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ビザ・ラン

先日、バックパッカー向けの情報サイトなどで、タイの入管ルールが厳しくなったというニュースが飛び交いました。

Guesthouse TODAY 【タイの陸路ノービザ30日ビザランが事実上の禁止!? 8月12日から空路での入国も厳格化のアナウンス!】

上の記事には、さまざまなソースからの情報が、時系列でまとめられています。

日本人がタイに入国する場合、陸路・空路を問わず、ビザなしでも30日の滞在許可が下りるため、一部の長期旅行者は、タイから陸路でいったん隣国に出て、再びタイに戻る「ビザ・ラン」を行うことで、合法的かつ低コストで、滞在許可の更新をしていました。

タイ当局は、以前から、こうした行為には一応目を光らせており、ビザ・ランを何度も繰り返した旅行者が、入国を制限されるケースがあったようです。

ただ、今回は、予告なしでかなり厳しい対応がとられ始めたらしく、国境で入国を拒否され、予想外の事態に立ち往生してしまった旅行者も出ているようです。

現時点では、新しいルールの詳細や実際の運用がどうなるかについて、不明な点が多く、最悪の場合、具体的なルールが曖昧なまま、国境の係官次第で対応が変わってしまう可能性もあります。

陸路で国境を出入りするのは、ビザ・ラン目的の長期滞在者だけでなく、タイを拠点に、東南アジア各国を周遊する旅人もいれば、仕事などで、隣国との間を頻繁に行き来している人もいるでしょう。

今後の成り行きによっては、そういう人たちは、入国を拒否されるリスクを避けるため、旅のルートを変更したり、念のために観光ビザを取っておくなど、対策を立てる必要に迫られるかもしれません。

とはいえ、当局がこうした措置を講じるのは、もちろん、タイに長期滞在する「沈没系」の旅行者や「外こもり」の人々に対して嫌がらせをしたいわけではなく、上の記事にもあるように、タイ国内で不法就労する多くの外国人がビザ・ランを活用しているため、彼らから、そうした抜け道を奪うのが目的なのでしょう。
ウィキペディア 「沈没」の、「比喩的表現」の項参照

旅行者にしてみれば、別にタイで働くつもりはなく、むしろ、わずかとはいえ、日本で稼いだカネを現地に落としているわけで、タイに長居しづらくなるのは、とんだとばっちりなのかもしれませんが、タイ人と結婚したとか、留学中であるとか、専門性のある仕事についているとか、一定以上の資産を持つ退職者など、ちゃんとした理由があって長期滞在する外国人には、それぞれのタイプ別の専用ビザが発行されるので、そういうビザを持たないということは、不法就労者と同様、何かやましいところがある、と当局に見なされてしまうのかもしれません。

それにしても、「ビザ・ラン(visa run)」という言葉を、誰がいつごろから言い出したのかは分かりませんが、異国での滞在許可を求めて奔走する当事者の、切なさや自嘲が込められた、実に味わい深い言葉だと思います。

彼らは、タイムリミットが近づくたびに、大急ぎで隣国にすべり込み、時計の針をリセットして、次のリミットまでのわずかな猶予を手に入れるという、自転車操業のような暮らしを続けているわけです。

しかし、タイの場合なら、1か月(観光ビザを取れば延長して最長3か月)の滞在許可を得るためだけに、田舎の国境まで、ときには何百キロもの距離を往復しなければなりません。

肉体的にもしんどいし、カネも時間もそれなりにかかるビザ・ランを、好きでやっている人はほとんどいないでしょう。他に選択肢もないので、まるで、江戸時代の参勤交代みたいに、不本意で無意味な移動を強いられているのだと思います。

そして、他に選択肢がないからこそ、今回のように、当局がいきなりルールや運用を変えたりすれば、その影響は甚大で、準備もないままに行き場を失って、途方に暮れる旅人も出てくることになります。

でもまあ、これは別にタイに限った話ではありません。どの国にも似たようなルールがあって、それなりに厳しい運用がされているし、国家間の人の移動が完全に自由になってしまえば、それはそれでさまざまな問題が噴出してしまう以上、一旅行者の立場から現状を嘆いたところで、どうにもならないことではあるのでしょう。

人類は平等、という高らかな理想はともかく、どこの国でも、リッチな人間や有能な人間にはいつまでもいて欲しいけれど、そうでない人間は、用事が済んだらできるだけ早くお引き取り願いたいというのが現実で、貧乏旅行者にとって、滞在許可を気にせずにいつまでも暮らせるのは、自分の生まれた国だけです。

ただ、考えようによっては、異国での滞在期間が限られていることには、それなりのメリットもあるのかもしれません。

私もかつて、タイに長期間「沈没」して、ラオスやマレーシアへの入出国を繰り返したことがあるので、当事者として実感があるのですが、旅行者が「沈没」状態にあるときは、新しいことをやってみようというエネルギーが極端に低下し、行動範囲も非常に限られてしまい、同じような毎日をダラダラ繰り返すだけになっていることが多いのです。

そんな状態の旅行者にとって、国境までの往復の旅をしたり、ビザを取ったり延長の手続きをしたりするのは面倒極まりないことなのですが、そういう作業すら放棄して、そのまま不法滞在になってしまえば、たとえしばらくの間発覚しなかったとしても、いずれ出国するときにもっと面倒なことになるばかりか、場合によっては、その国に二度と入れなくなったりして、将来の選択肢を自ら失っていくことにもなります。

私の場合は、そういう最悪の事態だけは避けたいという消極的な動機をエネルギー源に、自分を何とかビザ・ランへと駆り立て、定期的に長距離の移動をすることで、自分が旅人なのだという感覚を、辛うじて維持することができました。

それに、滞在期間が限られていることは、そこが自分にとってあくまでも仮の居場所であり、決して安住の地ではないということを、絶えず意識させてくれます。

どの国にいても、数週間先、数か月先には必ずそこを出ていかなければならないわけで、観光を楽しむにせよ、「沈没」してブラブラ過ごすにせよ、旅人の頭の中では、つねにその期限までのカウントダウンが続いています。

考えてみれば、私たちの人生も似たようなものです。

人間が死にゆく存在である以上、誰にとっても、この世界は仮の居場所にすぎず、どれだけ居心地のいい場所を見つけたとしても、それは永遠の安住の地ではありません。滞在許可の限られた外国人旅行者のように、誰もが、いずれはそこを去らざるを得ない運命です。

異国を旅していると、いつまでそこにいられるのか、やがてやって来る最後の日を絶えず意識させられますが、それは、私たちの人生もまたそうであるという避けようのない現実を、心のどこかで、強く思い返させてくれるという効用があるのかもしれません。

もちろん、実際の人生では、その終わりの日がいつになるか、入国スタンプみたいに、最初の時点ではっきり教えてもらえるわけではありませんが……。


記事 「旅人とビザ」


JUGEMテーマ:旅行

at 18:31, 浪人, 地上の旅〜旅全般

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