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2012.11.28 Wednesday
靴に苦労した話(2)
記事 「靴に苦労した話(1)」
(続き)
アジアの国々では、靴の修理屋が路上で店開きをしていることが多く、簡単な修理なら、その場で気楽にやってもらうことができます。
私も、そうした修理屋に持ち込むことを考えました。
ただ、靴はすでにボロボロだったので、修理がうまくいく可能性は低そうだったし、それ以上に、修理屋のオッサンがあれこれいじりまわして、その結果、靴が完全にバラバラになってしまうのではないかと心配でした。
もしも、いま履いているこの靴を失ったら、本当に、その辺で手に入る靴で旅を続けるしかなくなります。
それに、どんなにちゃんと修理したところで、その靴が、あと数か月、いや、数週間くらいしかもたないだろうということは、私にもよく分かっていました。下手したらあと数日で、突然寿命を迎えるかもしれません。
どうせ靴は壊れる運命にあるのだから、他人に余計な手出しをされるよりは、自分でやれるだけのことをやった方がいいのではないか……。
そう心に決めて、シルクロードを旅しているあいだ、何度か安物の接着剤を買ってきては、自分で修理を試みました。
もちろんそれは、素人のやっつけ仕事だったし、何もしないよりはマシだろうという、気休め程度のものに過ぎませんでした。
今思えば、それは、靴の修理というよりは「看病」であって、長い間旅を共にし、ほとんど自分の一部と化していた一足の靴との別れのための、長い儀式のようなものだったのかもしれません……。
西チベットに入った頃には、靴の穴は大きく広がり、水が容赦なく染みこんでくるようになりました。見ると、靴底のゴムもベロリと剥がれ始めています。
これから毎日のように、長い距離を歩かなければならないというときに、靴は最悪の状態でした。
カイラス山周辺の巡礼路は、細い踏み分け道が続いているだけで、途中、いくつもの小川を越えていかなければなりません。もちろん、橋はほとんどないので、ジャンプして飛び越えるか、飛び石伝いに渡るか、靴を脱いで、冷たい雪解け水にジャブジャブと足を踏み入れるしかありません。
靴を濡らさないように渡ったつもりでも、いつの間にか水が入ってきます。川でなくても、ぬかるんだ場所を歩いただけで水が染みるので、一日中歩いていると、すっかり足がふやけてしまいました。
日が落ちてすっかり寒くなった頃、ふやけた足を乾かし、泥だらけの靴下を、凍えながら川で洗濯していると、オレ、こんなとこで何やってんだろう……と思わずにはいられませんでした。
しかし、もはや選択肢のなくなった私は、買いだめしておいた接着剤を惜しみなく投入し、もう一度穴を埋め、靴底を貼り直しました。
もちろん、歩けばすぐに接着剤がひび割れ、再び穴が開きます。
それをふさげば、また穴が開き……の繰り返しでした。
それでも、靴は何とか完全崩壊だけはまぬがれ、予定の巡礼路を無事歩きとおすことができましたが、西チベットを出て、ラサにたどり着いたとき、靴は、接着剤と土ぼこりにまみれて異様な姿になっていました。
ラサで新しい靴を手に入れてもよかったのですが、もうちょっとガマンしてネパールまで行けば、トレッキングに使えそうな、ちゃんとした靴が手に入るかもしれないと思い、寿命をはるかに超えた靴を、さらにだましだまし、何とかカトマンズまで持ちこたえさせました。
カトマンズに着き、多くの旅行者が集まるタメル地区を歩いてみると、けっこうそれらしい靴が店先に並んでいます。しかし、いざ本気で探し始めると、やたらにごつい登山靴とか、値段の高い靴ばかりで、トレッキング以外にも使えそうな、軽くてシンプルで、そこそこ安いタイプの靴が見当たりません。
かといって、地元の人向けのふつうの運動靴では、トレッキングに使うのにちょっと不安を覚えます。
それでも、時間をかけてあちこち見て回り、ダウンタウンの商店街で、ほどほどに丈夫そうで、それなりに安い、韓国製のトレッキングシューズを見つけました。
