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『読み替えられた日本神話』

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

ウィキペディアによれば、神話とは、「物の起源や意義を伝承的・象徴的に述べる説話的物語」です。「日本神話」というと誰もが『古事記』『日本書紀』を思い浮かべますが、そこには、日本という国の成り立ちに関する古代の人々の思考の跡が、当時の姿のままで残されているといえます。

しかし、日本神話というと、どうしても戦前の国家神道の記憶と結びついてしまうし、近代科学における宇宙観・世界観と比較して、古代人の神話的思考を非科学的として低く評価する傾向もあって、学問の世界では、さまざまな先入観なしには扱いづらい分野であり続けているようです。

本書の著者、斎藤英喜氏は、そうした日本神話をめぐる閉塞状態を脱け出すためには、「中世日本紀」と呼ばれる中世の神話世界の研究がカギになるとしています。

 近代的なイデオロギーに封印された日本神話の不幸は、いかに脱却できるのか。その実践的な方法は、読み替えられた日本神話の現場、中世神話を起点とした神話変奏のダイナミズムに身を置くことにある。


私は本書によって、「中世日本紀」の世界を初めて知ったのですが、その「自由奔放な神話世界」は、現代の「トンデモ本」も顔負けです。

 中世日本紀の世界。そこには『記』『紀』神話に伝わっていない、イザナギ・イザナミの両親から棄てられたヒルコのその後の運命、あるいは源平合戦のさなかに失われた三種の神器のひとつ、草薙の剣のその後の行方、あるいは伊勢神宮でアマテラスの食事担当の神だったトヨウケ大神が、天地開闢の始元神、アメノミナカヌシへと変貌していく様子、さらには第六天魔王とか牛頭天王といった、古代神話には登場しない異国の神々さえも活躍していく。もはや仏教とか神道とかいった区別さえも通用しないような世界が繰り広げられていくのだ。
 そしてそのとき、古代神話の最高の主人公にして、天皇家の祖神アマテラスさえも、日本神話の読み替えのなかで、驚くべき姿にメタモルフォーゼしていく。太陽の女神たるアマテラスは女神の身体を脱ぎ捨て、さらにその身は銀色に輝く鱗をもつ蛇体の神へと変貌していくのだ。また太陽神の姿は「虚空」「無相」のメタファーへと読み替えられていく。


ちなみに、「中世日本紀」といっても、そういう名称の特定の書物が存在するわけではなく、中世の人々が、「日本紀」からの引用という形式を使って、元の神話の内容を改竄してしまったり、新たな神話をつけ加えてしまうという、「中世における神話創造のムーブメント」全体を指しています。

従来の学問の世界では、こうした神話世界は、荒唐無稽とか牽強付会と判断されて黙殺されるか、あるいは一部の好事家によって興味本位に取り上げられるだけでした。

しかし、先入観を離れ、そのムーブメント自体を丁寧に研究していくと、そこには、物事の根源を突き詰めていく、中世の人々の信仰と思考実験の現場、あるいは、異質なものが次第に混淆していく状況の中で、新しいビジョンにもとづいて、自由奔放で豊かな神話を生み出していくプロセスが浮かび上がってきます。

そして、そうした神話の「読み替え」という観点に立って、改めて日本の歴史を振り返ってみたのが本書です。古代から現代に至る、「日本列島のうえに延々と続いた神話変奏のプロセス」をたどっていくと、日本神話が、古代の時点で固まってしまった不変のものではなく、絶えず新しい意味をつけ加えられ、新しいビジョンのもとに甦りながら、物事の根源を語る神話としての役割を果たし続けるとともに、時代を超えてイマジネーションの源泉でもあり続けてきたことがわかります。

日本神話への新しい視点を与えてくれる、とても興味深い一冊です。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします

at 19:05, 浪人, 本の旅〜ことばの世界

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『村上春樹はくせになる』

文庫増補版(2015年)はこちら(Kindle版もあります)

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

私はかつて、村上春樹氏の小説やエッセイが好きで、手当たり次第に読んでいたことがあります。

その後、長い旅に出たりして、しばらく本から遠ざかっている間に、その習慣は途絶えてしまいましたが、最近、村上氏の作品が世界中で読まれているという話や、ノーベル文学賞の候補にもなったらしいという話を聞き、かつて抱いていた関心が甦ってきました。

