このブログ内を検索
新しい記事
記事のカテゴリー
            
過去の記事
プロフィール
            
コメント
トラックバック
sponsored links
その他
無料ブログ作成サービス JUGEM

『放っておいても明日は来る ― 就職しないで生きる9つの方法』

高野 秀行,二村 聡,下関 崇子,井手 裕一,金澤 聖太,モモコモーション,黒田 信一,野々山 富雄,姜 炳赫

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本は、辺境作家の高野秀行氏が上智大学で行なった「東南アジア文化論」の講義が元になっているのですが、本のタイトルからも明らかなように、内容は全然堅苦しくありません。

高野氏は講義にあたり、小難しい理屈はやめにして、東南アジアを生で体験している人々をゲストに呼んで話を聞く形式をとったのですが、そのゲストは、現地で会社を興したり、組織に属さずフリーで仕事をしているユニークな人たちばかりです。

講義はおのずと、東南アジアの文化を語るというよりは、彼らがそれぞれどんな風に自分の人生を切り開いていったのか、その波乱万丈のストーリーを語る場になってしまったのでした。

ダイエットのつもりでキックボクシングを始めたら、いつの間にかタイでプロのムエタイ選手になっていた女性とか、ミャンマーの辺境ツアーの現地手配会社を立ち上げた男性、バンコクで多国籍バンドを結成した女性や、ラオスで居酒屋を開業した男性……。

この本には、こうしたゲスト8人の話と、最後に高野氏自身の体験談(インドで無一文になった話がすごい!)が収められています。

時には失敗も重ねながら、自分のやりたいことを実現しつつ人生を切り開いてきた彼らの話が、就職活動中の学生を励ますのにピッタリということもあって、本自体も一応そういう体裁でまとめられていますが、もちろん学生に限らず、誰でも笑いながらサラッと読める内容になっています。高野氏が、ゲストから面白いエピソードを巧みに引き出していて、講義というよりはお笑いトークショーといった感じです。

もっとも、彼らの生き方に大いに魅力を感じはしても、いざ自分も同じように一歩を踏み出せるかとなると、なかなか微妙なところです。彼らのような生き方を選んだ場合、失礼ながら、収入は決して多くはないだろうし、仕事は不安定だし、何をどうするか全部自分で決めて行動し、その責任もとらなければなりません。将来の安楽な生活を保証してくれるものは何もないのです。

だから、延々とつづく就職活動に疲れ果てた学生がこの本を読んで、自分にもさまざまな人生の可能性があるのだという事実に心の慰めを感じるとしても、やっぱり何だかんだと言いながら、結局は彼らのほとんどが気を取り直し、再び大手企業への就職を目指すことになるんだろうな、という気はします。

もっとも、たとえ何とか大手企業にもぐり込んだところで、決して安楽な人生が保証されるわけではないのですが……。

高野氏は、この本のゲストの人々を、「やってしまった人たち」と呼んでいます。考えているだけでなく、何かのきっかけで実際に行動に移し、その結果、多くの物事は案外、見かけよりも簡単に実現できるということを、体験を通じて知ってしまったという意味で。しかし、多くの人にとっては、あとさきのことを考えず、思い切ってその最初の一歩を踏み出すことこそが、一番難しいのかもしれません。

やはり人間、土壇場まで追い詰められるか、それとも、何がなんでもやらずにはいられないような、熱い思いに引きずられでもしないかぎり、自分の思考が作り上げている自分の限界をなかなか超えられないのではないでしょうか。

それにしても、この本に登場するゲストのハチャメチャな生き方と、彼らの多くが東南アジアを仕事の舞台にしていることとは、単なる偶然のつながりではない気がします。

行き当たりばったりに見える行動をしていながら、ときには大きな失敗もしながら、それでも彼らの前にそれなりの活路が開けていくのは、そういう行動を受け止めることのできるアジア的ないいかげんさというか、包容力みたいなものが、そこにあるからなのかもしれません。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 19:12, 浪人, 本の旅〜人間と社会

comments(0), trackbacks(0)

『約束された場所で ― underground 2』

評価 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください

この本は、サブタイトルに「underground 2」とあるように、先日紹介した村上春樹氏の『アンダーグラウンド』の続編となる作品です。

『アンダーグラウンド』で、村上氏は地下鉄サリン事件の膨大な証言を集め、事件当日に東京で何が起きていたのか、被害者の視点から描き出そうとしました。今回は視点を変え、事件を起こしたオウム真理教(当時)とは何であったのか、信者・元信者8人への長いインタビューと、心理学者の河合隼雄氏との対談を通じて、その本質に迫ろうとしています。

