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2015.09.22 Tuesday
「インド病」の新理論!?
先日、バックパッカー向け雑誌『旅行人』元編集長の蔵前仁一氏が、ブログで面白い記事を書いていました。
インド病と腸内フローラ 旅行人編集長のーと
「インド病」とは、マラリアやデング熱のような、熱帯地方に蔓延する怖い病気ではなく、インドに行った人が経験するといわれる、奇妙で強烈な違和感のことです。
記事 インド病
記事 旅の名言 「僕は変な病気を……」
インドを旅した人や、現地で暮らした駐在員の中には、帰国後、日本の社会がすごく変に感じられたり、インドのことが頭から離れなくなったりといった「症状」を呈する人がいるのですが、インドに関わったことのある人々は、そういう激しい逆カルチャーショックのことを、多少のユーモアを込めて、昔から「インド病」と呼びならわしているのです。
ウィキペディア 「カルチャーショック」
蔵前氏は、冒頭に挙げたブログ記事の中で、この「インド病」の原因が、インド滞在中に生じた腸内フローラの変化にあるのではないかという、大胆な仮説(?)を提示しています。
腸内フローラとは、腸内の多種多様な細菌などが作り出している、一種の生態系のことで、最近では、その構成パターンが、私たち宿主の健康状態はもちろん、場合によっては性格までも左右しているのではないかといわれ、人々の注目を集めています。
ウィキペディア 「腸内細菌」
たしかに、インドに長居している人の腸内細菌が、食事や生活環境を通じて、次第に現地での暮らしに適したパターンに変わっていくことは十分に考えられるし、人によっては、性格までもが「インド化」してしまうことも、もしかしたらあり得るのかもしれません。
そして、そうやって「インド化」した状態で日本に帰れば、今度は当然、日本の食事や生活に対して、大いに違和感を感じるだろうし、そこから日本向きの腸内フローラに戻るためには、もう一度、苦労して適応のプロセスをやり直さなければならなくなる、というわけです。
もっとも、私は専門家ではないので、学術的にみて、こうした説明がどこまで妥当なのかは分かりません。それにもちろん蔵前氏も、こういう話を半分ジョークとして書いているのでしょう。
ただ、「インド病」のような、旅人が経験するさまざまな違和感を、少しだけマジメに考えてみようとするなら、人間の心と身体がつねに連動している以上、心の領域で起きるカルチャーショックだけでなく、腸内フローラの変化のような、身体の領域で起きているプロセスまでも、きちんと考慮に入れる必要があるのかもしれません。
そういえば、海外生活者の体験として、現地で暮らし始めて数か月の時点で、ひどい体調不良になったり、現地の料理を全く食べられなくなったりと、苦しさがピークに達するものの、それを何とか乗り越えると、現地の食事や生活に違和感を覚えなくなる、といったような話を何度か見聞きしたことがあります。
例えば、旅行作家の下川裕治氏も、かつて一家でバンコクに暮らしたときの体験を書いています。
インド病と腸内フローラ 旅行人編集長のーと
「インド病」とは、マラリアやデング熱のような、熱帯地方に蔓延する怖い病気ではなく、インドに行った人が経験するといわれる、奇妙で強烈な違和感のことです。
記事 インド病
記事 旅の名言 「僕は変な病気を……」
インドを旅した人や、現地で暮らした駐在員の中には、帰国後、日本の社会がすごく変に感じられたり、インドのことが頭から離れなくなったりといった「症状」を呈する人がいるのですが、インドに関わったことのある人々は、そういう激しい逆カルチャーショックのことを、多少のユーモアを込めて、昔から「インド病」と呼びならわしているのです。
ウィキペディア 「カルチャーショック」
蔵前氏は、冒頭に挙げたブログ記事の中で、この「インド病」の原因が、インド滞在中に生じた腸内フローラの変化にあるのではないかという、大胆な仮説(?)を提示しています。
腸内フローラとは、腸内の多種多様な細菌などが作り出している、一種の生態系のことで、最近では、その構成パターンが、私たち宿主の健康状態はもちろん、場合によっては性格までも左右しているのではないかといわれ、人々の注目を集めています。
ウィキペディア 「腸内細菌」
たしかに、インドに長居している人の腸内細菌が、食事や生活環境を通じて、次第に現地での暮らしに適したパターンに変わっていくことは十分に考えられるし、人によっては、性格までもが「インド化」してしまうことも、もしかしたらあり得るのかもしれません。
