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海外旅行をめぐる暗い見通し
先日、日本政府が、緊急事態宣言の対象をすべての都道府県に拡大しました。
すでに、海外への旅行はほとんど不可能になっていましたが、これで国内の旅行も難しくなりました。外出自粛要請に罰則規定はないので、この状況でも旅に出る人はゼロにはならないでしょうが、そういう人々に対する周囲の目は確実に厳しくなると思います。
先月、このブログで、もしも自分が海外旅行中だったら、旅を続けるだろうか、それともやめるだろうかと、その時点でのニュースをもとに、自分なりに考えてみたりしたのですが、その後、事態はものすごいスピードで悪化して、国内でも、海外でも、旅を続けるという選択肢がなくなってしまいました。
記事 もしも今、自分が旅に出ていたら
ほんの1か月前の自分の見通しが、いかに甘かったか、痛感せざるを得ません。
しかし、私の場合は、机上の空論が吹き飛ばされただけで済みましたが、実際に海外を旅していたり、海外で暮らしている人にとって、現実はずっと厳しいことになっています。現地で足止めされ、今なお帰国できずにいる留学生や旅行者があちこちにいるし、海外で長年暮らしている日本人の中には、リスクを十分に承知の上で、あえて帰国せず、現地に踏みとどまる覚悟をしている人も多いと思います。
今は、驚くようなニュースがあまりにも多くて、そうした一人ひとりの苦境や覚悟には、なかなかスポットライトが当たりませんが、多くの人が、数週間前にはまったく想像できなかった状況に投げ込まれ、先が全く見えない不安の中で、自分たちにとって最善の選択をするべく、手探りの日々を続けているのではないでしょうか。
もっとも、先が見えないという点に関しては、日本で暮らしている私たちも同じなのかもしれませんが……。
いずれにしても、この先、かなり長い期間、下手をすると数年にわたって、これまでのような海外旅行ができなくなるだろうということが、ほぼ確実になってしまいました。新型コロナウイルスのワクチンが完成するか、集団免疫が成立するまでの間、旅行者には、異国の地で感染し、そこで重症化する可能性がつきまとうことになります。
もちろん、冷静に考えれば、旅がそれほど長くない場合、海外でウイルスに感染する確率はかなり低いだろうし、他にも、例えばデング熱など、ワクチンも効果的な治療法もない危険でやっかいな病気はいくつもあるので、新型コロナウイルスばかりを特別扱いしたり、心配しすぎるのはおかしい、という見方もできないわけではありません。
ただ、実際には、そこまで割り切れない人の方がずっと多いのではないでしょうか。今回、マスメディアによる大量報道を通じて徹底的に植えつけられた「恐ろしいウイルス」というイメージは、この先もずっと、私たちの判断に大きく影響することになるような気がします。
それに、今後数年の間は、世界のどこで局地的な感染拡大が起きるか分からないし、それに旅人が巻き込まれると、かなりやっかいなことになるのも確かです。せっかく開いた国境が再び閉じたり、移動や外出がいきなり制限されて立ち往生する可能性は常に存在するし、慣れない異国での闘病生活とか、国によっては非常に心もとない医療体制を想像してしまうと、実際のリスクがそれほど高くはなくても、多くの人はわざわざ遠くまで出かけたいとは思わないのではないでしょうか。
さらに、私たち自身が旅のリスクをどう考えるかだけではなく、現地の人が、旅人を迎え入れるリスクをどのように考えるかも、これからは、無視できない大きな問題になってくるでしょう。
もしも、旅人がウイルスに感染して重症化した場合、かりに現地できちんとした病院に入院できたとしても、貴重なベッドや医療機器やスタッフの対応能力を外国人が占有することで、地元の誰かが生き延びるチャンスを奪うことになってしまうかもしれません。もちろん、その逆に、旅人の方が後回しになって、入院できないこともあり得ると思います。そしてその場合、宿のスタッフなど、現地の見知らぬ人たちが、感染のリスクを冒してまで旅人の面倒を見てくれるのだろうかという、さらに難しい問題に直面することになります。
そういったことを考えると、今後しばらくの間は、世界のどこであれ、医療インフラに余計な負担をかける可能性のある外国人旅行者は、現地の人たちにとっては、迷惑な存在でしかないのかもしれません。最悪の場合、旅行者が、自分でも気がつかないうちに、感染を広める原因になってしまうことだってあり得るのですから。
もっとも、今回のパンデミックとは関係なく、昔も今も、旅にはそれなりのリスクがつきものだし、旅行者も、それを受け入れる側の現地の人たちも、ある程度、そのことは認識しているはずです。