これまで長いあいだ待ち焦がれていた新しい靴が、ここでようやく手に入ったのです。
気に入った靴に、久しぶりにめぐり会えたことで、旅がまた新しく始まるような、ワクワクした気分になりました。
そして同時に、これまでひたすら旅に貢献してくれた先代の靴と、ようやくお別れができそうな気がしました。
しかし、トレッキング前に足慣らしでもしておこうと、新しい靴に履き替え、カトマンズの郊外を半日歩いて帰ってきたら、靴の中敷きがボロボロに崩れていました。
何年も店晒しになっているうちに、素材が劣化していたのか、最初からそういう品質だったのか、理由は分かりませんが、始めからいきなりケチがついた格好で、こんな靴で大丈夫なのか不安になりました。
とりあえず、街の修理屋で中敷きを適当に張り直してもらってから、ヒマラヤのランタン谷へトレッキングに出かけたのですが、案の定、目的地のキャンジン・ゴンパまであとわずかというところで、ひざを痛めてしまいました。
靴のせいなのか、私の足の運び方が悪かったのか、靴に慣れる時間が足りなかったのか、これも原因はよく分かりません。ただ、先代の靴を履いていたときには、山をいくら登り下りしようが、何十キロ歩こうが、全く何の問題もなかったことを考えると、やはり新しい靴との相性に問題があったのだろうという気がします。
それでも、せっかくここまで来たのだからと、キャンジン・ゴンパに数日滞在し、近くの山頂に登ってみたり、ちょっと無理をして、片道数時間をかけて、谷のさらに奥へと歩いてみたりしました。
ひざの痛みは、日毎に強くなっていきました。
親切なトレッカーが薬を分けてくれたので、とりあえず応急処置をしてみましたが、痛みはとれません。
こんなとき、金持ちの観光客なら、ヘリコプターで下界まで運んでもらうのでしょうが、貧乏バックパッカーとしては、一度登ってしまったら、自分の足で下まで歩くという選択肢しかありません。
せめて杖でもあればよかったのですが、それも持ち合わせていなかったので、痛みをこらえ、足をひきずり、大変な思いをしながら、バスが発着する村まで何とかたどり着きました。
それ以降、旅が終わるまで、その靴を使い続けはしたのですが、その後、山を歩いたり、トレッキングをするような機会はなかったし、靴には最後まで愛着を持てないままでした。
つい、昔の話をダラダラと書いてしまいました。
こうした体験に、何か教訓めいたものがあるとしたら、当たり前ではありますが、やはり、靴の良し悪しは大事で、信頼できる、いい靴にめぐり会えれば、旅の可能性も大きく広がるけれど、逆なら悲惨なことになる、といったところでしょうか。
そして、いい靴が手に入る場所は決して多くはないし、かといって、スペアの靴を常に持ち歩くのも現実的ではないので、新しい靴に買い換えるなら、そのタイミングも大事です。
もっとも、これはあくまで昔の話で、今ならグローバル化のおかげで、ちゃんとしたブランド品が、どこでも簡単に手に入るようになりつつあるのかもしれません。まあ、場所によっては、とんでもないニセモノをつかまされる可能性もありますが……。
靴に関しては、別の旅でも難儀なことがあったのですが、それはまた別の機会にでも書くことにしたいと思います。
記事 「ビーチサンダルの話」
(続き)
アジアの国々では、靴の修理屋が路上で店開きをしていることが多く、簡単な修理なら、その場で気楽にやってもらうことができます。
私も、そうした修理屋に持ち込むことを考えました。
ただ、靴はすでにボロボロだったので、修理がうまくいく可能性は低そうだったし、それ以上に、修理屋のオッサンがあれこれいじりまわして、その結果、靴が完全にバラバラになってしまうのではないかと心配でした。
もしも、いま履いているこの靴を失ったら、本当に、その辺で手に入る靴で旅を続けるしかなくなります。
それに、どんなにちゃんと修理したところで、その靴が、あと数か月、いや、数週間くらいしかもたないだろうということは、私にもよく分かっていました。下手したらあと数日で、突然寿命を迎えるかもしれません。