実は、正直に言うと、私は村上作品のどこが魅力的なのか、自分ではうまく説明することができません。物語の展開自体は「凄い!」と感じるほど劇的ではないし、よく出来たエンターテインメントのようにスッキリ爽快な読後感があるわけでもありません。

読み終わるといつも、何か分かったような分からないような、何か重大なことが語り残されているような、モヤモヤとした感じが残るのです。それでも、小説全体に何とも表現しようのない独特の魅力があって、やがてまた別の作品を読みたくなるのです。

本書の『村上春樹はくせになる』というタイトルは、まさにこの私の「感じ」にピッタリでした。このタイトルに惹かれ、今まで抱いていたモヤモヤ感に言葉を与えてもらえるかもしれないと思い、早速読んでみることにしました。

私は今までに、村上作品について批評や解説をした本は一切読んだことがないので、他の本との比較はできないのですが、この本はとにかく文章がとても分かりやすく、書かれている内容も大いに納得できるものでした。

本書では、書かれた年代順に長編作品が一つ一つ丁寧に解説され、村上作品に漂う孤独感・喪失感・死の気配、コミュニケーション不全や「生きづらさ」を抱える登場人物たち、謎と迷宮、象徴と寓意の多用など、作品を特徴づけるさまざまなポイントが明かされていきます。

年代順に作品を振り返ることで、デビュー作以来、村上氏の作品が冒険的なモデルチェンジを繰り返しながらも、一貫した主題を追い続けていることが示されるのですが、清水氏によれば、その主題とは、「人間の心には得体の知れない暗闇の部分が隠されているというヴィジョン」です。

 

 

われわれはその闇の力から逃れることができない。われわれの内部の奥深くにそれは存在していて、心を操ったり、自分と他人を損なったりしている。それによって損なわれたものを取りもどそうとすれば、恐ろしいその力と全力で闘わなければならない。何冊か彼の小説を読むと、読者はその主題に自然と馴染んでくる。そして姿かたちを変えて繰りかえし現れる「闇の力」に対する解読力ができてくる。村上春樹の最近の作品で「闇の力」はどんどん入り組んで難解になってきているが、それまでの蓄積があると、けっこう読み解きやすいのである。何だか自分の一部のような懐かしささえ、ふと抱いてしまうのだ。

 


もちろん、村上春樹氏の作品は、象徴と寓意に満たされているということもあって、読者によるさまざまな解釈の余地があり、作品から何を受け取るかは、読者それぞれに任されていると言えます。

また、作品を知的に解読したり、様々な解釈に頭を悩ませなくても、村上氏の小説を読むこと自体が楽しければ、読者としてはそれで充分なのだとも言えます。

ただ、私のようにモヤモヤ感を抱え、村上作品を知的な側面からも理解したいと考えている人がいるとしたら、こうした「解読本」を読んでみるのもいいかもしれません。特に、村上氏の長編を既に何冊か読んだことのある方におすすめしたいと思います。



本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします

 

 

 

at 18:48, 浪人, 本の旅〜ことばの世界

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『世界の紛争地ジョーク集』

Kindle版はこちら

 

評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください

本書は、ルポライターの早坂隆氏が、世界各地の紛争地や貧困地帯で自ら収集したジョークに、各地の専門家から教えてもらったネタも加えて、国別に構成したものです。

中近東、旧ソ連と東欧の国々が中心ですが、国を持たない人々としてロマ(ジプシー)やクルド人のジョークも取り上げられているほか、少数ですがアジアの国々のジョークも収められています。

「世界の紛争地」のジョーク集ということで、政治的なネタや、かなり強烈なブラック・ジョークが多いのかと思ったのですが、日本の「吉四六(きっちょむ)さん」や「一休さんのとんち話」を思わせるような、伝統的でおおらかなジョークも多く収められていて、楽しく笑える部分もあります。

ただ、それぞれのジョークの解説を通じて各国の事情を知ると、あまり笑っていられない気分になるのも確かです。

ある意味では、こういうジョークが、悲惨な生活に耐え抜くために生まれてきたということや、早坂氏が指摘しているように、「紛争下や圧政下でジョークがさらに生まれ、発展する」ことも考え合わせると、秀逸なジョークにつられて笑うたびに、何ともいえない切なさにも襲われるのです。

今の日本も「お笑い」が席巻していますが、それはどうしてだろうと、ふと考えてしまいました。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします

at 18:50, 浪人, 本の旅〜ことばの世界

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