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スマホ時代の集中力と自動運転車
最近、あちこちで、自動運転車に関するニュースを見かけるようになりました。
世界中のIT企業や自動車メーカーが参入し、将来の主導権をめぐって激しく競い合うようになったこともあり、ドライバーのいらない完全な自動運転車の実用化も間近なのではないかと、大いに期待が膨らみます。
その一方で、ふと思うのは、私たち人間による車の運転についても、状況が大きく変わりつつあるのではないか、ということです。
ここ数年で、スマホが世界中に普及したことで、多くの人が、日常的に、ネット経由の大量の情報にさらされているわけですが、それが、運転手の集中力や注意力に何らかの影響を与えているのは確実だと思うからです。
運転中もスマホの操作をやめられず、それで事故を起こしてしまうケースは、その分かりやすい例ですが、かりに運転中にスマホを見ていなくても、つい先ほどまで夢中になっていたゲームの続きとか、まだチェックしていないメールやSNSが気になって、注意がおろそかになってしまう人もいるかもしれません。
ネットの世界では、世界中の人々から注目を浴びることが、ビジネス上の成功や自尊心の満足につながるために、いかにして人々の気をひくか、そして、いったん向けられた注意をどうやって持続させ、習慣化させるかをめぐって、さまざまな企業や個人による激しい競争が行われています。その結果、ネットの世界は、内容的にも技術的にも、利用者を引き込み、熱中させる仕掛けに満ちた、中毒性の高いものになりつつあります。
スマホによって、そうした世界にいつでもどこでもアクセスできるようになると、人によってはネットにつながるのが当たり前の習慣になり、逆に、つながっていないとそれだけでストレスになります。ネット中毒の運転手なら、運転中でも心はネット世界に飛んでいってしまいがちになるだろうし、車窓の風景も、ネットと違ってあまりにも刺激に乏しく感じられ、それがますます注意散漫をもたらしそうな気がします。
そんな風に、ここではないどこかへ、常に心が持っていかれがちな状況で、目の前の路上に注意を払い、運転に集中し続けるためには、むしろ、スマホがなかった時代よりも強力な意志の力が必要になっているのではないでしょうか。
しかし、ここ数年のスマホの普及とともに、交通事故が激増したというニュースは目にしません。
運転中にスマホを操作していて事故を起こしたようなケースがたまに報道されることはありますが、スマホ世代の若者の交通事故が特に増加しているという傾向はないようです。
たぶん、若い世代を含め、多くの人は、私が心配するほどネットやスマホにどっぷりはまっているわけではなく、かりにスマホ中毒みたいになっているとしても、自動車の運転のような危険な作業をするときには、きちんと気持ちを切り替え、それなりに緊張感をもって行動することができているのでしょう。
考えてみれば、昔も今も、ドライバーが注意散漫になる原因や状況というのはいくらでも存在しています。酒を飲んでしまったり、寝不足だったり、体調が悪かったり、心配事を抱えていたり、考え事にふけっていたり……。スマホというのは、そうした数多くの原因のうちの一つに過ぎないし、今のところは、それが交通事故の統計を大きく変える影響力をもつほどにはなっていないということなのだと思います。
ただ、今後もこのまま問題が深刻にならないと期待できるかどうかは分かりません。
それに、ネットやスマホの問題とは別に、高齢運転者の増加にともなって、安全なレベルの運転技術や注意力・判断力を維持できないドライバーが出てきているという問題もあります。
そんなことを考えていると、自動運転車が近い将来普及しそうなのは、ちょうどいいタイミングなのかもしれないという気がしてきます。
それは、人類に車を運転させるのはもう無理、という意味ではありません。
これまでも、自動車の運転というのは、高い注意力や集中力を必要とする危険な仕事だったし、実際、私たちは多くの犠牲を払ってきましたが、自動車がもたらすメリットは巨大だったし、ほかに代替する手段もなかったので、それを続けざるを得ませんでした。
だから、いま、知的な機械がそれを立派にこなす能力を備えつつあるのだとしたら、車の運転のような過酷で割に合わない仕事は、そろそろ機械にバトンタッチしてもいいような気がするのです。
現時点では、たぶん、私たちの多くが、無人で動く自動車を見慣れていないので、気味の悪さや不信感を抱いてしまうと思いますが、いったんそれらが世の中に浸透し、当たり前の存在になってしまったら、むしろ、未来の人々は、昔は年齢も性格も技量もバラバラなごく普通の人たちが、自らの手で車を運転していたと聞かされて、ゾッとするようになるのかもしれません……。
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