インタビューでは、それぞれの人物の生い立ちや人生観・世界観、教団に入ったきっかけ、教団内での活動、サリン事件に対する思いなど、かなり詳しく踏み込んだ質問を行っています。彼らの中には、出家信者もいれば、そうでない人もいて、教団内での活動も暮らしていた場所もそれぞれに違います。また、すでに脱会して教団に批判的な人もいれば、そうでない人もいます。

その内容には、やはりショッキングな箇所もあります。修行と称して独房に監禁されたために、隙をついてサティアンから必死で逃げたという人もいれば、電気ショックで記憶を消されたという人もいます。その一方で、充実した修行の日々を語る人もいます。

私たちの多くにとって、オウムは今でも「正体不明の脅威=ブラックボックス」であり続けていると思うのですが、こうした詳細なインタビューを読むことで、それが、それぞれの人生を抱えた生身の人間によって成り立つ組織であったことが少しずつ見えてきます。これまでマスメディアによって提示され続けてきたステレオタイプな見方から脱するという点で、この本を読むことには、それなりの意味があると思います。

ただ、この本を手に取る人がたぶん一番知りたいだろうことは、仏教系を標榜する宗教団体、少なくとも建前としては、よりよい人生を求めて厳しい修行に励み、ゴキブリ一匹殺さないような出家生活を営んでいたはずの人々の集団が、どうして一般市民への無差別テロを起こすことになったのか、つまり、教団が巨大化していく過程で、その内部で一体何が起きていたのかという点だと思うのですが、インタビュー自体からは、残念ながら、そうした点について十分に納得のいく証言は得られませんでした。

まず何より、数人へのインタビューからだけでは、やはり教団の活動の全貌は分からないし、証言者も教団幹部ではないので、サリン事件とのかかわりについて、その詳細を直接知る立場ではありませんでした。

また、この本では、オウムの教義やその独特の専門用語、教団組織について、特に詳しく解説されているわけではないので、事件当時のマスコミ報道の記憶が薄れている人や、事件自体を知らない若い人は、そうした予備知識なしにインタビューを読んでも、何の話をしているのか分かりにくいかもしれません。

それでも、巻末の対談では、特に河合隼雄氏が、善と悪の問題や、閉鎖的な集団が陥りがちな危険、あるいは現代の日本社会が抱える問題などについて、かなり踏み込んだ発言をしていて、とても興味深く、事件について考える上での貴重なヒントになるように思います。

それにしても、この本は、『アンダーグラウンド』にも増して、読んでいて不安を覚える本でした。

オウム信者・元信者の生い立ちを読むと、彼らは決してエイリアンのような遠い存在ではなく、私たちとそれほど変わることのない、ごく普通の悩み多き若者たちだったように思えます。社会に対して違和感を覚え、どこにも居場所を見つけることができず、自分は何をして生きていけばよいのか真剣に悩むのは、若者にとって決して異常なことではありません。

たしかに彼らには、ちょっと生真面目すぎるところはあったかもしれません。しかし、そういう人は自分の身の周りにいても全然おかしくない、というより、ある面では、むしろ自分によく似たところさえ感じられて、読んでいると何ともいえない、居心地の悪い気分になってくるのです。

結果的にオウムに引き寄せられていった彼らと、同じような悩みや疎外感を抱えながら、そうはならなかった(より多くの)人々との違いはどこにあったのでしょうか。あるいは、そこに違いなどなく、それぞれの運命の違いは、単なる偶然の結果に過ぎないのでしょうか。

また、事件の前と後とで、日本社会のメインの価値観も社会の仕組みも、本質的には何も変わっていない以上、今後も、同じような宗教に惹かれる人は出てくるだろうし、だとすれば、また同じような問題が繰り返されることになるのかもしれません。

「日本社会というメイン・システムから外れた人々(とくに若年層)を受け入れるための有効で正常なサブ・システム=安全ネットが日本には存在しないという現実は、あの事件のあとも何ひとつ変化していない」という村上氏の指摘が、何とも重く響きます。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 18:58, 浪人, 本の旅〜人間と社会

comments(0), trackbacks(0)

『アンダーグラウンド』

Kindle版はこちら

 

評価 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります

この本は、作家の村上春樹氏が、1995年の3月20日に起きた地下鉄サリン事件に真正面から取り組んだノンフィクション作品です。
ウィキペディア 「地下鉄サリン事件」

村上氏は、事件の被害者とその家族を中心に、60名以上の人物に直接インタビューを行い、さまざまな視点からの膨大な証言を通じて、事件当日の朝、東京の地下で何が起きていたのかを明らかにしようとしています。

私は、この本の存在は以前から知っていたのですが、今までずっと気が進まず、手に取ることはありませんでした。本の分厚さにたじろいだせいもありますが、やはりそれ以上に、事件のことを深く知ったり考えたりすることへの心の抵抗が大きかったのだと思います。事件から15年経った今になって、ようやく読む気になりました。