どうせ靴は壊れる運命にあるのだから、他人に余計な手出しをされるよりは、自分でやれるだけのことをやった方がいいのではないか……。
そう心に決めて、シルクロードを旅しているあいだ、何度か安物の接着剤を買ってきては、自分で修理を試みました。
もちろんそれは、素人のやっつけ仕事だったし、何もしないよりはマシだろうという、気休め程度のものに過ぎませんでした。
今思えば、それは、靴の修理というよりは「看病」であって、長い間旅を共にし、ほとんど自分の一部と化していた一足の靴との別れのための、長い儀式のようなものだったのかもしれません……。
西チベットに入った頃には、靴の穴は大きく広がり、水が容赦なく染みこんでくるようになりました。見ると、靴底のゴムもベロリと剥がれ始めています。
これから毎日のように、長い距離を歩かなければならないというときに、靴は最悪の状態でした。
カイラス山周辺の巡礼路は、細い踏み分け道が続いているだけで、途中、いくつもの小川を越えていかなければなりません。もちろん、橋はほとんどないので、ジャンプして飛び越えるか、飛び石伝いに渡るか、靴を脱いで、冷たい雪解け水にジャブジャブと足を踏み入れるしかありません。
靴を濡らさないように渡ったつもりでも、いつの間にか水が入ってきます。川でなくても、ぬかるんだ場所を歩いただけで水が染みるので、一日中歩いていると、すっかり足がふやけてしまいました。
日が落ちてすっかり寒くなった頃、ふやけた足を乾かし、泥だらけの靴下を、凍えながら川で洗濯していると、オレ、こんなとこで何やってんだろう……と思わずにはいられませんでした。
しかし、もはや選択肢のなくなった私は、買いだめしておいた接着剤を惜しみなく投入し、もう一度穴を埋め、靴底を貼り直しました。
もちろん、歩けばすぐに接着剤がひび割れ、再び穴が開きます。
それをふさげば、また穴が開き……の繰り返しでした。
それでも、靴は何とか完全崩壊だけはまぬがれ、予定の巡礼路を無事歩きとおすことができましたが、西チベットを出て、ラサにたどり着いたとき、靴は、接着剤と土ぼこりにまみれて異様な姿になっていました。
ラサで新しい靴を手に入れてもよかったのですが、もうちょっとガマンしてネパールまで行けば、トレッキングに使えそうな、ちゃんとした靴が手に入るかもしれないと思い、寿命をはるかに超えた靴を、さらにだましだまし、何とかカトマンズまで持ちこたえさせました。
カトマンズに着き、多くの旅行者が集まるタメル地区を歩いてみると、けっこうそれらしい靴が店先に並んでいます。しかし、いざ本気で探し始めると、やたらにごつい登山靴とか、値段の高い靴ばかりで、トレッキング以外にも使えそうな、軽くてシンプルで、そこそこ安いタイプの靴が見当たりません。
かといって、地元の人向けのふつうの運動靴では、トレッキングに使うのにちょっと不安を覚えます。
それでも、時間をかけてあちこち見て回り、ダウンタウンの商店街で、ほどほどに丈夫そうで、それなりに安い、韓国製のトレッキングシューズを見つけました。
これまで長いあいだ待ち焦がれていた新しい靴が、ここでようやく手に入ったのです。
気に入った靴に、久しぶりにめぐり会えたことで、旅がまた新しく始まるような、ワクワクした気分になりました。
そして同時に、これまでひたすら旅に貢献してくれた先代の靴と、ようやくお別れができそうな気がしました。
しかし、トレッキング前に足慣らしでもしておこうと、新しい靴に履き替え、カトマンズの郊外を半日歩いて帰ってきたら、靴の中敷きがボロボロに崩れていました。
何年も店晒しになっているうちに、素材が劣化していたのか、最初からそういう品質だったのか、理由は分かりませんが、始めからいきなりケチがついた格好で、こんな靴で大丈夫なのか不安になりました。
とりあえず、街の修理屋で中敷きを適当に張り直してもらってから、ヒマラヤのランタン谷へトレッキングに出かけたのですが、案の定、目的地のキャンジン・ゴンパまであとわずかというところで、ひざを痛めてしまいました。
