求めすぎると、かえって本末転倒になってしまうかもしれません。

そういう意味では、価値観の転換とか逆転の発想といっても、とにかく逆方向に突き進めばいいというものではなく、そこには自分自身の実感に基づいたバランス感覚が必要になってくるということなのだと思います。

話は少し変わりますが、「減速して生きる」という発想は、アジアなどをゆっくり時間をかけて旅する、いわゆるバックパッカーと呼ばれる人たちにとっても、ごく自然に受け入れられる考え方ではないかと思います。

私が旅をしていたときには、旅人同士のとりとめのない話の中で、日本に帰ったら、あるいは海外のどこかに居心地のいい場所を見つけて、ゲストハウスを経営してみたいとか、屋台や小さな食堂でもやってみたいという話がよく出ていたような気がします。

まあ、そのほとんどは、盧篁瓩里茲Δ蔽綣造雰弉茲任呂覆、ぼんやりとした夢想とか、冗談半分の思いつきにすぎなかっただろうとは思いますが、開発途上国のゆったりとした時間の流れになじみ、スローな生活の喜びを知ってしまうと、やはり、旅が終わったあとも、どうしたらそういう暮らしを続けられるだろうかと考えてしまうのでしょう。

ただ、そうした旅人も、自分の将来をもっと具体的に考える段階になれば、さまざまな現実の壁に直面することになります。

周囲の理解という点でも、世の中の仕組みという点でも、今の日本で、個人が自分のペースで生きていくことは、まだまだ簡単ではありません。いま、ダウンシフターとして生きる人たちは、そのパイオニアとして、やりがいと同時にさまざまな苦労も味わっているのではないでしょうか。

また、この本を読み終えた人の中には、自分が心からやりたいことはいったい何だろうと真剣に考え始めて、茫然としてしまう人がいるかもしれません。

たとえ収入は少なくても、自分の夢を自分のペースで実現できたら、たしかに幸せな生活を送れるでしょう。しかし、子どもの頃から周囲に合わせ、自己主張することも、やりたいことに打ち込む楽しみも遠慮して生きてきた人、親の期待とか、学校や社会の暗黙のルールに従うことをずっと優先してきた人は、突然、本当にやりたいことは何かと問われても、むしろ当惑してしまうでしょう。

それでも、やはり、自分の夢を少しずつ形にし、それを何とかして生業に結びつけていくこと、そして、そのために、本当に必要なものを絞り込み、もっとゆっくりとしたペースで生きることを選ぶのは、とても価値のあるチャレンジだと思います。

私も、ダウンシフターズの方々の実践から学びつつ、自分なりに模索を続けたいと思います。



本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 19:22, 浪人, 本の旅〜人間と社会

comments(0), trackbacks(0)

スポンサーサイト

at 19:22, スポンサードリンク, -

-, -

comment









trackback
url:http://ronin.jugem.jp/trackback/713