そして、そうやって「インド化」した状態で日本に帰れば、今度は当然、日本の食事や生活に対して、大いに違和感を感じるだろうし、そこから日本向きの腸内フローラに戻るためには、もう一度、苦労して適応のプロセスをやり直さなければならなくなる、というわけです。
もっとも、私は専門家ではないので、学術的にみて、こうした説明がどこまで妥当なのかは分かりません。それにもちろん蔵前氏も、こういう話を半分ジョークとして書いているのでしょう。
ただ、「インド病」のような、旅人が経験するさまざまな違和感を、少しだけマジメに考えてみようとするなら、人間の心と身体がつねに連動している以上、心の領域で起きるカルチャーショックだけでなく、腸内フローラの変化のような、身体の領域で起きているプロセスまでも、きちんと考慮に入れる必要があるのかもしれません。
そういえば、海外生活者の体験として、現地で暮らし始めて数か月の時点で、ひどい体調不良になったり、現地の料理を全く食べられなくなったりと、苦しさがピークに達するものの、それを何とか乗り越えると、現地の食事や生活に違和感を覚えなくなる、といったような話を何度か見聞きしたことがあります。
例えば、旅行作家の下川裕治氏も、かつて一家でバンコクに暮らしたときの体験を書いています。
娘たちの病状は元旦の日に悪化した。まず長女が高熱を出し、おなかが痛いと訴えた。これは普通の風邪とは違うような気がした。その頃は、バンコクに暮らし始めて、ちょうど三カ月が経つ頃だった。僕には思いあたる病気があった。海外で暮らし始めて三カ月が経つ頃、原因不明の高熱や下痢に襲われることがあるのだ。海外で暮らすということは、今まで以上の適応を体に要求する。まず水が変わる。食べ物も変わる。気候も変わる。そんな諸々のストレスが体に溜まり、一気に噴きだすのがこの病気のようだった。僕自身、この病気は二、三回、経験していた。海外暮らしが長い日本人には、同じ体験をもつ人が多い。
「まあ、いってみれば、その国に暮らしていいという通過儀礼のようなもんですな」
といえるのは、その病気が去ってからであって、そのときはもう大変なのである。熱にうなされ、下痢に苦しむ。大人だったらそれでも通過できるが、子どもとなると……。
下川裕治著『バンコク下町暮らし』より
この本の紹介記事
こういう身体の不調と、腸内フローラとの間に、何らかの関係があるのかどうかについては、もちろん私には分かりません。
ただ、人間の細胞の多くは、数か月のうちに、新しく生まれた細胞に入れ替わるといわれているので、異国で暮らし始めた人の身体は、数か月後には、そこで食べたモノや飲んだ水を材料として「現地生産」された身体に、ほとんど切り替わってしまうことになります。もしかすると、そうやって身体が「現地仕様」に替わるタイミングが、心身の不調と関わっているのかもしれません。
ウィキペディア 「新陳代謝」
下川氏のいう「三カ月」という数字は、そうしたタイミングについて、多くの海外生活者が、学術的な理論はともかく、自らの体験を通じて割り出した、生活の知恵のようなものなのでしょう。
いずれにしても、地球上をあちこち移動し、生活の拠点を変えるということは、たぶん、本人が自覚している以上に、心身にかなりのインパクトを与える行為であって、場合によっては、「自分とは何か」という、アイデンティティの根幹を揺るがすほどの結果をもたらすこともあるのだということを、改めて思います。
蔵前氏がインドに行ってから、体質がすっかり変わってしまったように、一度でもどこかの国で暮らしてしまうと、再び日本に戻ってきたからといって、その心身が、出発前と全く同じ状態に戻るわけではありません。
腸内フローラの例でいえば、インドや他の国々で加わった「新メンバー」の細菌たちは、おそらく、宿主である旅人が日本に帰ってきたあと、その勢力が多少は衰えるにしても、そのまま腸内に居残り続けるのだろうと思います。そして、彼ら新参の「移民」たちは、昔から腸内で暮らしている「先住者」たちと、光も差さない真っ暗な腹の中で、激しい抗争を繰り広げつつ、やがて、新しい均衡状態を生み出していくことになるのでしょう。
帰国した旅人の心が、出発前とはすっかり変わってしまっているように、旅人の腹の中も、きっと、出発前とは別の世界になっているのです……。
JUGEMテーマ:旅行
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