しかし正直に言って、この本は、読めば読むほど気が滅入ります。これは、村上氏の仕事の質の高さとは別の問題で、陰惨な事件を追体験する以上、仕方のないことではあるのですが、その点で、すべての人にお勧めできる本ではありません。

特に、重い障害を負ったり亡くなられたりした被害者の家族の言葉を読んでいると、何ともやるせない気持ちになり、読むのが本当に辛くなります。

村上氏は、この本の取材にあたって、事件当日、人々が現場で何を見て、何を感じ、何を考え、どういう行動をとったのか、被害の程度やその後の経過がどうだったか、また、事件が人々の人生にどんな影響を与えたかを聞くだけでなく、証言者の生い立ちや仕事について、あるいは日頃の生活や家族との関係、趣味のことなど、事件とは一見かかわりのないさまざまなことまで聞き取っています。

そして、限られた紙幅の中にそれらを盛り込むことで、事件に遭遇した人々が、「被害者」という漠然とした存在ではなく、私たちと同じように顔があり、生活があり、性格も人生観もさまざまな、生身の人間であることをはっきりと示そうとしています。

しかし、だからこそ、人々の言葉の一つひとつが生々しく迫ってきて、彼らの感じている苦しみをそのまま受け流すことができなくなります。また、これを読んでいる自分も、同じような理不尽な暴力にいつ巻き込まれるか分からないのだという現実に改めて気づかされ、そこに底知れない恐怖を感じるのです。

それにしても、今回この本を読んでいて、自分が地下鉄サリン事件について、その概要さえよく知らなかったことに気づきました。事件当時、マスコミはこの事件でもちきりだったし、自分も新聞やテレビをそれなりに見ていたはずなのですが……。

それは、事件後すぐに、報道の焦点がオウム真理教への強制捜査へとシフトしてしまったからなのかもしれないし、あるいは、自分も日常的に公共交通機関を利用する一人として、パニックになるのが怖くて、事件の詳細を無意識のうちに心から閉め出していたからなのかもしれません。

あの当時、事件から数日もしないうちに、街からその痕跡はすみやかに消え去り、被害者は病院の中に姿を消し、マスコミの大々的な報道を除けば、一見すべてが今までどおりに戻ったように見えました。

こんな異様な事件が起きたというのに、街の雰囲気があまりにも平静で、何事もなかったような感じに、何か違和感のようなものを覚えた記憶がありますが、今思えば、事件の落とす暗い影を必死で消し去ろうとしていたのは、私だけではなかったということなのかもしれません。

しかし、巻末のあとがき「目じるしのない悪夢」の中で、村上氏は慎重に言葉を選びながらも、あれほどの暴力を生み出した異常な存在として、私たちが心から毛嫌いしているオウム真理教の「論理とシステム」は、実は、「我々が直視することを避け、意識的に、あるいは無意識的に現実というフェイズから排除し続けている、自分自身の内なる影の部分(アンダーグラウンド)」なのではないだろうかと指摘しています。

私たちが、事件のことを必死で心から締め出そうとするのは、村上氏が言うように、この目で見ることを恐れている自らの暗い影に通じる何かを、そこに感じとっているからなのでしょうか。もしも、そうであるならなおさら、こういう本を手に取って、事件の実態を知ろうとすることには、それなりの覚悟が必要になるのかもしれません。

ただ、この本の中に、希望や救いが全くないというわけではありません。

証言者の多くは、ある日突然、わけが分からないままに、理不尽で巨大な暴力に巻き込まれ、深い恐怖と苦痛に襲われ、そのあと長い間にわたって苦しみながら、何とかその体験を乗り越え、前向きに生きようとする努力を続けています。

もしも同じ立場に置かれたら、自分にはそうすることができるだろうかと思うのですが、それでも力強く生き抜こうとする人々の言葉には救いを感じます。そして、その言葉をただ読んでいることしかできない私が、むしろ、彼らの言葉に勇気づけられているのを感じます。

事件で亡くなられた方のご冥福と、被害に遭われたすべての方々のご快復をお祈り申し上げます。


本の評価基準

 以下の基準を目安に、私の主観で判断しています。

 ★★★★★ 座右の書として、何度も読み返したい本です
 ★★★★☆ 一度は読んでおきたい、素晴らしい本です
 ★★★☆☆ 読むだけの価値はあります
 ★★☆☆☆ よかったら暇な時に読んでみてください
 ★☆☆☆☆ 人によっては得るところがあるかも?
 ☆☆☆☆☆ ここでは紹介しないことにします



JUGEMテーマ:読書

at 19:19, 浪人, 本の旅〜人間と社会

comments(0), trackbacks(0)