靴のせいなのか、私の足の運び方が悪かったのか、靴に慣れる時間が足りなかったのか、これも原因はよく分かりません。ただ、先代の靴を履いていたときには、山をいくら登り下りしようが、何十キロ歩こうが、全く何の問題もなかったことを考えると、やはり新しい靴との相性に問題があったのだろうという気がします。
それでも、せっかくここまで来たのだからと、キャンジン・ゴンパに数日滞在し、近くの山頂に登ってみたり、ちょっと無理をして、片道数時間をかけて、谷のさらに奥へと歩いてみたりしました。
ひざの痛みは、日毎に強くなっていきました。
親切なトレッカーが薬を分けてくれたので、とりあえず応急処置をしてみましたが、痛みはとれません。
こんなとき、金持ちの観光客なら、ヘリコプターで下界まで運んでもらうのでしょうが、貧乏バックパッカーとしては、一度登ってしまったら、自分の足で下まで歩くという選択肢しかありません。
せめて杖でもあればよかったのですが、それも持ち合わせていなかったので、痛みをこらえ、足をひきずり、大変な思いをしながら、バスが発着する村まで何とかたどり着きました。
それ以降、旅が終わるまで、その靴を使い続けはしたのですが、その後、山を歩いたり、トレッキングをするような機会はなかったし、靴には最後まで愛着を持てないままでした。
つい、昔の話をダラダラと書いてしまいました。
こうした体験に、何か教訓めいたものがあるとしたら、当たり前ではありますが、やはり、靴の良し悪しは大事で、信頼できる、いい靴にめぐり会えれば、旅の可能性も大きく広がるけれど、逆なら悲惨なことになる、といったところでしょうか。
そして、いい靴が手に入る場所は決して多くはないし、かといって、スペアの靴を常に持ち歩くのも現実的ではないので、新しい靴に買い換えるなら、そのタイミングも大事です。
もっとも、これはあくまで昔の話で、今ならグローバル化のおかげで、ちゃんとしたブランド品が、どこでも簡単に手に入るようになりつつあるのかもしれません。まあ、場所によっては、とんでもないニセモノをつかまされる可能性もありますが……。
靴に関しては、別の旅でも難儀なことがあったのですが、それはまた別の機会にでも書くことにしたいと思います。
記事 「ビーチサンダルの話」
JUGEMテーマ:旅行
2012.11.27 Tuesday
靴に苦労した話(1)
靴でも何でも、必要になったら、そのつど現地で調達するつもりだったし、長い旅だからといって、事前にあれこれ準備をするのは気が進みませんでした。
きっと、いろいろなことを想定し、それに備えようとしたらキリがなくなるだろうし、できれば、余計な気負いはせずに、ふだんの生活の延長で、そのまま旅に入りたいと思っていたのです。
まあ、今思えば、そうやって、あえて気負わないように努めていたこと自体が、十分に気負っている証拠だったのですが……。
とにかく、私はこれまで使っていたバックパックに、ありあわせの持ち物を詰め込み、とりあえず日本を飛び立ったのですが、実際、旅をするうえで、それで何の問題もありませんでした。
靴に関して言えば、東南アジアの田舎をのんびり旅するだけなら、ほとんど必要ないとさえ言えるかもしれません。
宿の周辺を散歩したり、近所に食事に出かけたり、市場をひやかしたりする程度なら、現地で買った安物のビーチサンダルで十分です。
それでも、ちょっと遠出をしたいときや、長距離を移動する日には、靴があったほうが便利だし、安全でもあります。特に移動中は、荷物を背負ってダッシュしたり、汚れた公衆トイレに足を踏み入れたりと、いろいろなことが起こりうるし、何よりも、靴を履いていた方が荷物が少なくなります。
そんな感じで、いったん日本を離れてしまうと、靴の出番はそれほど多くはなかったのですが、2か月ほど経って、大都市のクアラルンプールに滞在していたとき、どしゃぶりの雨の中、川のように水があふれる街中を歩いていたら、靴がすっかりずぶ濡れになりました。