しかし今回は、ウイルスがもたらす病気だけでなく、それが社会や経済に与えたインパクトが大きすぎます。多くのビジネスが壊滅的な打撃を受け、真偽不明の情報が大量に飛び交い、世界中の人々が先行きへの不安や恐怖を感じています。それらが社会的な争いや少数者への差別など、ネガティブな行動に結びつきかねないことを考えると、国際的な人間の移動のリスクがとても高くなっていると言わざるを得ません。
例えば、新型コロナウイルスが中国から広がったということで、たぶんこの先何年も、ひょっとしたらもっと長期間にわたって、世界中の非常に多くの人々が、中国や中国人に対して厳しい目を向けることになるかもしれません。中国政府の高官はともかく、市井の人々には何の罪もなく、むしろ被害者という意味では、世界中の人々と全く同じ立場なのですが、みんながそのように考えるわけではなく、自分が「敵」と認定した誰かに、怒りや不満をぶつけようとする人は少なくないと思います。
そうなると、中国人と日本人を外見だけで見分けるのは難しいので、私たち日本人旅行者も、世界のあちこちで中国人と誤解され、敵意のまなざしや心ない言葉を浴びせられることになるだろうし、場合によっては、それだけでは済まないかもしれません。常に大勢で固まっていられるグループツアーならともかく、個人旅行で何度もイヤな体験をすれば、かなり心が削られることになるでしょう。
結局のところ、旅をする側がいくら前向きになっていても、移動手段や現地での受け入れ態勢など、旅行が再開できる環境がそれなりに整わなければ、どうすることもできません。特に、現地で旅行者が発症した場合に起きるやっかいな事態を考えると、たとえ旅行産業に依存しているような観光地でも、当面のあいだは、地元から強い懸念の声が出てくるだろうし、そうなれば、ホテルやゲストハウス、旅行者向けのレストランなども、しばらくの間は、大っぴらに旅行者を受け入れることはできないでしょう。
ウイルスの感染拡大がおさまり、治療法や予防法にめどがつき、旅人側と受け入れ側の心理的な恐怖が薄れ、以前のような状況に戻るまでには、繰り返しになりますが、数年以上はかかると考えざるを得ないと思います。
この暗い見通しを受け入れるのは、旅行業界にとっても、旅好きの人にとっても、非常に苦しいことです。こうした苦境は、もちろん、いつかは必ず終わるのですが、その日までの長い間、世界中の膨大な関係者が、どうやったら経済的・心理的に耐え忍ぶことができるのか、私には、いい方法が思い浮かびません。
ただ、旅をする方の側に限っていえば、海外や国内の旅ができない、という事実ばかりに意識を向けてフラストレーションをため込むよりは、早めに意識を切り替え、現時点で自分にできることに目を向けることで、この状況を乗り切っていくしかないのかもしれません。
今は、日本全国で不要不急の外出の自粛が求められているので、個人的な楽しみのための外出や旅行が許される雰囲気ではありませんが、そうした状況でも、食料品の買い出しとか、運動不足解消のための散歩やジョギングの途中で、街のわずかな変化を注意深く観察したり、道端の花に季節の変化を感じたりすることならできます。
世界の果てまで行ったり、息が止まるような絶景を見たり、エキゾチックな文化をまるごと体験したりすることはできませんが、そのかわりに、心の感度を上げ、ごくごく身近な世界にしっかりと焦点を合わせることによって、自分の近所でこれまでずっと見逃していたことや、身のまわりで起きている微妙な変化に気づくことができるようになるし、そこに驚きや面白さを感じとることができるなら、どんなに小さな体験であっても、それを旅と呼んでいいのではないかと思います。
記事 日常が旅に変わるとき
あるいは、緊急事態という今の状況そのものが、まさに非日常なのだから、逆にその異常さの中で、どうやって自分にとってのプラスを見つけ、精神的に乗り切っていくかという試行錯誤のプロセスそのものに、旅のような手応えを感じることができるかもしれません。
例えば、かつて自分が旅先で理不尽な状況に陥ったときのことを思い出したりしつつ、こういう状況の中で、どうしたら冷静さを保てるか、厳しい制約だらけの生活の中で、どうしたらささやかな楽しさや面白さを見つけることができるかを、いろいろと考え、実行に移してみることもできるでしょう。
そうやって、いろいろと工夫をしながら、毎日の出来事を、せめて前向きに受け止めようと奮闘し続けているうちに、やがていつかは外出自粛が終わり、近所を自由に歩き回れる日が来るだろうし、その先には、国内旅行を楽しめるようになる日が、さらにその先には、いくつかの国への渡航が可能になる日が、というように、少しずつ段階を踏みながら、私たちの行動範囲は再び広がり、旅の自由も復活していくでしょう。
そしてその間、身近な世界に向き合うことで鍛えに鍛えた感受性は、次に遠くに出かけるとき、旅人に大きな驚きや満足感を与えてくれるに違いありません。
JUGEMテーマ:旅行
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