まあ、濡れただけなので、洗って乾かせばいいのですが、そのときふと、新しい靴を買おうと思いつきました。
近いうちに、どこかでトレッキングをするつもりだったので、以前から、もう少しちゃんとした靴を探そうと思ってはいたのですが、何となく先延ばしにしていました。
しかし、このまま田舎に移動したら、しばらくそういう買い物ができる機会もないでしょう。
買うなら今しかない、むしろ、このチャンスを逃したら大変だという気がしてきて、そうなるともう、靴のことしか考えられなくなりました。その勢いで繁華街のスポーツ用品店に直行し、某有名ブランドの、トレッキング・シューズ風のスニーカーを購入しました。
値段は日本と同じくらいで、けっこう高かったし、本格的なトレッキング用というわけでもなかったのですが、一目見て気に入りました。それに有名ブランドなので、それなりの品質も期待できそうでした。
その後、その靴で何度かトレッキングに出かけたり、街中をひたすら歩き回ったりと、かなり酷使しましたが、特に何の問題もなく、大いに役に立ってくれました。
しかし、その靴を買ってから1年数か月が経ち、中国のトルファンにたどり着いたとき、ふと気になって靴をよく見てみたら、靴底はすり減って溝が消えかけ、つま先には穴が開きかかっています。
これまで、足に何の違和感も感じなかったので、靴の状態に全く注意を払っていませんでした。暑い東南アジアから東アジアに移動してからは、ほとんど毎日履いていて、まるで自分の一部みたいになっていたので、かえって気づくのが遅れたのかもしれません。
それはともかく、これはヤバイと思いました。
これから先、カシュガルに向かったあと、南下して崑崙山脈を越え、西チベットに抜けるつもりでした。しかもチベットでは、カイラス山巡礼などで、かなりの距離を歩く予定です。
穴が開きかけたボロ靴で、その旅を無事に乗り切れるとは思えません。
ほんの1か月前までは香港にいたので、そのときに気がついてさえいれば……と、非常に後悔したのですが、後の祭りです。
気を取り直し、トルファンの街で新しい靴を探してみたのですが、当時の中国の田舎では、自分が欲しいと思うような靴は見当たりませんでした。もちろん、地元の人たちが履くような靴は売っているのですが、悪路や長距離を歩けそうなタイプではないし、耐久性にも問題がありそうです。
こうなったら、地元の人たちに合わせるしかないのかな、と思いました。
これまで、アジアの国々を旅していて、田舎の人たちが、実に粗末な靴やサンダルで、険しい山道を平気で歩いているのを何度も見てきました。
別に彼らだって、好きでそうしているわけではないのですが、それでも、身近で手に入るものだけで、たくましく生活している人々の姿には、常々あこがれのようなものを感じていました。
だったら、これを機会に、自分も快適な靴を求めるようなぜいたくはやめて、むしろ、その場で手に入る靴に自分を合わせていくべきではないか……。
そんな殊勝なことを考え、ためしに、人民解放軍御用達みたいな、20元くらいの安物のズック靴を買い、さっそくその辺を歩いてみました。
これはダメだと思いました。
靴底がやたらと固くて、地面からの衝撃が頭まで響いてくるし、靴の形も足に全然合っていません。生地もゴワゴワで、足が擦れてすぐにマメだらけになりそうです。
体がこの靴に慣れるまでに、一体どれほどの時間がかかるのか想像もつきませんでしたが、それまで延々と続くであろう苦痛の日々を思うと、気持ちが一気に萎えました。
それに、万が一足を痛めたりしたら、旅に支障が出るだけでなく、もっと大きなトラブルを背負い込むことになるかもしれません。
私はすぐに現実路線に戻り、破れかけた靴を修理して、だましだまし履き続けることに決めました。
(続く)
記事 「靴に苦労した話(2)」
JUGEMテーマ:旅行
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